Pythonの生みの親グイド・ヴァンロッサム氏が職業プログラマから引退を表明。昨年Pythonの優しい独裁者からも引退
Pythonの生みの親であるGuido van Rossum(グイド・ヴァンロッサム)氏が、勤務先であったDropboxを退社し、これからは引退生活を送ることが表明されました。
下記はヴァンロッサム本人のツイート。
It's bittersweet: I'm leaving @dropbox, and am now retired. I've learned a lot during my time as an engineer here -- e.g. type annotations came from this experience -- and I'll miss working here. https://t.co/0ROaUrHQLt
— Guido van Rossum (@gvanrossum) October 30, 2019
Python開発からGoogleへ、そしてDropboxへ
1956年にオランダで生まれたヴァンロッサム氏は、約30年前の1989年12月に趣味の一環として新しいプログラミング言語Pythonの開発をスタート。Pythonという名前はBBCのコメディ番組「モンティ・パイソン」にちなんだとされています。
Pythonはその後、分かりやすく強力なプログラミング言語として人気が高まります。2005年、ヴァンロッサム氏はPythonを多用していることで知られるGoogleに入社し、勤務時間の半分をPythonの開発にあてていました。
2012年、ヴァンロッサム氏はGoogleを退社してDropboxに入社します。
Today's my last day at Google. In January I start a new job at Dropbox: https://t.co/JxnfdBM0
— Guido van Rossum (@gvanrossum) December 7, 2012
DropboxもまたPythonを用いて開発を行っていることで知られる企業です。下記の記事は、Dropboxの3番目の社員であるRian Hunter氏による、2013年に日本で初めて開催されたPyCon APACの基調講演の内容です。
- Dropboxは全部Pythonで信頼性の高いソフトウェアを作った(前編)~PyCon APAC 2013
- Dropboxは全部Pythonで信頼性の高いソフトウェアを作った(後編)~PyCon APAC 2013
優しい独裁者からの引退、そして職業プログラマからも引退
いまから約1年前の2018年7月12日、ヴァンロッサム氏は「優しい終身の独裁者」(BDFL:Benevolent Dictator For Life)と呼ばれるPythonの開発に関する意思決定の立場から、永遠に引退することを発表しました。
そのメールの冒頭にはこう記されています。
I don't ever want to have to fight so hard for a PEP and find that so many people despise my decisions.
私はもう、PEP(Python Emhancement Proposal)のために激しく争い、それでも多くの人からその決定を嫌がらるのを見たくない
人気のあるPython言語だからこそ、あらたな機能や文法についてさまざまな要望が寄せられ、そのなかで意思決定していくことが大きなストレスになっていたことが示唆されています。
そして今回、Dropboxからの退社と同時に引退生活に入ることが示されました。下記は「Thank you, Guido」からの引用です。
After six and a half years, Guido van Rossum, the creator of Python, is leaving Dropbox and heading into retirement.
ヴァンロッサム氏自身のパーソナルページでも、引退し、これからは個人的なプロジェクトに取り組み、本の執筆もするであろうと以下のように記されています。
I am retired, working on personal projects (and maybe a book).
Dropboxのカーボーイコーディング文化を指摘
Dropbox Teamがヴァンロッサム氏の退社に向けて公開した記事「Thank you, Guido」には、ヴァンロッサム氏がDropbox在籍時にどのような功績を残したのかが記されています。いくつかを引用しましょう。
ヴァンロッサム氏はDropboxのカウボーイコーディング文化を指摘し、改めてきました。
Clever code is usually short and cryptic, written by and for the individual who came up with it, but is hard for anyone else to understand—and nearly impossible to maintain. Guido called this “cowboy coding culture”. He recognized its value in our early stages of trying to implement things quickly, but knew it wouldn’t be sustainable over time, so he decided to speak up in his own quiet way.
かしこいコードはたいてい短くて暗号のようであり、個人のために個人によって書かれますが、他人がそれを読み解くことは困難で、メンテナンスもほぼ不可能です。グイドはこれを「カウボーイコーディング文化」と呼びました。彼は開発初期においては迅速に実装できるといった価値があることを理解しましたが、それが時間の経過とともに持続可能ではないことを知っていたため、彼は穏やかな方法でそれについて話すことを決めました。
ヴァンロッサム氏はテストの改善にも大いに取り組んだと指摘されています。具体的にはテストチームと一緒にテストコードの改善に取り組むことで、テストコード自身が原因のテストの失敗を減らすなどを実行したと。
Guido also had a big impact on our development organization by increasing engineers’ confidence in their testing culture. The team used continuous integration, which means every time a change to the code was submitted, a series of tests would run to make sure there were no problems with the new code.
グイドはまた、テスティング文化におけるエンジニアの自信を高めることで、開発組織に大きな影響を与えました。
さらに社内のダイバーシティ拡大にも貢献。
At Dropbox, Guido has attended diversity-focused events and mentored women engineers.
DropboxにおいてGuidoはダイバーシティに焦点を当てたイベントに参加し、また女性エンジニアのメンターでもありました。
こうしたエピソードからも、ヴァンロッサム氏が尊敬される存在であったであろうことは容易に想像できます。ヴァンロッサム氏引退後の生活が良きものであるように祈念いたします。
追記:2020年11月、引退から復帰
2020年11月、引退は退屈だったとして復帰し、マイクロソフト入りを発表しました。
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プログラミング言語の開発の中心に居続けることがいかに難しいことか、この記事で紹介しています。まつもと氏はヴァンロッサム氏のPEP引退についても言及しています。
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