Googleは「Dynamic Mail」でGmailとAppSheetの統合を実現。その中身は「AMP email」
Gmailとノーコード開発ツールのAppSheetを統合するというGoogleの発表は、注目度の高いニュースとなりました。この新機能により、Gmailのメールの本文中にAppSheetで開発したアプリケーションを埋め込んで送ることができるようになります。
下記のツイートに埋め込まれた動画では、AppSheetのアプリケーションが埋め込まれたメールを受信し、そのまま操作しているところです。
We’re bringing more flexibility into #GoogleWorkspace by integrating AppSheet into @gmail. This allows anyone to reclaim time with custom, no-code apps and automations that users can interact with directly from their inbox → https://t.co/v8uZC5pK9m #GoogleCloudNext pic.twitter.com/d4FQBK9Klo
— Google Workspace (@GoogleWorkspace) October 12, 2021
Googleはどのような技術を用いてGmailとAppSheetを統合したのでしょうか。
Google Cloud Next '21のセッション「How to use AppSheet to work smarter in Google Workspace」で、その概要が紹介されています。
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セッションで示されたスライドの中で「Dynamic Mail」「App Script Integration」「Google Spaces Integration」の3つの技術が、AppSheetによるGoogle Workspacesの拡張方法として紹介されています。
この3つのうち、GmailとAppSheetの統合に用いられているのが「Dynamic Mail」です。
Dynamic MailによってGmailとAppSheetを統合
Dynamic Mailは、実は今から2年以上前の2019年3月にGmailで利用可能になった機能です。
一般的なメールのフォーマットにはテキストとHTML形式の2つがありますが、Dynamic Mailはそのいずれのフォーマットとも異なります。
Dynamic Mailはその名前の通り、メール本文で動的なコンテンツを表現できます。
具体的には、受信時ではなく閲覧時における最新のデータベースの内容を表示することや、メール本文の入力フィールドに入力された内容をサーバに渡す、などが可能にっています。
下記はDynamic Mailの簡単なデモ画面をキャプチャしたものです。本文中の入力フィールドに文字を打ち込むと、どこかのサーバにある名前データベースに対してインクリメンタルサーチが動的に実行され、該当する名前がリアルタイムにリスト表示される、というものです。
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このDynamic Mailの機能を用いて、Gmail本文にAppSheetのアプリケーションを組み込めるようにした、というのが今回のGoogleが発表したGmailとAppSheetの統合の技術的な概要です。
そしてGmailには以前からDynamic Mailの機能がありましたので、今回のGmailとAppSheetの統合で新たに実現された重要な部分は、AppSheet側でDynamic Mailを送信できるようした、というところにあります。
Dynamic Mailの本体はAMP email
さて、このDynamic Mailとはどのような技術なのでしょうか。その中身は「AMP email」と呼ばれる技術です。
なぜGoogleはGmailでのAMP emailの実装をDynamic Mailと呼ぶことにしたのかは分かりません。もしかしたらどこか細かい部分に違いがあるのかもしれません。
AMP emailの「AMP」とは「Accelerated Mobile Pages」を略したもので、モバイル版のWebページを高速に表示させるための手法としてGoogleが推進してきた技術です。
AMPは高速表示を実現するために、制約されたAMP HTML、高速なロードのためのJavaScriptコード、キャッシュ配信という3つの技術から構成されています。
このAMPから派生したAMP emailには、動的なコンテンツをメール本文にもたらすという機能が備わっています。これが、GmailのDynamic Mailと呼ばれる機能によってAppSheetとの統合を実現した技術の本体なのです。
AMP emailは既存のメールシステムと互換性があり、AMP emailに対応していないメールクライアントではHTMLメールにフォールバックします。また、Gmailの実装ではAMP emailを有効にする設定(Gmailの設定では「動的メールを有効にする」)を行う必要があり、特定のサーバからしか受け取らない、といった設定がデフォルトになっていました。
ちなみに、モバイルWebにおいてはGoogleの期待ほどにはAMPが普及することはなかったようで、今年2021年6月にはGoogle検索でのAMPの優遇措置が終了しました。
AMP email/Dynamic Mailは普及するか?
GoogleはモバイルWebでAMPの普及を図るのと同様に、AMP emailも次世代のメールフォーマットとして推進していました。
2019年3月にGmailでDynamic Mailが利用可能になったのと同じ日に、Googleは「Building the future of email with AMP」(日本語訳「AMP を使ってメールの未来を構築する」)と呼ばれるブログを公開し、Outlook.com、米Yahoo Mail、ロシアのMail.RuでもAMP emailのベータ対応が始まったことが発表されました。
しかし2020年9月にはOutlook.comがAMP emailのサポートを終了。Outlookのメール本文に操作可能な内容を埋め込める「Actionable Messages」(操作可能なメッセージ)を推進するようになりました。
OutlookがAMP emailのサポートを終了したことで、AMP email/Dynamic Mailがビジネス分野においてメールクライアントの違いを超えて相互運用可能なフォーマットとして普及する可能性は、現時点ではほとんどないと考えるべきでしょう。
メールは現在でもビジネスにおけるコミュニケーションを担う重要な柱です。休暇申請の承認、見積もり依頼への返信など、メールでの依頼を受信したらそのままメール本文でアプリケーションを操作できれば、いちいち用途ごとにアプリケーションを起動し、切り替えて操作するより効率的です。
しかし、ここまで見ていたように、それらを包括して相互運用できるようなメールフォーマットは現時点では難しいと見られます。
おそらくビジネスチャットによるコミュニケーションにおいても同様のニーズはあるでしょうから、今後しばらくはメッセージングやチャットとアプリケーションを統合するためのAMP email/Dynamic MailやActionable Messageのような実装や技術がさまざまなベンダから登場してくるのではないでしょうか。
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