Docker発展の貢献者、Docker社創業者兼CTOのSolomon Hykes氏がDockerを去ると発表

2018年4月3日

Docker社の創業者兼CTOのSolomon Hykes氏は、3月28日付けでDockerブログにポストされた記事「AU REVOIR」(フランス語の「さよなら」)で、同社を去ることを発表しました。

Today I’m announcing my departure from Docker, the company I helped create ten years ago and have been building ever since.

本日、私はDocker社から去って行くことを発表します。この会社は10年前に私が設立に立ち会い、それ以来築き上げてきたものでした。

Solomon Hykes氏 DockerCon 2016の基調講演に登場したSolomon Hykes氏

Dockerの発展にもっとも大きな貢献をした人物のひとり

Hykes氏は、2008年7月に現在のDocker社の前身であるdotCloud社を設立し、CEOとなった人物です。

dotCloudは自社のクラウドサービスの技術的基盤としてLinuxに対応したコンテナ型仮想化の技術に取り組み、それが2013年にオープンソース実装の「Docker」となります。

その2013年、社名をDockerに変更した同社はCEOにBen Golub氏を迎え、CEOだったHykes氏はCTOへと肩書きを変えます。

2015年、Hykes氏はCoreOSと和解することでコンテナ実装の標準化団体「Open Container Initiative」を発足させ、Dockerが事実上の業界標準であることを確実にしました。

Hykes氏は2017年にDockerをはじめとするコンテナ型仮想化基盤の実装をコンポーネント化する「Moby Project」を突如発表して関係者を驚かせる一方、コンテナオーケストレーションツールとしてKubernetesが事実上の標準になることを決定的にしたDockerとKubernetesの統合とサポートを発表しています。

その間、コンテナランタイムのDockerは急速に普及し、Docker社はマイクロソフトやVMware、IBMなどとの大型提携も発表しました。

Hykes氏がこうしたDockerの誕生と発展にもっとも大きな貢献をした人物の一人であることを、否定する人はいないでしょう。

Hykes氏はなぜDockerを去るのか?

Hykes氏がなぜDocker社を去るのか、その理由は説明されていません。しかしブログでは、いまのDocker社には大企業向けのソフトウェアビジネス経験者がCTOとして求められているとして、暗に自分にはそうした役割が務まらないことを示そうとしているように読めます。

To take advantage of this opportunity, we need a CTO by Steve’s side with decades of experience shipping and supporting software for the largest corporations in the world.

今あるこの機会を生かすには、世界中の大企業に向けてソフトウェアを提供しサポートし続ける経験を何十年も持つようなCTOが、スティーブ(訳注:現在のDocker社のCEO Steve Singh氏のこと)の右腕として必要なのだ。

現在も急速に成長を続けているDocker社は、いわば中興の祖ともいえるBen Golub CEOが昨年5月に退職し、新CEOとしてコンカーの共同創業者で企業向けソフトウェアビジネスの経験豊富なSteve Singh氏が就任しました。Singh氏の就任が示すようにDockerのビジネスは企業向けにフォーカスしたものになっており、Hykes氏は企業向けソフトウェアビジネスの経験がない自分には、Singh氏の下で働くCTOは務まらないと考えたのかもしれません。

そうした中でHykes氏は、Docker創業者として会社を去る複雑な思いを正直に吐露しています。

As a founder, of course, I have mixed emotions. When you create a company, your job is to make sure it can one day succeed without you. Then eventually that one day comes and the celebration can be bittersweet.

創業者としては、もちろん複雑な気持ちだ。もしもあなたが企業を立ち上げたとしたら、いつかは自分がいなくなってもその企業が成功し続けるようにすることがあなたの仕事となる。いずれその日がやってきたとき、その祝福はほろ苦いものだ。

次期CTOは決まっておらず、Hykes氏は次のCTO候補を探すための助言などを行っていくとのこと。

下記はブログ記事の最後に掲げられたイラストです。

fig

昨年12月にPublickeyで公開した記事「Dockerコンテナ時代の第一章の終わり、そして第二章の展望など」で書いたように、いまはコンテナランタイムのコモディティ化が進んでおり、これからはKubernetesによるコンテナオーケストレーションを中心に、どのようなソリューションを構築するかが技術的にもビジネス的にも重要になってくると見られています。

これまでDockerの発展に大きく貢献してきたHykes氏がDocker社を去る動きも、こうしたDockerコンテナ時代の節目を示す出来事のひとつなのかもしれません。

(追記 2022/4/19 Solomon Hykes氏の次のチャレンジであるDaggerが公開されました)

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Junichi Niino(jniino)
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