Webのルビ仕様にはアクセシビリティを阻害している面がある。「日本DAISYコンソーシアム」が改善を求めてブラウザベンダ、WHATWG、W3Cらに公開書簡
すべての人が等しく情報にアクセスできることを目指し、国際規格であるDAISY(Digital Accessible Information System:アクセシブルな情報システム)規格の開発・維持・普及のために設立された国際団体「DAISYコンソーシアム」の正会員である「日本DAISYコンソーシアム」は、Web上の文書の文字や熟語にルビを振るためのWeb標準仕様が、弱視や失読症などを含むさまざまなハンディキャップを持つ人々にとってのアクセシビリティを阻害している面があるとして、改善を求める公開書簡をWebブラウザベンダ、WHATWG、W3C宛てに送付しました。
その一部を引用します。
The historical purpose of introducing ruby to Japanese typesetting practice was probably to help those who could not read difficult CJK ideographic characters. Ruby indeed helps such people. However, we have observed that ruby also hampers accessibility. First, existing text-to-speech implementations do not work well for documents containing ruby. Second, the typical rendering of ruby is hard to read for low-vision and dyslexic people.
ルビが日本の組版に導入された歴史的な目的は、日中韓の難しい表意文字が読めない人たちを助けることだったのでしょう。確かにルビはそのような人々の助けになります。しかし、私たちはルビがアクセシビリティを阻害することも確認しています。まず、既存の音声合成の実装は、ルビを含む文書に対してうまく機能しません。第二に、典型的なルビのレンダリングは、弱視やディスレクシア(失読症)の人々にとって読みにくいものです。
ルビの抱える課題
ルビは、この例のように一般に漢字に読み仮名を振る場合などによく使われます。日本語の組み版をWebで表現するうえでルビは欠かせない要件としてWeb標準に取り入れられました。
下記は今から約10年前の2010年のPublickeyの記事で、Web標準を元にした電子書籍フォーマットのEPUBに関する動向を紹介した記事です。
これによりWebブラウザや電子書籍リーダーでルビが振られた文字や熟語を表示することができるようになりましたが、一方でまだ課題も残されています。
以下のルビによる課題の例は、10月19日に慶応大学Advanced Publishing Laboratory(APL)と日本電子出版協会(JEPA)の共催によるオンライセミナー「EPUB最新動向とルビ仕様について」で紹介されたものの一部を引用しています。
例えば、文字の読み書きに困難を抱えるディスレクシアと呼ばれる障害を持つ方の場合、本文(ルビの親文字)とルビのあいだが近いと、文字を認識しにくい場合があります。
そのため、CSSのPaddingなどを用いてルビと本文の間隔を広げるなど任意に設定できることが望ましいのですが、これを主要なWebブラウザで実装しているのは現時点でFirefoxのみとのことです。
またルビの比較的よく知られている問題として、ルビを振られたWeb文書を音声合成機能で読み上げる場合、親文字とルビが混在したまま読み上げられてしまうというものがあります。
これを解決するには、発音を示すルビとそうでないルビをマークアップで区別する、などの仕様策定と実装が求められるでしょう。
この他にも複数の課題が指摘されています。
Web標準の下で課題を解決するための多様な努力を
今後、一般の書籍だけでなく教科書などのデジタル化も進められていくことを考えると、こうした課題の解決は欠かせないとみられますが、そのための仕様と実装が大幅に不足していることは間違いありません。
このままでは日本語における電子書籍のアクセシビリティがずっと不十分なままだったり、あるいはWeb標準とは関係なく独自に実装されたさまざまなアクセシビリティ機能がベンダごとに林立するようになるかもしれません。
特に現在はHTML関連の仕様策定の主導権が標準化団体のW3C(慶応大学はW3Cの主要な拠点の1つ)から、Webブラウザベンダが集まるWHATWGへと移っていることもあり、ルビのような日本語組み版にほぼ固有の課題をWeb標準の下で解決していくには、さまざまな機会や場面を通じてWebブラウザベンダを始めとするWeb標準のステークホルダーに声を上げ続けていく必要があると思われます。
新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、教育の現場でも電子化が急速に進んでいるところです。そうしたなかでさまざまな障害を持つ人であっても、電子化による便益から一人も取りこぼされない環境を作るために、今回の日本DAISYコンソーシアムによる公開書簡をはじめとして、官民挙げての協力が期待されるところです。
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