飲食領域でのテクノロジーによる革新(Food Tech Start-Ups) −AIIT起業塾#11−[PR]
You are what you eat.-食は人なり-。最近、自らの健康と共に、食に関心を持っている人が増えています。飲食とテクノロジーの関連性についてはピンと来ない方も多いかと思いますが、現在の飲食領域に於いては、テクノロジーを活用したフードテックと呼ばれる革新が起きています。
2018年2月4日(日)に産業技術大学院大学秋葉原サテライトキャンパスにて開催された「AIIT起業塾 #11」では、実際の飲食の現場でイノベーションに取り組む先駆者3名の登壇者を中心に、約40名の参加者が熱い議論を交わしました。
フードイノベーション ―エンジニアリングした完全栄養パスタ―
ベースフード株式会社 代表取締役社長 橋本舜氏からは、主食をイノベーションして健康を当たり前にしていきたい、との内容で講演頂きました。
橋本氏は東京大学教養学部卒業後に株式会社ディー・エヌ・エーへ入社、ゲームの企画開発や自動運転技術を使った無人タクシーなどの新規事業開発に携わってきました。その過程で地域に於ける高齢者の生活を目の当たりにし、直接的に健康寿命を延ばすような仕事がしたいとの思いから、この事業モデル発案に至りました。
日本国憲法に於いて健康は全国民に保障されているものの、栄養バランスのとれた食事を摂るのはどうしてこんなに難しいのだろうか。サプリメントで不足栄養を補うのではなく、毎日美味しく食べる主食でこの課題を実現させたいと、栄養の専門家や管理栄養士、食品メーカーなどの指導も仰ぎながら、「完全栄養パスタ」の製品開発をスタートさせました。
当初は前職勤務の傍ら、平日の夜や休日の時間を利用して試作繰り返しの日々でした。単に、パスタに計算された栄養素が入っていれば良いという訳ではなく、先ずは美味しいことに加え、茹でたときの味や色、食感なども大切です。この麺に合ったレシピ研究も含め、100回以上の試作を続けました。
ある程度自分で納得できた段階で、友人にも味や食感を試してもらった後、時間を買うという目的からクラウドファンディングを活用しました。
そこで集めた223名からの109万円をもとに生産を開始し、2017年から本格的に販売をスタート。既にクラウドファンディングでマーケティング実証されていたように、市場からは高い評価を得ることができました。
販売開始後まもなく、アマゾンのパスタ部門で販売ランキング連続一位を獲得するほどの人気を得ることができましたが、それ以降も計画的にマーケティングを進めているとのこと。
例えば、一般スーパーではこのプライシングでは受け入れてもらえないだろうからと直販にこだわったり、二度は試してほしいとの想いから2食パックとしたりと。大切なのは単体の栄養素ではなくバランスであるとの考えから、全粒粉や昆布など日本の伝統食材に最先端のスーパーフードを組み合わせ、2017年にはグッドデザイン賞を受賞。
今では同じ志を持つ仲間も8名に増え、近い将来、海外展開も視野に入れているとのことでした。
One Japanハッカソン発 大企業共創イノベーションの取り組み
大企業を中心に45社の若手や中堅有志が集う団体「One JAPAN」。そのOne Japan が昨年実施したハッカソンで最優秀プロジェクトに選ばれた「Cooklin’(クッキングARシステム)」メンバーである太野大介氏から、大企業に於ける共創イノベーションへの取り組みについて講演頂きました。
大企業発のイノベーションは生まれないと言われるが、実はそんなことはないと太野氏は力説します。太野氏は鹿児島大学大学院工学研究科を修了後、複数の企業勤務を経て現在は富士ゼロックス株式会社に勤務、事務機の部材開発や新規事業開発に従事しています。
大企業が持っている強みには、リソース・設備やブランド力、高い専門性など数多くあるものの、企業内の承認プロセスは多層化され、組織構造が縦割りで複雑なこともあり、上手く活用できていないことも多いようです。そこでイノベーションを興したい社員などは、企業を超えた繋がりから実現の糸口を見出すことも多いと。
こういったつながりの特徴としては、高い自由度、失敗の許容、多彩なチーム活動などが挙げられ、これらを組み合わせることで実現可能性の向上を試行しています。
そのような中、大企業の若手・中堅有志が集う団体「One JAPAN」では、日本のイノベーション共創に向けて、2017年8月に2日間に渡って「家族をHackする」というテーマで第一回ハッカソンが開催されました。運営約50名参加約100名という規模で、勤め先の異なる企業人らがアイデアを出し合いました。会社が違うということは、提供できるスキル・技術が異なることから、今まで考えたことの無かったアイデアやその実現方法が沸き上がったとのことです。
太野さんのチームが提案した「Cooklin'(クッキングARシステム)」は、母親の味を伝承していくためにAR技術を活用していこうというもの。単に料理を記録して再現させるだけでなく、リアルな通信機能を使っての健康見守り機能や調理レポート機能などを、今後持たせていこうとしています。
将来的には世界のキッチンを繋ぐところまでの構想があるようです。単身者や独身者も増え、親の味を伝承できる機会も減っており、これも一つの社会課題として必ずニーズはあると主張します。また、この考え方は介護ビジネスにつなげることもできるはずと太野氏は説明します。
一方、このような活動を進めていくには、各企業が保有する知財をどうするか、共創活動で得られたノウハウ等はどこに帰属するのかという課題もあるようです。現在、これらに向けての仕組みづくりを検討中で、今後、One Japan ハッカソンでは、経済産業省もテーマとしている副業のモデルケースとして取り上げて頂くよう、働きかけていきたいとのことでした。
ググらせないベンチャーが創る、並ばせないキャッシュレスフードコート
株式会社アクアビットスパイラルズ 代表取締役 ファウンダー CEOの萩原智啓氏からは、リアルな世界のモノとインターネット上のあらゆるコンテンツ・サービスをつなぐ「モノのハイパーリンク=Hyperlink of Things®」の活用事例や、自身の起業体験などを講演頂きました。
萩原氏は、早稲田大学卒業後リクルートフロムエーに入社し、インターネット黎明期の1994年にWeb開発やデジタル化支援の会社を起業。その後、「アクア(フィジカル)とビット(デジタル)の融合」を経営理念として、2009年3月に現在の株式会社アクアビットスパイラルズを設立、2015年2月にはモノや場所とオンライン情報を繋ぐプラットフォーム「SmartPlate™」を発表、世界中のスタートアップが集結するMobile World Congressの4YFN Award 2017に於いて、IoT領域のTOP 8 Finalistにも選出されています。「ググらせない=モノとコンテンツが直接繋がる世の中」を実現するべく、日々精力的なアプローチを続けています。
ググらせないとはどういうことか。例えば、フードコートのテーブルに貼られたシール型デバイスにスマホをかざすとメニューが開き、そのまま注文できてWeb決済まで繋がれば、食券販売機も呼び出しブザーもレジも不要となります。例えば、家庭の冷蔵庫マグネットにスマホをかざすと毎日クーポンチャレンジでき、デリバリーサービスと繋がれば、今すぐ注文することができます。あらゆる場所がマーケットプレイスになる考え方は、応用範囲が広く、結果的にFintechにもつながっていくでしょう。提供すべきは技術ではなく「新しいユーザー体験(UX)」なのだと、萩原氏は繰り返します。
また、45歳からスタートアップチャレンジを続けるメンタリティについても、常日頃より心掛けていることは何か、ファウンダー(創業者)の目線から過去から未来まで考えていることなどについて、熱く語って頂きました。スタートアップは、人に自分の想いを伝えることが重要とし、だからこそ海外のコンペティションにも積極的に参加し、自分の考えをピッチしまくるべきである。そのためには、3分で話せるシナリオ、5分で話せるシナリオなどを常に自分自身の中に持っておくこと。
繰り返し考えることが自分への推進力になり、次第に事業プランそのものが筋肉質になってくる。言葉を熱量に換えて、どれだけ理解者を増やしていけるかがスタートアップ成功のカギ。そういう意味から、グローバル市場に向けたエコシステムは最大限利用するべきだと述べました。
パネルディスカッション
その後、産業技術大学院大学 特任准教授の亀井省吾氏をコーディネータに3名の登壇者がパネラーとなり、会場からの質問に対して回答を行いました。
主な質問と回答は、以下のとおり。
橋本氏には、パスタをアジャイル開発していく中で、どこで売れる商品だと実感したか? との質問がありました。これに対して、完全栄養パスタは総合力の商品なので、基準を作るのは難しかった。先ずは、自分だったら買うかどうか考えた上で友達に試してもらった。その後はクラウドファンディングを使って市場の評価を確認したとコメントしています。
また、完全栄養パスタでアレルゲンフリーは実現するのか? という質問に対して、アレルゲンフリーの商品は対応予定で、通常の完全栄養パスタと2本立てで考えているとのコメントがありました。
太野氏には、地方の郷土料理なども継承されない場合が多くなっているが、Cooklin’で解決できるのでは無いか? との質問がありました。これに対して、そのようなニーズは日本だけでなく世界共通と考えており、対応していきたいと思うと回答しています。
萩原氏には、たくさんあるアイデアの中からフォーカスすべきものをどうやって決めたのか? という質問がありました。これに対し、先ず選ばない判断としてはユーザーエクスペリエンス(UX)を考えていないもの。言い換えると、問題解決ができるかどうかということ。では誰にとっての問題解決かというと、BtoBの場合はつい目前の顧客を気にしてしまいがちであるが、実際はその先の使用者の課題解決につながらないものは続かない。そこを理解した上で、自分たちのツールを使い倒すことが重要だと考えていると萩原氏はコメントしました。
そして、これから起業する人へのメッセージとして太野氏からは、大企業の中でも若い力が発揮しやすい良い時代になってきているので一緒に頑張っていきましょうと。萩原氏からは、やりたいときにやれば良いし、年齢も関係ない。資金調達面からもチャレンジしやすい環境が整っていることも、正しく理解するべきでしょうと。
橋本氏からは、やりたいことがあればやってみれば良いでしょう。ただし一旦スタートアップするとなかなか忙しくて、考える暇がなくなってしまうことも事実。アイデアはユニークでも、進め方については先人のアドバイスを確認しながら進めていけば良いと思う、とのメッセージがありました。
最後に、亀井氏より、登壇者に共通しているのは、課題を見い出し解決したいという強い思いがスタート地点である点、社会や現状に対しての課題意識がスタートアップの原動力に成り得るのでは無いかとの総括コメントがあり、今回の起業塾は締めくくられました。
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AIIT起業塾について
産業技術大学院大学が主催する「AIIT起業塾」は、広く一般の方々が参加できるオープンな勉強会です。IT・デザイン・マネジメントなどを活用し、様々な産業分野で新しい事業構築や問題解決をしている先駆者達が登壇し、講演します。また、自由なディスカッションする機会も設けられています。 Twitterの ハッシュタグ「#aiit_startup」では新しい情報だけでなく随時質問や要望を受け付けています。今後も引き続き開催予定ですので、ぜひご参加ください。
また、この「AIIT起業塾」は、文部科学省 平成26-28年度「高度人材養成のための社会人学び直し大学院プログラム」に採択された産業技術大学院大学「次世代成長産業分野での事業開発・事業改革のための高度人材養成プログラム」継続関連イベントの一環として開催されました。 尚、産業技術大学院大学では、平成30年4月28日(土)午後に品川シーサイドキャンパスにて「シニアの起業」をテーマに講演会を開催します。起業に関心のある方(年齢、職業、性別は問いません)は是非お越し下さい。
(執筆:城 裕昭=産業技術大学院大学 認定登録講師)
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