業務アプリケーションはコンシューマアプリを追いかける。Salesforce.comがAI機能を搭載した理由。Dreamforce 2016
Salesforce.comは米サンフランシスコで年次イベント「Dreamforce 2016」を10月4日から7日まで、開催しました。
米国で開催されるIT系のイベントのなかでもトップクラスの動員数を誇るこのイベント(公式発表では登録者が17万人以上)で基調講演に立った同社CEOのマーク・ベニオフ氏は、いつものようにステージ上だけでなく観客のあいだを歩きながらプレゼンテーションを行い、エネルギッシュな姿を見せました。
すでにコンシューマではAIが活用されている
今年の最大の目玉は、同社の業務アプリケーションにAI機能を提供する「Salesforce Einstein」(セールスフォース アインシュタイン)の登場です。
Salesforce Einsteinは、同社のクラウドなどに蓄積されたさまざまなデータ、顧客データや取引データ、商品、販売状況、社員のメールやスケジュール、チャットなどをもとにディープラーニングによって機械学習を行うというもの。
これによりSalesforce.comが提供するさまざまな業務アプリケーションで、レコメンデーションやサポート支援などAI機能を基にした新機能を利用できるようになります。AI機能を単独で用意するのではなくプラットフォームに統合し、最初からアプリケーションとともに提供するのはセールスフォース・ドットコムらしいところです。
参考:セールスフォース・ドットコム、ディープラーニング機能「Salesforce Einstein」発表。営業に優先顧客を提示、顧客に商品レコメンデーション、サポートに回答をアドバイス
同社がSalesforce Einsteinを紹介するためのストーリーとして使ったのが、下のスライドです。
コンシューマアプリケーションの世界ではAmazon.comのレコメンデーション、Siriの自然言語認識、Facebookの写真における顔認識、そしてGoogleの自動運転など、すでにAIがさまざまな形で活用されていると。
だから業務アプリケーションもこれからAIを活用する時代に入るのだ、ということです。
同社はもともと、業務アプリケーションはAmazon.comで本を買うように簡単に使えなければならない、というコンセプトで創業した会社です。そして創業から15年以上たったいまも、コンシューマーアプリケーションが先行するAIを業務アプリケーションに取り入れるという、初心を貫いているのです。
実際、同社CTOのパーカー・ハリス氏はこのことについて基調講演で次のように発言しています。「私たちの出発点は、セールスフォース・オートメーションはなぜAmazon.comで本を買うように簡単にならないのか、ということだった。Salesforce Einstainで、私たちは同じことをしようとしているのだ」
セールスフォース・ドットコムも「プラットフォームとしての会話」へ
Salesforce Einsteinを除けば新しい発表がほとんどなかったマーク・ベニオフCEOの基調講演で、目を引いた数少ないポイントの1つが「Salesforce LiveMessage」の発表でした。
これは9月に同社が買収したHeyWireのLiveText Agentを改名したもので、Salesforce.comを通じた顧客とのコミュニケーションを、TwitterやFacebook、LineのテキストメッセージやAmazon Echoの音声対話などで行えるというものです。
ベニオフ氏は会話がコンピュータとの新しいUIになると発言した上で、次のように述べています。「すべてのメッセージングアプリケーションはSalesforceのユーザーインターフェイスになる。ワオ! コンピュータとの対話手段は変わろうとしているのだ」
そしてベニオフ氏は「Conversations as a Platform」(プラットフォームとしての会話)という言葉をこの新機能のコンセプトに用いました。
会話がコンピュータとのユーザーインターフェイスになるというコンセプトと、「Conversations as a Platform」という言葉は、実は3月にマイクロソフトが行ったイベント「Build 2016」で、サティア・ナデラCEOが同社のAI機能であるCortanaのBot Frameworkを発表したときに話した内容とまったく同じです。
そしてテキストや音声による会話が新しいUIになるという考えは、マイクロソフトだけでなく、GoogleもFacebookもAppleもOracleもAmazon.comもIBMも、主要なITベンダの多くが明確にあるいは暗黙の内に唱えていることです。そしてそこには必ず、音声認識やテキスト解析、自動応答などを実現するためにAIが関わっています。マイクロソフトのCortana、AppleのSiri、IBMのワトソン、SalesforceのEinsteinがそれです。
すなわち、主要なベンダの競争領域は、クラウドを基盤にしつつも少しずつ新しい領域、会話とボットと人工知能といった領域へと広がっているのです。
セールスフォース・ドットコムはその競争に後れを取ることなく飛び込んでいくのだ、ということがこの基調講演で明らかになったことでした。
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