フリーランスの保護を強める「フリーランス新法」が2カ月後から施行。発注内容の明示や報酬減額の禁止、ハラスメント防止策など企業に義務付け

2024年8月28日

フリーランスが安心して働ける環境を整備するための法律として、いわゆる「フリーランス新法」、正しくは「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が令和5年(西暦2023年)4月28日に可決成立しました。

そして今から約2カ月後の2024年11月1日に施行されます。

これまで、多くのフリーランスが、事前に発注内容が示されないまま仕事に取りかからざるを得なかったり、発注者が納品物を受け取ってくれず何度もやり直しが発生したり、事後に報酬を減額されるといったトラブルを経験していました。

フリーランス新法ではこうした状況を改善することを目的としてます。

例えばフリーランスへの仕事の発注時には書面やメールで発注内容を明示すること、発注者は納品物の受領の拒否や報酬の減額をしてはいけないことなどが義務となります。

さらに、6カ月以上の業務委託を行っているフリーランスに対しては育児や介護と業務の両立に配慮すること、業務委託の解除は事前予告をすることなど、特定の発注者の下で継続的に仕事をしているフリーランスに対しては、雇用している労働者のようにフリーランスに対する一定の義務が発注者に発生する内容になっています。

フリーランス新法は、個人で働くフリーランスも、フリーランスに仕事を依頼している組織も、いずれもきちんとその内容を知っておくべきなのです。

その法律の内容を「公正取引委員会フリーランス法特設サイト | 公正取引委員会」の情報を中心に整理してみました。

公正取引委員会フリーランス法特設サイト | 公正取引委員会

今年11月の同じタイミングで、ほぼ全てのフリーランスが労災保険に加入できる制度も開始されます。そちらは別記事をご参照ください。

参考:ほぼすべてのフリーランスが、通勤や仕事で被ったケガや病気、障害、死亡などに対して補償が行われる労災保険に加入可能に、今年(2024年)11月から

フリーランス新法で企業に課される義務とは

フリーランス新法で対象となるフリーランスには、企業などの事業者から業務の委託を受けている個人事業主および、代表者以外には誰もいない法人、いわゆる一人親方を含みます。

そしてフリーランスに業務を依頼する企業は、以下に示す7つの義務が課せられるのです。

書面などによる取引条件の明示

フリーランスに対して業務委託をした場合、直ちに書面またはメールやソーシャルメディアなどで取引条件を明示する義務があります。取引条件には、業務委託の内容、依頼日、報酬額、支払期日、納品日、納品場所、検査をする場合には検査完了日などが含まれます。

報酬支払期日の設定と期日内の支払い

発注者は、報酬の支払期日として納品日から数えて60日以内のできる限り短い期間内の日を定め、その期日までに報酬を支払う必要があります(ただし再委託の例外もあります)。

募集情報の的確表示

フリーランスの募集を広告などで行う際には、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければなりません。

1か月以上の業務を委託した場合の7つの禁止行為

フリーランスに対して1か月以上の業務を委託した場合には、以下の7つの行為が禁止されます。

  1. 受領拒否(注文した物品または情報成果物の受領を拒むこと)
  2. 報酬の減額(あらかじめ定めた報酬を減額すること)
  3. 返品(受け取った物品を返品すること)
  4. 買いたたき(類似品等の価格または市価に比べて、著しく低い報酬を不当に定めること)
  5. 購入・利用強制(指定する物や役務を強制的に購入もしくは利用させること)
  6. 不当な経済上の利益の提供要請(金銭、労務の提供等をさせること)
  7. 不当な給付内容の変更ややり直し(費用を負担せずに注文内容を変更し、または受領後にやり直しをさせること)

つまり納品を拒否して報酬を支払わないことはもちろん、手数料などの名目で報酬を減額すること、特定の製品やサービスの購入を要請することや発注内容に含まれていないことを無償でやってもらうように要請すること、などは法律により禁止されることになります。

育児介護等と業務の両立に対する配慮

フリーランスに対して6カ月以上の業務を委託している場合、フリーランスからの申し出に応じて、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるように必要な配慮をしなければなりません。

例えば、仕事を依頼しているフリーランスに妊婦健診や育児、介護などの都合がある場合、打ち合わせなどの時間を調整することなどが挙げられます。

6カ月未満の業務をフリーランスに委託している企業も、上記を配慮するように努力しなければなりません。

ハラスメント対策に関する体制整備

企業はハラスメントによりフリーランスの就業環境が害されることがないよう、相談対応のための体制整備などの必要な措置を講じなければなりません。

例えば、フリーランスへの業務委託に関わっている従業員に対してハラスメント防止のための研修を行うことや、フリーランスからの相談窓口を設けること、ハラスメントが発生した場合には迅速かつ正確に事実関係を把握することなどが挙げられます。

中途解除等の事前予告・理由開示

企業がフリーランスに対して6か月以上の業務を委託している場合、その業務委託に関する契約を解除する場合や更新しない場合には、少なくとも30日前までに、書面やファクス、電子メールなどによる方法で予告しなければなりません。

また、予告がされた日から契約が満了するまでの間にフリーランスが解除の理由を請求した場合、同様の方法により遅滞なく開示しなければなりません。

労働者としてのフリーランス保護の方向性は明らか

これらに違反した場合、発注事業者は行政の調査を受けることになり、指導や助言、必要な措置をとることを勧告されたり、勧告に従わない場合には、命令・企業名公表、さらに命令に従わない場合は罰金が科されることになります。

また、フリーランスが業務上のトラブルに見舞われた場合には、厚生労働省から第二東京弁護士会が受託して運営している「フリーランス・トラブル110番」の窓口で無料で弁護士が相談に乗ってくれます。

フリーランス・トラブル110番

フリーランスは自身の能力を活かしつつ自由な働き方ができる一方で、企業との力関係において不利な側面があり、それが不明確な発注内容や不当な報酬の減額などが行われる背景にありました。

今回のフリーランス新法の施行は、そうした状況を改善するためにフリーランスの立場を保護すると同時に、継続的にフリーランスに業務委託を行う企業はフリーランスに対しても雇用している従業員のように働き方に配慮しなければならない、という方向性を示したといえます。

フリーランスとして働く人が増える傾向にあることが確実な現在、今後日本政府がはこの方向性、すなわち労働者としてのフリーランスの保護をさらに強めていくことは間違いないでしょう。

多くの企業でこれからフリーランスとの接点が増えていくこともまた確実だと思われます。この機会に、それぞれの企業が今後どのようにフリーランスと関係を築いていくのか、あらためて考えるよいタイミングなのではないでしょうか。

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Junichi Niino(jniino)
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