IBM、量子コンピュータで分子や化学反応の効率的なシミュレーション実現。量子コンピュータが産業や研究で活用できる道筋を示す
新薬や新素材の開発、料理や電池の充電など、私たちの身の回りには化学反応を利用したさまざまなものがあふれています。
もしもこれらの化学反応を分子レベルでコンピュータシミュレーションできるようになり、実際に試すことなく観察し試行錯誤できるようになるとしたら、産業界から日常生活に至るまで革新的な変化が起きることが予想されます。
コンピュータを用いた分子や化学反応のシミュレーションはすでに学術分野などで行われていますが、現在のところ最新のスーパーコンピュータを用いてたとしても、複雑さと計算量のため非常に時間がかかるとされています。
そうしたなか、IBMは9月13日、量子コンピュータを用いて分子を効率的にシミュレートするアルゴリズムを開発し、複雑な化学反応のシミュレーションと研究を実現する道筋を開いたと発表しました。
その内容は9月14日付の学術誌「Nature」に掲載され、表紙にとりあげられています。
量子コンピュータはよく知られているように、一部の問題を従来のコンピュータよりも飛躍的に高速に処理できる能力を備えるとされています。IBMはプレスリリースの中で、今回の発表が目指すものについて次のように説明しています。
The goal is that we will have the ability to use quantum computers to wholly analyze molecules and chemical reactions, which could help accelerate research and lead to the creation of novel materials, development of more personalized drugs, or discovery of more efficient and sustainable energy sources.
目指すものは、量子コンピュータで分子と化学反応を完全に分析することでこの分野の研究を加速し、新素材やパーソナルドラッグの開発、より効率的で持続可能なエネルギー源の発見などにつなげることだ。
今後数年で量子コンピュータは既存のコンピュータの能力を上回るだろう
今回IBMが用いたのは、3月に汎用量子コンピュータとして登場した「IBM Q」です。
資料によると、IBM Qの7量子ビットのうち6量子ビットを使って水素化ベリリウム(BeH2)分子をシミュレートし、もっともエネルギーが低い状態を測定できたとのこと。
IBM ResarchのWebサイトに掲載された記事「How to measure a molecule’s energy using a quantum computer」から、解説の一部を引用します。
By mapping the electronic structure of molecular orbitals onto a subset of our purpose-built seven qubit quantum processor, we studied molecules previously unexplored with quantum computers, including lithium hydride (LiH) and beryllium hydride (BeH2). The particular encoding from orbitals to qubits studied in this work can be used to simplify simulations of even larger molecule and we expect the opportunity to explore such larger simulations in the future, when the quantum computational power (or “quantum volume”) of IBM Q systems has increased.
分子軌道における電子構造を、この用途にために作られた7量子ビットプロセッサのサブセットにマッピングすることで、これまで量子コンピュータでは解明されていなかった水素化リチウム(LiH)や水素化ベリリウム(BeH2)などを研究しました。今回の発表の中で特に、軌道を量子ビットへ符号化する研究は、量子コンピュータであるIBM Qシステムの計算能力(量子ボリューム)が拡大したときに、より大きな分子のシミュレーションを単純化するために使用できます。
今回の発表は、量子コンピュータがこうした研究に使える道筋を開いたというだけで、すぐになにか画期的な成果を生み出せるというものではありません。しかしIBM ResearchのAI研究およびIBM Q担当バイスプレジデントDario Gil氏は、この先数年でIBM Qの能力は既存のコンピュータの能力を上回り、化学や生物学、素材研究などの分野で使われ始めるだろうと予測しています。
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