クラウド専業SIerは従来のSIerとどこが違うのか? 夏サミ2015

2015年9月14日

エンタープライズ市場において、クラウドの存在感が非常に高まっている今日。クラウド専業のシステムインテグレータ(SIer)が登場し、注目され始めています。その1つがサーバーワークスで、同社はAmazonクラウドのパートナー制度で数少ないプレミアムコンサルティングパートナーにも選出された1社です。

しかし、クラウド専業のSIerとは従来のSIerとどこが異なっているのでしょうか?

7月29日に都内で行われたイベント「Developer Summit 2015 Summer」(夏サミ2015)では、サーバーワークス代表取締役 大石良氏が、「AWS専業クラウドインテグレータが語る クラウド時代のエンジニア像」と題した講演を行いました。

その講演の中で、クラウド専業SIerと従来のSIerとの違いが詳しく説明されています。講演の内容を、3つのテーマに分けて3本の記事で公開しています。

AWS専業のSIer、サーバーワークス

サーバーワークスの大石と申します。

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私たち、サーバーワークスという会社はですね、おかげさまで最近、少しだけ知られるようになってきたところですけれど、AWS専業のクラウドインテグレータです。

そんな私たちは、マーケットが非常に大きな変革にさらされていて、私たち自身もエンジニアも、これからこういうふうに変わっていかなければいけないのだと、少しずつ分かり始めているところです。

今日は、そこをみなさんと一緒に共有させていただいて、クラウド時代のエンジニア職って、こういうスキル性が必要ではないかということを一緒に考えていこうかなと思っております。

私は苗字が「大石」というものですから、社員から「大石蔵人之助」(おおいしくらうどのすけ)という、あまりありがたくないあだ名をいただいております。

何がありがたくないかといますと、蔵人之助というと最後は、やはり切腹なのですね(笑)。

ということで、私、このお時間の中で、みなさんに何も得るものがなかったなら切腹すると(笑)。そのくらいの勢いで、必ず何か1つお持ち帰りいただけるアイデアを提供させていただくと約束させていただきたいなと思います。

どうしてクラウド専業になったのか?

私たちサーバーワークスという会社は2000年に作った会社なのですけれど、少し変わったサービスをやっておりました。

いまどきの大学の合格発表は、落ちたか、受かったかを全部スマホで見ることができちゃうのです。で、私たちは実はこの分野の60パーセントくらいのシェアがございまして、このサービス自体はいまも継続しているのですね。

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ところが、大学の合格発表は2月の特定の日の朝10時からの15分くらいに集中するのです。この15分のためだけに、サーバーが200台ぐらい必要なのです。

この15分以外は全部、このサーバは無駄なんですね。

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これを何とかしたいと解決策を探していたら、どうもあの本屋であるAmazon.comがサーバを1時間10円で貸してくれるらしいと、そう聞きつけて私はさわってみました。すると、これはすごいと、ITの世界がまるっきり変わってしまうかもしれないと。

そこで2007年からAWSのテスト利用を開始し、2008年に社内にサーバ購入禁止令を出しました。

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2008年から本当にサーバを買っていません。社内のシステムをAWSに乗せて事業が維持できるのか、チャレンジをやってみたのです。

で、いよいよ2009年からは新規のプロジェクトはAWS1本だということで、AWS専業ベンダにかじを切ったわけですね。

最初は苦労したAWS専業インテグレータ

ところがAWS専業のインテグレータとして、最初は非常に苦労しました。

「クラウド? そんなの使えるの?」とか、「Amazon.comの手先?」みたいな、そういうことを言われることが非常に多かったわけです。

そんな事情が一変してしまったのが、こちらのお客様の事例になります。

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震災直後、被災された方がどこに行ったら救急医療を受けられるのか、被災されていない方はどこに行ったら義援金を払えるのか、ボランティアに行けるのか。こういう情報を求めて、日赤のWebサイトにアクセスが集中しちゃったのですね。

それでサイトがダウンしちゃいましたと。

私たちはボランティアで、 AWSが提供しているAmazon EC2という仮想サーバに日赤さんのWebサイトを移して、コンテンツを自動的にキャッシュサーバーにコピーする仕組みも入れました。

この作業、30分でできてしまったのですね。

このあと、テレビ、ラジオなどいろんなところで日赤さんのWebサイトが紹介されましたが、一度もサイトはダウンしていません。

これを30分でやったら、君ら、そんなことができるのなら、これもやってくれないかというふうに言われたのが、義援金の受付システムの構築です。

覚えていらっしゃる方がいらっしゃるかもしれませんけれど、義援金の振込量ってすごい量で、銀行のシステムが止まってしまうほどのトランザクションがありました。

そこで、AWSで使える当時最高スペックのマシンを20数台、それを束ねるロードバランサー。そして、1日に500万通を送れるメールサーバー、そしてデータベースを組み合わせました。

しかも義援金のデータが吹き飛んだら社会問題になってしまいかねませんから、物理的に20キロ以上離れた2拠点間でデータベースの内容を自動的に同期して、バックアップも自動的にやってと。

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私たちはこの義援金を集めるインフラを2時間で作って、48時間でアプリケーションを開発して、それを日赤さんにデリバリーしたのです。

義援金の募集は一昨年の7月、ちょうど震災から数えて丸2年半やっていたのですけれど、3200億円の義援金は全額、私たちがAWSで作ったシステムで管理されてきました。

おかげさまでこの事例が、いろんなメディア等を通じて広く知れ渡るようになりまして、AWSのクラウドって災害時にもちゃんと機能するのだと、AWSを使おうと思ったらサーバーワークスのようなパートナーがいるのだということが広く知られるようになりました。

クラウド時代のいま起きていること

そんな私たちに、いろいろな変化が起きているという話を冒頭にさせていただきました。 私たちだけでなく、AWSをやっていますという大きなSIerさん、すごくたくさんありますよね。実際、日本でAWSをやっていますと表明している会社は300社近くあるそうなのです。

じゃあサーバーワークスは他の大きなSIerと何が違うのですか? という質問をよくされるのですね。これは、私が考えるに、こんな感じです。

大きなSIerさんて、お客さんがのどが渇いたとおっしゃると、何をやるかというとチームを作るのですね。

例えば、調達チーム、品質チーム。

調達チームが何をやるかというと、バケツを買ってくる、川から水を汲んでくる。品質チームが量を測ったり、飲めるものか調べたりする。で、みなさんお察しの通り、それぞれ会社が違うことがあるわけですね。なのであいだをドキュメントでつなぐと。

お客さんがのどが渇いたといっているのにバケツとドキュメントが出てくる。

これがいままでのSIのあり方かなあと思うのですね。

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それに対して、私たちのいわゆるクラウドインテグレータと呼ばれるわれわれがどんなことをやるかというと、アマゾン工場からHとかOを調達してきます。

これをつなげると瞬間的に水になって、お客さんののどの渇きがいえちゃう。こんなことが起きているのですね。

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このHとOを書いたのはちょっと理由があります。

いまAWSには50個くらいのサービスが出てきているのですね。そして1つ1つは何に使うのか全然分からないサービスが結構あるのですよ。

でも、例えばSQSだったりEC2だったり、SimpleDBだったりとか、いろいろ出てきて、これとこれとこれを組み合わせると、こんなことができるのだということが分かってきたのですね。

適切な組み合わせを知っているかどうかが価値に

いままでのオンプレミスのシステム構築では、ハードウェアの調達とセットになりますから、間違ったサーバを買うわけにも行きませんのでミスが許されませんよね。

すると、保険のために大きな会社に頼もう、保険のために大きなハードを買う。こういう行為をどうしてもしがちになってしまう。いままで、それはしょうがなかったと思うのですよ。

それに対してクラウド時代。あとからでもインフラの変更が可能なのですよ。

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すぐに、例えば、20台から2台に減らすとか、こういうことができちゃう。保険をかける必要がないわけですよ。

最適なサイズを見つけるために事前にちゃんとテストをしましょう、というアプローチよりも、ちゃんといまのサイズにアジャストする。こういうアジリティが大事になってくる。

しかも、クラウドですから少ない人数で大量のインフラの管理が可能になります。プログラムで管理ができる。なので、インフラのサイズと人数が比例しなくなるわけですね。

実際、私たちも230台の仮想マシンを2人のエンジニアが3カ月でAWSに持っていって、お客さんのコストを3割カットできた例があります。

クラウドを使うと、適切な組み合わせを知っているかどうかが本当の意味で価値をデリバリーできるかどうかになる。こういう分水嶺が来ているのではないかなあというふうに思いますね。

いままでのエンジニアというのは、作る。何とかして作らなければいけなかった。納期までに作らなければいけなかった。

それに対してクラウド時代、使えるパーツがたくさん世の中に転がっています。

そうすると、どれだけ作らずに使うか、そういうテクノロジーをちゃんと真剣にとらえて、ちゃんとお客さんにデリバリーしよう。こういうことを考えているかどうかが、決定的に大事になってきているのじゃないかなあというふうに思いますね。

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作らないSIへ

作らないSIなんて、昔は絶対不可能だったと思います。でも、いまはクラウドサービスが大量にある。SaaSだけじゃなくて、PaaSもIaaSもいろいろなものが出ている。

そうすると、作らなければならない理由、これがだいぶん減っているはずなのですね。

もちろん、何でもかんでも全部クラウドにできるなんて言いません。作らなきゃいけない、例えば、競争力を維持するため作らなきゃいけないところは絶対に残ります。

いままで、100システムあったときに、100作っていたものが、実はもう、90ぐらいが置き換えが可能じゃないですかというのが、いまの私たちが直面している課題に対する解答なのですね。

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私たちのお客様でも、総合商社の丸紅さんがオンプレミスにあった2000台のサーバを全部クラウドにもっていく取り組みを、私たちと一緒に進めています。

でも、AWSだけで全部完結するわけではないのですね。Salesforce.com、Office365こういうものとAWSを組み合わせて、オンプレミスを、結論としては完全に排除していく。

そして、グループのITの基盤をより強固にしていく。こういうプランを実際に立てていらっしゃるのですね。

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クラウドによってベンダへの要求が、かなり変化しているなというのが、私たちの実感です。

いままでは、保険の能力ですとか人をどれだけ調達できるかが大事だった。

でも、クラウドの時代ですと、スピードですとか、組み合わせ、そして自動化でより少ない人数で大量のインフラを安全に回せるかどうか。こういった能力が決定的に大事になっているなあというのが、私たちの実感です。

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この時代の要請に加えて、私たちの会社のビジョンがあります。「クラウドで世界をもっと働きやすくしよう」というものです。

こういったものを組み合わせると、いま、自分たちもこれは変わっていかなければいけないなというのが、私たちのいまのメッセージです。

夏サミ2015

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Junichi Niino(jniino)
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