HashiCorp創業者、ミッチェル・ハシモト氏に聞く(前編)~HashiCorpを設立した経緯、エンタープライズ市場へフォーカスする理由とは?
VagrantやTerraformなど、オープンソースのインフラ自動化ツールで知られるHashiCorp。同社は今年、日本法人を設立し、国内での本格的な活動をスタートさせました。
9月に米テキサス州で開催したイベント「HashiConf'17」では、ポリシーを設定することでインフラの自動化を安全に実行する「Sentinel」の発表など、同社はこのところ企業向けのラインナップの充実が目立ちます。
同社の創業者兼Co-CTOのミッチェル・ハシモト(Mitchell Hashimoto)氏に、創業の経緯やエンタープライズへフォーカスする理由、今後の方向性などとともに、ハシモト氏と日本との関係などについても聞きました。
HashiCorpを立ち上げた経緯とは?
──── Publickeyが最初にハシモトさんを取材したのは2013年、Vagrantのコミュニティミートアップでした。そのときはまだHashiCorpの話はしていませんでしたね。ここではまずHashiCorpを立ち上げられた経緯や理由について教えてください。
ハシモト氏 Vagrantが人気になったおかげで、フルタイムでこれをさらに追求するか、それともそれ以外のフルタイムの仕事にするかを選ばなくてはなりませんでした。
私にとってこれは簡単な選択でした。Vagrantの開発は大好きだったからです。そこで共同創業者となるアーモン(創業者兼Co-CTO Armon Dadgar氏)と、会社を立ち上げようと相談しはじめました。
Vagrantの開発をはじめたときに、DevOpsやクラウドの導入、マイクロサービス、このときはそう呼ばれていませんでしたが、そういった課題に対するソリューションを作りたいと考えていて、だからVagrantはそのためのツールとして考えていましたし、そうしたソリューションに会社として挑戦しようと考えていました。
これが2012年頃です。
──── ということは、HashiCorpはあなたとアーモンさんの二人で立ち上げたと。そのときはもう大学は卒業されていたのですか?
ハシモト氏 ええ、2011年1月に卒業しました。会社を立ち上げたのはその18カ月後ですね。
──── 現在のHashiCorpは何人いるのですか?
ハシモト氏 現時点では130人を超えました。
──── そんなにいるのですか!
ハシモト氏 ほとんどが米国です。たしか欧州に5人ほど、オーストラリアに数人、日本に4~5人、それ以外が米国と少しカナダにいます(新野注:現時点で日本法人は6名になったとのこと)。
エンタープライズにフォーカスすることでオープンソースも発展できる
──── 先日、年次イベント「HashiConf'17」をテキサス州オースティンで開催され、新機能のSentinelなどが発表されました。
参考:[速報]HashiCorp、インフラ変更全体にまたがるアクセス権を設定する「Sentinel」発表。「Policy as Code」を実現するフレームワーク。HashiConf'17
参考:[速報]HashiCorp、「Terraform Module Registry」発表。インフラ構成自動化テンプレートのパブリックレジストリ。HashiConf'17
ハシモト氏 はい。いちばん大きな発表はSentinelのリリースだと思いますが、それ以外にも数多くの発表がありました。
全体のメッセージとしては、もちろん商業的な成功といった面もありますが、その商業的成功によって、私たちはより多くのオープンソースを開発し、アップデートできた、という点です。
ビジネス面でのエンタープライズへのフォーカスにもかかわらず、2016年から2017年にかけてはHashiCorpにとってもっともオープンソースのアップデートをした年でもありました。
エンタープライズにフォーカスすることで、オープンソースもさらに発展させていける、という好循環になっているのです。
エンタープライズにフォーカスすることでオープンソースも発展できる
──── HashiCorpが積極的にエンタープライズにフォーカスしている点は意外でした。エンタープライズにフォーカスしている理由は何ですか?
ハシモト氏 私たちはオープンソースを愛していますし、私たちのDNAはオープンソースにあります。しかし、もし私たちが優れたビジネスモデルを持っていなかったら、オープンソースを提供することもできないでしょう。そのためにはビジネス面で強くなければならないのです。
私たちは過去2年間、大企業がどんなソフトウェアを使っていて、どんなニーズがあるのか、それはオープンソースソフトウェアとどう違うのか、といったことを学んできました。そしてNomadやConsul、Terraform Enterpriseなどを開発し、これによってガバナンス、コンプライアンス、大規模コラボレーションといった機能を実現しました。
そのうえで、これらを可能な限りオープンソースソフトウェアにも取り込もうとした結果、この1年で多数のオープンソースソフトウェアのアップデートにもつながったのです。
──── エンタープライズ向けソフトウェアに対する知識や経験をどうやって得たのでしょうか?
ハシモト氏 たしかに最初は難しいことでした。どうしたかというと、オープンソース版を使っている企業にうかがって、話を聞き、アドバイスをもらうようにしました。
そうやって大規模な企業ユーザーと協力しつつ、はじめて開発したのがConsulです。
同様にしてVault、Sentinelも開発してきました。Sentinelは10以上の企業と協業し、そうした企業の問題を解決しているかどうかを確認しながら毎週アップデートを繰り返して開発してきました。
HashiCorpとクラウドベンダとの連携の意味は
──── クラウドベンダとの連携も発表しました。これは御社にとってどういう意味があるのでしょうか?
ハシモト氏 私たちの企業のミッションのひとつが、クラウドの導入を促進していくことです。それを実現するためには、どのクラウドベンダーとも等しく連係していくことが重要だと考えています。
──── クラウドの導入促進が重要だと考えている理由は何ですか?
ハシモト氏 なぜなら、より迅速になれるからです。自分でハードウェア資産をもつことなく、すぐに調達でき、不要になれば捨てられて、使った分だけしか支払う必要がない。こうしたことが迅速になれることを可能にしてくれるからです。
こうした先にあるのがDevOpsと呼ばれているような迅速なアプリケーションのデリバリです。クラウドの導入はそのために不可欠だと考えています。
──── 一方で、クラウドベンダは例えばTerraformと競合するようなサービスも提供しています。これについてはどう考えていますか?
ハシモト氏 それは問題ではありません。マルチクラウド対応だということが、クラウドベンダが提供するツールと私たちが提供するツールの違いです。
例えばAWSしか使っていないユーザーならば、AWSのツールを使うのが正しい選択かもしれません。しかしいつかマルチクラウド環境にするときには、私たちのツールを使うほうがよいでしょう。
短期的な課題解決のツールと、長期的なそれは両立しない場合があるので、どちらを選ぶかはお客様次第です。
ただ、特に米国ではどの企業と話してもマルチクラウドだと聞きます。
Sentinelの次のコンセプトは?
──── SentinelはHashiCorpの製品群の重要なラストピースのように見えます。まだミッシングピースは残っているのでしょうか?
ハシモト氏 ええ、まださらに取り掛かるべきことはあります。もちろんSentinelは長いあいだ温めてきたものだったのでリリースできて嬉しいのですが、まだ計画中のものはあります。
いつもアイデアはあって、アイデアそのものを思いつくのは簡単です。大事なのはそれをいつ出すか、ということです。
例えばSentinelは、多くのユーザーが自動化を進めていくと、Sentinelのようにポリシーによって自動化を安全なものにする機能が必要になります。
もしSentinelの登場が5年前だったとしたら、自動化そのものがそれほど普及していなかったでしょうし、そうなればSentinelにそれほど興味を持たれなかったでしょう。
ですから、Sentinelのリリースはこのタイミングが適切だったと思います。
いまもクールなアイデアはいくつかありますが、それがいつ必要とされるかについて考えているところです。
次はマイクロサービス関連に
──── ということは次の製品のコンセプトや方向性は?
Sentinelのようなポリシーの実装については、さらにフレキシブルなものにしていかなければならないと考えています。
そしてその次のチャレンジとしては、なんと言えばいいか、マイクロサービスのコネクティビティを支援するものです。
いまはサービスメッシュやSDN(Software-Defined Network)などのコンセプトや実装がありますが、私たちにも同様に考えているものがあり、それがいまのミッシングピースだと考えています。
──── それはこれまでのHashiCorpのチャレンジとは少し異なるようにも見えますが。
ハシモト氏 うーん、そうですかね。そうかもしれません。でも会社を始めたときのコンセプトとして、クラウドの導入促進、そしてアプリケーションの量の重要性、これはマイクロサービス的なものを指すのですが、そうしたものが私たちのコアにあります。
そうした自動化をインフラのレイヤから積み上げていって、最後にはすべて自動化されたデータセンターを実現する、という夢を追っているわけです。
≫後編に続きます。後編ではHashiCorpの将来像、ハシモト氏と日本の関係、そしてファウンダーとしての役割などを聞いています。
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