Denoの作者ライアン・ダール氏らが「Deno Company」を立ち上げ。Denoの開発推進と商用サービスの実現へ
2009年に登場したNode.jsは、サーバサイドにおけるJavaScriptの利用や非同期処理によるイベントドリブンなアプリケーションアーキテクチャという新しい分野を確立した、画期的なプラットフォームです。
Node.jsの登場により、AWS Lambdaをはじめとするサーバレスコンピューティングや、ElectronのようなWebテクノロジーを基盤としたアプリケーションフレームワークをはじめとする、さまざまなJavaScriptエコシステムが飛躍的に発展したと言ってもいいでしょう。
このNode.jsの作者であるライアン・ダール(Ryan Dahl)氏は、2012年にNode.jsの開発リーダーを退任すると、2018年に「Node.jsに関する10の反省点」を発表。これに基づいて新たにサーバサイドでJavaScript/TypeScriptを実行するためのプラットフォームとして同氏を中心にオープンソースで開発されているのが「Deno」です。
Deno Company設立を発表
ライアン・ダール氏と、同氏とともにNode.jsそしてDenoを開発してきたバート・ブレンダー(Bert Belder)氏は、このDenoの開発推進およびDenoを用いた商用サービス実現のため、490万ドル(1ドル110円換算で約5億3900万円)を調達。「Deno Company」を設立したことを発表しました。
Announcing the Deno companyhttps://t.co/0ICHZi3uzb
— Deno (@deno_land) March 29, 2021
発表ではまず、Denoがモノリシックなシステムではなく、さまざまなシステムに合わせて適用できる柔軟なシステムであると紹介。
Deno is not a monolithic system, but rather a set of technologies that we believe can be repurposed to a variety of needs. Not every use-case of server-side JavaScript needs to access the file system; our infrastructure makes it possible to compile out unnecessary bindings. This allows us to create custom runtimes for different applications: Electron-style GUIs, Cloudflare Worker-style Serverless Functions, embedded scripting for databases, etc.
Denoはモノリシックなシステムではなく、さまざまなニーズに合わせて再利用できる技術の集合体です。サーバサイドJavaScriptのユースケース全部がファイルシステムへのアクセスを必要としているわけではありませんし、Denoのインフラはそうした不要なバインディングをコンパイルから外すこともできるのです。これによりさまざまなアプリケーションのためのカスタムランタイムを作れます。例えばElectronのようなGUIやCloudflare Workerのよようなサーバレスのファンクション、データベース用の組み込みスクリプティング言語などです。
つまりDenoは、単にサーバサイドスクリプトのプラットフォームではなく、より大きな可能性があると指摘しているわけです。
このDenoの開発を推進するために投資を募り、フルタイムの専門家を雇用するとしています。
開発体制は強化されつつも、Denoは引き続きMITライセンスのオープンソースであることに変わりはなく、また一部の機能を有料化するといったこともしないと、次のように説明されています。
We don’t believe the “open core” business model is right for a programming platform like Deno. We do not want to find ourselves in the unfortunate position where we have to decide if certain features are for paid customers only.
Denoのようなプログラミングプラットフォームには、「オープンコア」のビジネスモデルは適していないと考えています。私たちは、ある機能が有料のお客様のみに提供されるかどうかを私たちが決定しなければならない、といった不幸な状況に身を置きたくはありません。
そして、Denoをプラットフォームとした商用サービスの実現を明示しています。
Our business will build on the open source project, not attempt to monetize it directly.
私たちのビジネスは、オープンソースプロジェクトの上に構築されるものであり、それ(オープンソースプロジェクトそのもの)を直接マネタイズしようとするものではありません。
開発体制の充実だけであれば基金や財団といった形でも実現できたはずです。おそらく、ビジネスを実現することこそ「Deno Company」設立の大きな目的なのでしょう。
「Deno Deploy」、Denoの分散ホスティングサービスが登場
Deno Companyはどのような商用サービスを実現しようとしているのか。すでにその一端が示されています。それが「Deno Company」の設立と同時に同社が公開した「Deno Deploy」です。
Deno Deployは「A GLobally Destributed JavaScript VM」(グローバルに分散されたJavaScript VM」というキャッチフレーズが付いている、いわばDenoの分散ホスティングサービスです。下記が公式サイトの説明です。
Deno Deploy is a distributed system that runs JavaScript, TypeScript, and WebAssembly at the edge, worldwide. The service deeply integrates the V8 JavaScript runtime with a high performance asynchronous web server to provide optimal performance without unnecessary intermediate abstractions.
Deno Deployは、JavaScript、TypeScript、WebAssemblyを世界中のエッジで実行する分散システムです。このサービスは、V8 JavaScriptランタイムと高性能な非同期Webサーバを深く統合し、不要な中間抽象化を行わず最適なパフォーマンスを提供します。
CloudFlareやFastlyといったCDNベンダがエッジにおけるJavaScriptやWebAssemblyのランタイムサービスを提供していますが、Deno Deployはそれらと競合するようなサービスに見えます。
とはいえDeno Companyから、Deno Deployの価格やビジネスについての説明はまだ行われていません。今後、何らかのビジネスプランなどが明らかにされるのでしょう。
いずれにせよDeno Companyの設立は、Denoの将来に対する明確なコミットメントが示されたことになります。今後さらなる発展が予想されるJavaScript/TypeScript/WebAssemblyのエコシステムにとって注目すべき出来事といえるでしょう。
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