AWS、ElasticsearchとKibanaのフォークによる「OpenSearch」プロジェクトを発表。Elasticとの溝は埋まらないまま
AWSは、オープンソースの検索エンジンと可視化ツールの「OpenSearch」プロジェクトを発表しました。これは検索エンジンおよび可視化ツールとして人気のElasticsearchとKibanaをフォークしたものです。
Introducing the #OpenSearch project: a community-driven, open source fork of Elasticsearch & Kibana. https://t.co/VmlP14DiIC pic.twitter.com/YFAI0KkIx3
— AWS Open Source (@AWSOpen) April 12, 2021
すでにGitHub上には、Elasticsearchのフォークである検索エンジンの「OpenSearch」と、Kibanaのフォークである「OpenSearch-Dashboards」のリポジトリが公開されています。
AWSは今年1月にElasticsearchをフォークすることを発表していました。今回それが具体化したことになります。
Elasticがライセンスを変更し、AWSは新バージョンを使えなくなっていた
AWSは以前から、オープンソースで開発されていたElasticsearchをAWSのクラウド上でマネージドサービスとして提供する「Amazon Elasticsearch Service」を提供しています。
しかしElasticsearchの開発元であるElastic CEOのShay Banon氏は、AWSがサービス名にElasticsearchという名前を使うことでオープンソースの商標を軽視し、さらにAWSはElasticsearchの独自ディストリビューションを開発したことでコミュニティの分断まで引き起こしていると、AWSを強く非難する声明を今年1月に発表。
同時に、それまでApache License 2.0だったElasticsearchとKibanaのライセンスを、商用サービス化を制限する「Server Side Public License」(SSPL)と「Elastic License」のデュアルライセンスへ変更することも発表しました。
これにより、AWSが今後もAmazon Elasticsearch Serviceを継続して提供し、進化させていくためには、Elasticと有償のライセンス契約を結んで今後バージョンアップされていくElasticsearchの利用許可を得るか、もしくはElasticsearchをフォークして独自に開発を進めていくか、この2つの選択肢のいずれかを選ばなざるを得なくなりました。
AWSが選んだのは、Elasticとのライセンス契約ではなく、フォークして独自のオープンソースプロジェクトを開始することでした。
オープンソースを遠慮なく自社のサービスに組み入れるという同社のこれまでの姿勢から、これは当然予想された結果だったといえます。
OpenSearchのAPIは後方互換性を保つ予定
AWSは「Amazon Elasticsearch Service」の名称も「Amazon OpenSearch Service」に変更する計画であることも明らかにしています。
ただし既存のAmazon Elasticsearch Serviceで使われているElasticsearchも使い続けられるようにメンテナンスやバグフィクスも継続し、新機能についてはOpenSearchで提供すると。
We will continue to support and maintain the ALv2 Elasticsearch versions with security and bug fixes, and we will deliver all new features and functionality through OpenSearch and OpenSearch Dashboards.
ElasticsearchのALv2バージョンのサポートとメンテナンスを継続し、セキュリティやバグフィックスを行うとともに、すべての新機能をOpenSearchとOpenSearch Dashboardsを通じて提供します。
そしてOpenSearchのAPIはElasticsearchとの互換性を保つようにし、アプリケーションの移行を容易にするとしています。
The Amazon OpenSearch Service APIs will be backward compatible with the existing service APIs to eliminate any need for customers to update their current client code or applications.
Amazon OpenSearch ServiceのAPIは既存のサービスのAPIと後方互換性を保つ予定であり、お客様は既存のクライアントコードやアプリケーションをアップデートする必要はありません。
AWSとElastic、それぞれの主張
AWSは2019年頃から、オープンソースの開発元であるベンダから「オープンソースのいいとこ取りをしている」などと非難されてきました。
こうしたベンダのなかには、オープンソースを商用サービスで使われないようにライセンス変更を行うところもでてきました。
しかしAWSはこうしたライセンス変更の動きに対して、オープンソースはオープンソースを維持することが重要であると主張。
その主張を基に、Elasticが同社のビジネスモデルの変更に合わせてElasticsearchのコードにオープンソースの部分とプロプライエタリなコードを混在させつつ公開しているのに対し、そこからオープンソースの部分だけを集めた独自のディストリビューション「Open Distro for Elasticsearch」を作成しました。
その後、今年に入ってElasticsearchをフォークすると表明。このときAWSはElasticsearchとKibanaのフォークを作成する理由として「To help keep Elasticsearch and Kibana open for everyone,」と書いています。誰にとってもオープンであることを維持することが重要だというわけです。
一方、Elasticは1月のAWSを非難する声明のなかで、「私たちはマイクロソフト、Google、Alibaba、Tencent、Clever Cloudやそのほかのクラウドベンダとは協力関係を結んでいる。」と、AWS以外のクラウドベンダとは問題なく協力関係を結んでいることを示し、問題はAWSにあるのだと指摘しています。
実際、例えばGoogleは2019年にElasticをはじめとするオープンソースソフトウェアベンダとの戦略的提携を発表。各社のマネージドサービスをGoogle Cloudに統合しています。
多くのオープンソースベンダは、AWS以外とのクラウドベンダとはおおむね良好な関係を示しているようにも見えます。
一方、AWSはオープンソースを維持することが大事と主張しつつも、オープンソースをこれまで支えてきた開発者やコミュニティとの対話が十分であったようには見えません。
そうした不十分な対話が溝を作ったまま、今回のOpenSearchプロジェクトの登場により、さらに事態が進展していったように見えます。
追記:2024年9月、OpenSearchはLinux Foundation傘下となりました。
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