生成AIによりプログラマの仕事はなくなるのか? 「私はそうは思わない」とティム・オライリー氏。プログラマの需要はさらに増えると

2025年2月12日

オライリーメディアの創立者ティム・オライリー氏が、同社のブログに「The End of Programming as We Know It」(私たちが知っているプログラミングの終焉)という記事を公開しました

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その冒頭には次のように書いてあります。

There’s a lot of chatter in the media that software developers will soon lose their jobs to AI. I don’t buy it.

メディアでは、ソフトウェア開発者は近いうちにAIのせいで職を失うだろうという話が盛んに流れている。しかし私はそうは思いません。

生成AIの進化は、人間がタスクを与える都自律的にプログラミングを行ったりテストを実行したりするほどの領域に達しつつあり、それを実現するサービスとして「Deivin」や「GitHub Copilot Agent Mode」などが登場しています。

こうした流れを見れば、プログラミングは自動化され、プログラマは仕事を失うのではないかと思うのは自然なことかもしれません。

しかしオライリー氏はこうした考えに反対の立場をとっています。

専門家はさらに専門的なことが可能になる

オライリー氏は記事の中でまず、プログラミングの歴史をバイナリコード、アセンブラ言語、FortraやCOBOL、そしてインタープリタ言語などの歴史、さらにはWindowsやWebブラウザのようなアプリケーションプラットフォームの登場、モバイルデバイスの登場などを振り返ります。

そして、こうした変化が起こるたびにより多くのプログラマが求められるようになり、古いスキルは時代遅れになり、新しいスキルが成功の鍵となったと説明します。

しかし生成AIによるプログラムの自動生成が可能になることで状況は変わり、プログラマの仕事はなくなるのでしょうか?

この問いに、オライリー氏は次のように答えています。

I still don’t buy it. When there’s a breakthrough that puts advanced computing power into the hands of a far larger group of people, yes, ordinary people can do things that were once the domain of highly trained specialists. But that same breakthrough also enables new kinds of services and demand for those services. It creates new sources of deep magic that only a few understand.

私はまだそうは思いません。高度なコンピューティング能力をより多くの人々が手にするブレイクスルーが発生したとき、かつては高度な訓練を受けた専門家にしかできなかったことが、普通の人にもできるようになります。しかし、その同じブレイクスルーによって、新しい種類のサービスとそれらのサービスに対する需要も生まれます。そしてそれは、ごく少数の人にしか分からないような、さらに深い魔法の新たな源泉なのです。

つまり、生成AIによりプログラミングは大衆化するけれども、同時にプログラミングの専門家はさらに専門的なことが可能になるのだ、ということです。

さらに多くのプログラマの需要が発生する

オライリー氏はさらに次のように続けます。

AI will not replace programmers, but it will transform their jobs. Eventually much of what programmers do today may be as obsolete (for everyone but embedded system programmers) as the old skill of debugging with an oscilloscope. Master programmer and prescient tech observer Steve Yegge observes that it is not junior and mid-level programmers who will be replaced but those who cling to the past rather than embracing the new programming tools and paradigms. Those who acquire or invent the new skills will be in high demand. Junior developers who master the tools of AI will be able to outperform senior programmers who don’t.

AIはプログラマに取って代わることはありませんが、プログラマの仕事は変わるでしょう。最終的に、プログラマが現在行っていることの多くは、オシロスコープでデバッグするという古いスキルと同じくらい時代遅れになるかもしれません(組み込みシステムプログラマ以外のすべての人にとっては)。
熟練のプログラマであり、確かな技術ウォッチャーであるSteve Yegge氏は、AIに取って代わられるのはジュニアおよび中級レベルのプログラマではなく、新しいプログラミング ツールやパラダイムを受け入れず過去に固執するプログラマであると指摘しています。新しいスキルを習得もしくは開発できる人は高い需要があるでしょう。AIツールを習得したジュニア開発者であれば、習得していないシニアプログラマーよりも優れたパフォーマンスを発揮できるのです。

そして長い考察を経て、AIによるプログラミングはソフトウェアに対するさらに大きな需要を引き出すとしています。

So yes, let’s be bold and assume that AI codevelopers make programmers ten times as productive. (Your mileage may vary, depending on how eager your developers are to learn new skills.) But let’s also stipulate that once that happens, the “programmable surface area” of a business, of the sciences, of our built infrastructure will rise in parallel. If there are 20x the number of opportunities for programming to make a difference, we’ll still need twice as many of those new 10x programmers!

少々大胆な仮説として、AIとの共同開発によってプログラマの生産性が10倍になるとしましょう(開発者が新しいスキルを習得することにどれだけ熱心であるかによって、生産性の結果は異なるかもしれませんが)。それが実現すれば、ビジネスや科学、インフラ構築といった領域におけるプログラミングにより解決できる範囲も同時に拡大すると見なせるのです。プログラミングにより差別化できる領域が20倍にも広がるとすれば、20倍ものプログラマの需要が発生することでしょう。

生成AI自身がプログラムを置き換えるという見方も

オライリー氏の記事はさまざまな考察を含む長い内容となっているので、ぜひオリジナルも読んでいただくとして、ここでは別の見方も2つほど紹介します。

いまから約2年前の2023年1月、米国コンピューター学会(ACM:Association for Computing Machinery)のWebサイト「Communication of the ACM」に「The End of Programming」という記事が寄稿されました。著者は、人間と自然にコミュニケーションできるAIの開発を目指すFixie.ai社CEO兼共同創設者Matt Welsh氏です。

Welsh氏は次のように書いています。

Programming will be obsolete. I believe the conventional idea of “writing a program” is headed for extinction, and indeed, for all but very specialized applications, most software, as we know it, will be replaced by AI systems that are trained rather than programmed.

プログラミングは時代遅れになるでしょう。私は、「プログラムを書く」というこれまでのアイデアは消えていくと信じています。実際、非常に特殊なアプリケーションを除いて、私たちが知るようなほとんどのソフトウェアは、プログラムではなくトレーニングされたAIシステムに置き換えられるでしょう。

これは今から2年前の記事であることに注意すべきですが、このようにプログラミングによって実現されていた分野そのものが生成AIによって置き換えられる、というのがWelsh氏の意見です。

さらに遡ると2017年、当時テスラのAI部門長(Director of AI at Tesla)であったAndrej Karpathy氏(その後OpenAIへ転職し、最近辞職されたとのこと)も、自身のブログで公開した記事「Software 2.0」で、将来のプログラマはコードを書くのではなく、ニューラルネットワークが望む動きをするようにパラメータを調整するようになると、次のように書いています(Publickeyの記事「テスラのAI部門長が語る「Software 2.0」。ディープラーニングは従来のプログラミング領域を侵食し、プログラマの仕事は機械の教師やデータのキュレーションになるから引用)。

A large portion of programmers of tomorrow do not maintain complex software repositories, write intricate programs, or analyze their running times. They collect, clean, manipulate, label, analyze and visualize data that feeds neural networks.

将来、プログラマの仕事の大部分は、複雑なソフトウェアリポジトリの維持やプログラミングや実行時間を分析することではない。ニューラルネットワークに与えるためのデータを集め、整理し、操作し、ラベル付けや分析、ビジュアル化などを行うのだ。

このように以前はAIそのものが既存プログラムの動作を置き換えるという意見の方が多く見られたように思います。あるいはこれは、もっと先の時期を予測したものなのかもしれません。

いずれにせよ生成AIの登場によってプログラマの仕事も変わっていくでしょう。その変化を受け入れ、対応すべく新たなスキルを身につけることが、この先生き残るために求められることなのでしょう。

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Junichi Niino(jniino)
IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。2009年にPublickeyを開始しました。
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