Rust製ブラウザエンジン「Servo」搭載、新たなWebブラウザ「Verso」の開発プロジェクトが立ち上がる

2024年8月6日

欧州を基盤にオープンでセキュアなインターネットの実現を支援しているNLnet Foundationは、Rust製ブラウザエンジン「Servo」を用いたWebブラウザ「Verso」の開発プロジェクトの立ち上げを発表しました

Versoプロジェクトの立ち上げを発表

Versoの開発は、Electron代替を目指すフレームワーク「Tauri」の開発チームが主導することが、下記のポストで示されています。

TauriはWebViewの問題を他者に頼らず自分たちで解決するために、Versoプロジェクトに取り組むとしています。

TauriはWebVeiwとしてServoを採用へ

Tauriは、HTMLやJavaScriptなどのWebテクノロジーを用いて、デスクトップ対応やモバイル対応のクロスプラットフォームアプリケーションを開発できる軽量なフレームワークです。

特徴として、Rust言語で開発されていること、そしてUI基盤としてOSが備えているWebViewの機能を用いるため、Electron製のアプリケーションで組み込まれるChromiumのようなレンダラの組み込みを不要にしていることです。

参考:Electron代替を目指すRust製フレームワーク「Tauri」がバージョン1.0に到達、Windows/Mac/Linuxに対応

しかしTauriがWebViewの機能をWebkitやChromium、すなわちAppleやGoogleなどが開発を主導しているWebViewに依存することには課題があったと、Versoプロジェクトの立ち上げを発表したNLnetの記事「Servo improvements for Tauri」で次のように説明されています。

The web ecosystem currently lacks a cross-platform, non-corporate controlled system for doing so, meaning that solutions like Tauri need to rely on the platform engines controlled by Apple, Google, and Microsoft. Obviously, this add complexity, has security and stability implications, lacks consistency, and involves limited levels of user agency.

現時点でWebのエコシステムには、Tauriのようなものを実現できるような、企業に支配されていないクロスプラットフォーム対応が欠けている。つまりTauriではAppleやGoogle、マイクロソフトが管理するプラットフォームエンジンに依存しなければならない。これはより複雑で、セキュリティと安定性に影響し、一貫性に欠け、限られたユーザーエージェント機能となってしまうだろう。

これを背景として昨年(2023年)末から、Linux Foundation傘下でRust製のクロスプラットフォーム対応Webブラウザエンジンとして開発が進められている「Servo」をTauriの組み込みのWebViewとする方向で開発が始まりました。

参考:Rust製ブラウザエンジンの「Servo」がElectron代替を目指す「Tauri」への組み込みに対応、プロトタイプとして実装

現在、Tauriの初めてのメジャーバージョンアップとなるTauri 2.0の開発がリリース候補版まで進んでいます。Tauri 2.0でも変わらずWebViewはそれぞれのOSのものを利用する仕様となっているため、ServoがTauriのWebViewとして採用されるのはまだしばらく先になります。

しかしTauriはクロスプラットフォームにおける一貫した体験を実現するために、ServoをWebViewとして採用していく方向であることは、今回のNLnetからの発表の中でも次のように示されています。

Integrating a portable browser engine would be a major step towards being able to run applications in a consistent, open source web runtime on major desktop and mobile platforms.

(Tauriとの)ポータブルなブラウザエンジンの統合は、主要なデスクトップやモバイルプラットフォーム上で、オープンソースのウェブランタイムによって一貫した形でアプリケーションを実行できるようにするための大きな一歩となるだろう。

Servoの完成度が十分に高まった時点で、クロスプラットフォーム間で一貫性のあるWebViewとしてTauriにServoが組み込めるようになると予想されます。

これが、Versoの開発をTauriの開発チームが主導する理由です。

開発を加速させるためのプロジェクト

前述の通り、Servoはまだ開発中のブラウザエンジンであり、早期の実用化のためには開発を加速させる必要がありました。

その開発を加速させる手段として、スタンドアロンのWebブラウザの開発プロジェクトとして開発する方がよい、という判断が下されたと説明されています。

In order to speed up the development of those improvement, it turned out to be more efficient to transpose these requirements to a new standalone browser: Verso.

開発をスピードアップするためには、これらの要求を新しいスタンドアローンブラウザに移し替えた方が効率的であることが判明した:それがVersoだ。

新たなWebブラウザの選択肢に期待

Web標準の仕様が複雑化した現在において、新たにWebブラウザの開発を行うことは難しいことだとされています。それは、例えばマイクロソフトであっても自社でレンダリングエンジンを開発することを止めてChromiumを選択したことなどに象徴されています。

しかし、そうした中でも今回のVersoだけでなく、今年(2024年)7月にLadybird Browser Initiativeが立ち上がっています。

参考:Google広告費の影響を受けない新たなWebブラウザが必要だと、スクラッチからWebブラウザを開発する「Ladybird Browser Initiative」、元GitHub創業者らが立ち上げ

Web標準の実装が複数存在することは、Webの健全性にとって非常に重要です。数年後、新たなWebブラウザの選択肢が広がっていることを期待したいところです。

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