Red HatにRocky LinuxとAlmaLinuxが反論。OSSの精神と目的に違反している、ダウンストリームのリビルドは価値をもたらす、など
Red Hatは6月、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)のクローンOSベンダに対して排除する方向性を打ち出しました。このことが、多くの議論や影響を引き起こしています。
Red Hatが起こしたアクションは2つです。1つはCentOS StreamをRed Hat Enterprise Linux(RHEL)関連の唯一パブリックなソースコードリリースのリポジトリにすると発表し、事実上、RHELのソースコードの一般公開を取りやめにしたことです。
参考:Red Hat、今後はCentOS StreamがRHEL関連のパブリックなソースコードの唯一のリポジトリになると発表
RHELのソースコードへのアクセスは有料のサブスクリプション契約を持つユーザーに限定されており、ユーザーは契約によってこのソースコードからクローンOSを作ることが禁じられています。
2つ目のアクションは、RHELのクローンOSベンダに対して「単にコードをリビルドするだけで、付加価値や変更を加えることをしないのであれば、それはあらゆるオープンソース企業にとって真の脅威なのだ」と非難する内容のブログを発表したことです。
参考:Red HatがクローンOSベンダを非難、「付加価値もなくコードをリビルドするだけなら、それはオープンソースに対する脅威だ」と
この2つのRed Hatのアクションは、技術面ではクローンOSベンダがRHEL互換のクローンOSを作ることを困難にし、ビジネス面ではクローンOSベンダのビジネスモデルそのものも強く否定しました。
この2つのアクションによってRed Hatは、これまで当然のようにエンタープライズLinux市場に存在してきたRHELクローンOSベンダを全面的に否定したのです。そのインパクトは大きいといえるでしょう。
このRed Hatのアクションに対して、メジャーなクローンOSベンダであるRocky LinuxとAlmaLinuxはそれぞれ、ブログで反論を明らかにしています。それぞれを見ていきましょう。
Rocky Linux:Red HatはOSSの精神と目的に違反している
Rocky Linuxは6月29日付のブログ「Keeping Open Source Open」(オープンソースをオープンなままで)で、Red Hatの2つのアクションに対して明確な反論を試みています。
まず、Red Hatが有償のサブスクリプション契約で顧客に課している制限は、(法的な面での明言を避けつつも)オープンソースの精神と目的に反していると指摘。同社の意見には同意しないとしました。
Red Hat’s Terms of Service (TOS) and End User License Agreements (EULA) impose conditions that attempt to hinder legitimate customers from exercising their rights as guaranteed by the GPL. While the community debates whether this violates the GPL, we firmly believe that such agreements violate the spirit and purpose of open source. As a result, we refuse to agree with them, which means we must obtain the SRPMs through channels that adhere to our principles and uphold our rights.
Red Hat のサービス条件 (TOS) およびエンドユーザー使用許諾契約 (EULA) は、正規の顧客がGPLで保証されている権利を行使することを妨げようとする条件を課しています。コミュニティではこれが GPL に違反するかどうか議論されていますが、私たちはそのような契約はオープンソースの精神と目的に違反していると強く信じています。結果として、私たちはそれらに同意することを拒否し、私たちの原則が守られ権利が擁護される適切なルートを通じてSRPM(ソースコードを含んだRPMパッケージ)が取得され得るべきであるとします。
そのうえで、これまでとは異なるRHELのソースコードの入手方法を2つ示しました。これによって、今までと同じようにRHELのクローンOSを提供し続けられることを明らかにしたのです。
One option is through the usage of UBI container images which are based on RHEL and available from multiple online sources (including Docker Hub). Using the UBI image, it is easily possible to obtain Red Hat sources reliably and unencumbered. We have validated this through OCI (Open Container Initiative) containers and it works exactly as expected.
1つ目の選択肢は、(Docker Hubを含む)複数のオンラインソースから、RHELをベースにしたUBI(Universal Base Images)コンテナイメージを通じて入手する方法です。UBIイメージを用いることで、Red Hatのソースを確実かつ手間なく入手できます。OCI(Open Container Initiative)コンテナを通じてこれを検証したところ、期待通り正確に機能しました。
Another method that we will leverage is pay-per-use public cloud instances. With this, anyone can spin up RHEL images in the cloud and thus obtain the source code for all packages and errata. This is the easiest for us to scale as we can do all of this through CI pipelines, spinning up cloud images to obtain the sources via DNF, and post to our Git repositories automatically.
もう1つの方法は、従量課金のパブリッククラウドのインスタンスを活用します。誰でもRHELイメージを起動でき、それによってすべてのパッケージのソースコードとエラッタを入手できるのです。クラウドのイメージを起動し、DNFパッケージマネージャ経由でソースコードを取得し、それを自動的に私たちのGitリポジトリにポストする作業をCIパイプラインを通じてすべて実行できるため、私たちにとってもっとも用意でスケールする方法です。
この2つの手法はGPLによって可能となっており、さらにRed Hatとの契約に同意することなく合法的に実行可能だとRocky Linuxの法律顧問が保証していると説明されています。
AlmaLinux:私たちの価値は私たちの価値観である
AlmaLinuxは6月30日付けで「Our Value Is Our Values」(私たちの価値は私たちの価値観である)というブログを公開しています。
このタイトルがすでに、暗にRed HatとAlmaLinuxは価値観が違うのだ、という意味が込められているのと同時に、クローンOSは付加価値もなくコードをリビルドするだけだというRed Hatの主張の反論にもなっているようです。
その上で、クローンOSベンダが行っているダウンストリームのリビルドには大いに価値があると次のように主張します。「Our Value Is Our Values」からポイントを引用します。
When executed properly, downstream rebuilds provide tremendous value and are a tremendous asset to upstream projects. AlmaLinux aims to deliver the best possible outcomes; for the broader open-source community, for our upstream, and the Enterprise Linux ecosystem as a whole.
ダウンストリームのリビルドは、適切に実行されたならばそれは多大な価値をもたらし、アップストリームのプロジェクトにも非常に大きな資産となります。AlmaLinux は、可能な限り最高の結果を提供することを目指しています。それは、より広範なオープンソース コミュニティ、アップストリーム、そして Enterprise Linuxエコシステム全体のためです。
具体的な例として、Raspberry Piなどへの移植を挙げました。
We expanded platform support to a new architecture – Raspberry Pi – and helped the ELRepo project secure a sponsorship for aarch64 hardware, to build for it. We currently have close to 80,000 aarch64 systems running AlmaLinux.
私たちは新しいアーキテクチャであるRaspberry Piにまでプラットフォームのサポートを拡張し、ELRepo プロジェクトがビルドのためにaarch64ハードウェアを構築するためのスポンサー確保も支援しました。現在、AlmaLinux を実行しているaarch64システムは8万近くあります。
さらに金銭的な寄付も行ってきたことを指摘。
We also made monetary contributions and participated in Fedora Flock, Nest, CentOS Connect and Dojos, and even openSUSE Conf.
また、金銭的な寄付も行い、Fedora Flock、Nest、CentOS Connect、Dojos、さらには openSUSE Conf にも参加しました。
コミュニティの充実にも貢献したと。
Part of the draw of a product or distribution is the community around it, and we’ve enriched the community around RHEL and CentOS Stream.
製品やディストリビューションの魅力の 1 つは、それを取り巻くコミュニティです。私たちは、RHELとCentOS Streamを中心としたコミュニティを充実させてきました。
さらにAlmaLinuxコミュニティのメンバーはRPM、AWS、VirtualBox、などさまざまなオープンソースにプルリクエストを送って貢献しており、GlusterFSには50以上のプルリクエストを送り、certbot、brotli、iperf3、imapsyncなどさまざまなエンタープライズLinuxを支えるソフトウェアにも貢献していると強調しています。
そしてこうした活動の根底にある価値観が、AlmaLinuxの価値なのだと結びます。
We’re strongly committed to the principles upon which open-source was founded and which the community expects – trust, transparency, honesty, integrity, and mutual respect. In short, our value is our values.
私たちは、オープンソースの基盤であるところのコミュニティが期待するもの、すなわち信頼、透明性、誠実さ、誠実さ、相互尊重という原則に強くコミットしているのです。一言で言えば、私たちの価値とは私たちの価値観なのです。
Red HatはさらにクローンOSへの制限を強めてくるか?
結局のところ、Red HatによるRHELクローンOSベンダに対する明確な排除の姿勢とアクションが明らかになった後も、クローンOSベンダ側のクローンOSの提供を継続する意志と能力に、少なくとも短期的に大きな影響を与えることはなさそうな状況です。
果たしてRed Hatはさらなる強い意志を持って、RHELクローンOSの存在に対してより強力な何らかの制限を加えてくるのか、あるいは静観へと移行するのか。これが今後の注目点になるでしょう。
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