マイクロソフトはなぜ、自律型AIソフトウェアエンジニア「Devin」と手を組んだのか?

2024年6月12日

マイクロソフトと、自律型AIソフトウェアエンジニアの「Devin」を開発している「Cognition AI」は先月(2024年5月)、提携を発表しました。

参考:[速報]マイクロソフト、自律型AIソフトウェアエンジニア「Devin」のCognition AIと提携を発表。Azure上でDevinを提供へ

この提携では、両社が共同でDevinを顧客に提供し、コードの移行やモダナイゼーションなどの複雑な作業を支援するとしています。

しかしマイクロソフトは、すでにAIによってほとんどのコーディング作業を自動的に行う「GitHub Workspace」を開発しており、今年(2024年)4月にはテクニカルプレビューを開始しています

マイクロソフトはなぜ、GitHub Workspaceの競合とも言えるDevinの開発元であるCognition AIと提携したのでしょうか。

この記事ではその理由を推測してみます。

両社の提携内容を確認

まず提携の内容を確認してみましょう。発表はとても短い内容で、下記のポストでほぼその全てが記されています。

発表のポイントは2つ。1つはマイクロソフトがDevinを利用して同社顧客のデベロッパーの支援を行う予定であり、まずコードのマイグレーションやモダナイゼーションから開始すること。2つ目はDevinがMicrosoft Azure上で開発、提供されること、です。

Cognition AIにとってマイクロソフトは最善の提携相手

まずCognition AI側からマイクロソフトと提携する理由を考えてみます。

スタートアップであるCognition AIにとって、マイクロソフトとの提携によるメリットは絶大でしょう。

マイクロソフトから提携相手に選ばれたことによる社会的、技術的な信用の獲得、マイクロソフトが持つ膨大な顧客にアプローチできること、そしておそらくMicrosoft Azureのインフラを有利な条件で利用できること、これらを考えると、Cognition AIにとってマイクロソフト以上に望ましい提携相手はほとんど存在しないのではないかと思われます。

Cognition AIが今年(2024年)3月にDevinを初めて世の中に公開した目的は、資金提供や初期の顧客の獲得であったはずです。それはマイクロソフトとの提携という、最も望ましい形で結実したと言ってよいでしょう。

マイクロソフト側がCognition AIと提携するメリットとは?

ではマイクロソフト側がCognition AIと提携するメリットは何でしょうか。

いくつかの理由が考えられますが、筆者が考える最大の理由は、DevinをAWSやGoogle Cloudの手に渡さないようにしたのではないか、ということです。

マイクロソフトにとってDevinが取り得る最悪のシナリオは、Cognition AIがGoogleやAWSなどの競合他社と提携して資金や技術、強力なクラウドインフラの支援などを得て成功し、DevinがGitHub Workspaceの本格的な競合に育ってしまうことです。

マイクロソフトはCognition AIと提携する前に、Devinの技術的な評価をしたはずです。その上でそれが競合他社によって育つくらいなら、自社で提携したほうがよいと判断したのではないでしょうか。

そして、もしもDevinがCopilot Workspaceよりも優れたものになるのであれば、取り込んでしまえば良いと考えているのかもしれません。

マイクロソフトはOpenAIと提携し、同社のAIを基盤にCopilotブランドとして自社サービスとして提供しています。Devinでも同様に、必要とあらば「Copilot Workspace by Devin」とでも名付けて提供することは、マイクロソフトにとって十分に取り得る選択肢でしょう。

マイクロソフトはAIによる開発者支援の支配的存在を維持

AIによる開発者の支援サービスは、GitHub CopilotとGitHub Copilot Workspaceなどを提供するマイクロソフトがほぼ一強という状態です。

マイクロソフトにとってCognition AIとの提携は、これらの将来の競合が登場する前に囲い込み、同社が引き続きこの分野の支配的存在であることを維持するための方策ではないかと思われます。

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Junichi Niino(jniino)
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