シスコ、マイクロソフトとの協業でホワイトボックススイッチ用レイヤの「SAI」をNexus 9200/9300スイッチで対応。マイクロソフトは自社Linux OSを搭載か?

2017年7月3日

シスコはデータセンター向けスイッチNexus 9200/9300で、いわゆるホワイトボックススッチ用のソフトウェアであるSAI(Switch Abstraction Interface)対応を実現したことを明らかにしました

fig シスコとマイクロソフトが協力してSAI(Switch Abstraction Interface)対応を実現したNexus 9200とNexux 9300データセンター用スイッチ。SAIはASICを抽象化するレイヤであり、これに対応することでさまざまなスイッチ用OSを搭載できるようになる

シスコとマイクロソフトが協力してSAI(Switch Abstraction Interface)対応を実現したNexus 9200とNexux 9300データセンター用スイッチ。SAIはASICを抽象化するレイヤであり、これに対応することでさまざまなスイッチ用OSを搭載できるようになる

シスコのシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャ David Goeckeler氏は、同社のブログに投稿した記事「Cisco and Microsoft — Collaborating on Data Center Innovation」で次のように書いています。

Cisco and Microsoft have collaborated on adapting Cisco’s NX-OS on Nexus 9500 switches, based on Cisco’s CloudScale ASICs. In addition, Cisco’s Nexus 9200/9300 platforms running Cisco’s Switch Abstraction Interface (SAI) will offer customers the freedom to run the network operating system of their choice on SAI-ready Cisco Nexus platforms.

シスコとマイクロソフトは協力し、シスコのCloudScale ASICをベースにしたシスコのNX-OSをNexus 9500スイッチに対応させた。
さらに、シスコのNexus 9200/9300プラットフォームで稼働しているSwitch Abstraction Interface(SAI)はSAIレディなシスコNexusプラットフォームによって顧客に自由なネットワークOSの選択肢を提供するだろう。
(「Cisco and Microsoft — Collaborating on Data Center Innovation」から)

上記の前半で紹介されているシスコの「NX-OS」は、同社のOSとしてよく知られているIOSとは別のもので、Nexusシリーズ用に開発されたOSです。IOSと、SANスイッチ用のOSである「SAN-OS」をベースに、モジュール性、復元性、QoSなどの機能を高めたデータセンター用途向けのOSです。

注目すべきは、後半で書かれているNexus 9200/9300でSwitch Abstraction Interface(SAI)が稼働している点です。

SAIはASICを抽象化するソフトウェアレイヤ

一般にスイッチの内部では、スイッチ全体を制御するCPUに加えて、ネットワークを経由してやりとりをする信号を高速かつ安定的に処理するための専用のプロセッサ「ASIC」(Application Specific Integrated Circuit:特定用途向け集積回路)が搭載されています。

このASICが搭載されているために、スイッチは一般のコンピュータよりも高速にネットワークの処理が可能になっているわけです。

そして、例えばプロセッサにはx86やARMやPOWERなど複数のベンダから異なるアーキテクチャのプロセッサが提供されているように、ASICにも複数の種類があります。そのため、ASICが異なるごとに、そのASICに対応したデバイスドライバなどを備えたスイッチ用OSの開発が必要になります。

SAIはこのASICを抽象化し、共通のAPIを提供することで、どんな種類のASICを搭載したスイッチでも(CPUが共通ならば)実行可能なソフトウェアを実現するソフトウェアレイヤです。

このSAIは、Facebookが主導するオープンなサーバやネットワーク機器を開発するための団体OCP(Open Compute Project)で標準が策定されており、自由にスイッチOSを搭載できる、いわゆるホワイトボックススイッチの標準仕様のひとつとしても知られています。

参考:ホワイトボックススイッチとは何か? オープン化がすすむネットワーク機器のハードとソフトの動向(後編)。ホワイトボックススイッチユーザ会 第一回勉強会

引用した上記ブログ記事の最後の文にある「SAIレディなシスコNexusプラットフォームによって顧客に自由なネットワークOSの選択肢を提供するだろう」とは、SAIによってASICが抽象化されるため、Nexus 9200/9300スイッチに対してまるでホワイトボックススイッチのようにOSを自由にユーザーが選択し、導入できるようになることを説明しているのです。

そしてこのSAIによるメリットは、同ブログ内のマイクロソフトのAzure Networking担当CVP、Yousef Khalidi氏の次のようなコメントで的確に説明されています。

Cisco support for the SAI abstraction layer on its Nexus CloudScale switches helps fulfill our vision for SAI to enable rapid innovation in silicon, CPU, power, port density, optics, and speed across multiple platforms while enabling Microsoft and cloud operators to leverage the same software stack across a variety of switch hardware platforms.

シスコによるNexus CloudScaleスイッチ上のSAI抽象化レイヤは、わたしたちのバージョンであるSAI対応を満たしており、シリコン、CPU、電力、ポート密度、光通信、多様なプラットフォーム間での高速通信などの革新を可能にするものだ。と同時に、マイクロソフトやクラウド事業者において、さまざまなスイッチハードウェアプラットフォーム間でおなじソフトウェスタックを採用することを促進することになる。

SAIに積極的なマイクロソフト。自社製Linux OSを搭載か?

マイクロソフトは以前からSAI対応に非常に積極的でした。

同社は2015年9月に、データセンター向けスイッチ用にLinux OSをベースにした「Azure Cloud Switch」を開発したことを明らかにしています。このAzure Cloud Switchは、SAIを利用してASICを抽象化することで、スイッチハードウェアに対応しています。

参考:マイクロソフト、Linuxベースのデータセンター向けスイッチ用OS「Azure Cloud Switch」開発をブログで紹介。ASICのプログラミング用API搭載

そして2016年3月には、すでに同社内で運用されているデータセンター向けスイッチ用ソフトウェア「SONiC」をオープンソースで公開しました。

参考:マイクロソフト、ホワイトボックススイッチ用のLinux対応スイッチソフトウェア「SONiC」をオープンソースで公開 - Publickey

SONiCも実行環境としてSAIを用いており、ホワイトボックススイッチを含むさまざまなベンダのSAI対応スイッチで稼働することが説明されています。

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シスコがマイクロソフトと協力して自社のデータセンター向けスイッチをSAI対応にしたということは、おそらくマイクロソフトからこれらSAI対応のOSやソフトウェアによって動作確認などを行ったのではないかと考えられます。

そしてもしかしたらマイクロソフトは自社データセンター内でSAI対応の自社製スイッチ用Linux OSとソフトウェアをシスコのスイッチ上で稼働させているのかもしれません。

マイクロソフトをはじめとする大規模なデータセンタ事業者にとって、ホワイトボックススイッチとそれを実現するための記述は、自社でスイッチOSをカスタマイズでき、それによって自社でさまざまなネットワーク機能やサービスを構築できるため、非常に重要なものと位置づけられています。

それゆえに、シスコのようなネットワーク機器のトップベンダもホワイトボックススイッチの技術を、マイクロソフトのようなクラウドベンダとともに採用し始めている。今回の発表はそうした重要なトレンドを示しているのではないでしょうか。

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