機械学習でCRMデータやGmailやTwitterなどを解析して顧客の行動を予測する。Salesforce Einstein。Dreamforce 2016
Salesforce.comが米サンフランシスコで開催した年次イベント「Dreamforce 2016」では、AI機能の「Salesforce Einstein」が鳴り物入りで発表されました。
機械学習機能をクラウドで提供するサービスは、GoogleがPrediction APIやVision APIで、AmazonクラウドはAmazon Machine Learningで、マイクロソフトはAzure Machine Learningで、IBMはWatsonなどで提供しているとおり、すでに多くのベンダが発表し、リリースしています。
Salesforce Einsteinがそうした機械学習のサービスと違うのは、最初からSalesforce.comのアプリケーションに組み込まれているところにあります。Dreamforce 2016の講演でも「Salesforce Einsteinはプラットフォームに組み込まれている」、などの説明でそのことが強調されていましたが、これが具体的にどのような意味を持つのか、少しかみ砕いて考えてみようと思います。
利用者は機械学習の知識を必要としない
例えば、機械学習を用いて、見込み顧客の中からどの顧客がいちばん見込みがあるのか、どの顧客は見込みがないのか、過去のデータを基に見込み度合いに応じてスコア付けをしたいとします。
機械学習APIを用いようとすると、まずは営業先の会社名、肩書き、職種、名前などのリスト、これまでに顧客に提案した内容、見積書、顧客からの質問、最初に顧客とやりとりを始めてからの期間など、見込み度度合いに関係しそうな過去のデータを集めてスコア付のためのモデルを作成し、機械学習を繰り返し評価してみる、といった手順を踏むことになるでしょう。
それには業務知識と機械学習の知識などが求められます。
しかしSalesforce Einsteinには、最初から機械学習を用いた見込み顧客のスコアリング機能が用意されています。利用者がデータを用意したりモデルを試行錯誤したり学習をさせる必要はありません。
なぜSalesforce Einsteinですぐにこの機能が利用できるかというと、理由は2つあります。
1つ目は、最初から機械学習の目的が「見込み顧客のスコア付け」や「売り上げ予測」「商品のレコメンデーション」「顧客への最適なメッセージ対応」など、同社のクラウドサービスごとに明確になっているため、そのための機械学習機能が最初から同社によって作り込まれていること。
2つ目は、顧客一覧、やりとりの履歴、過去の売り上げ、過去のサポート履歴など、機械学習に必要なデータが、Salesforce.comのデータベースの中にあらかじめ決まったスキーマで保存されているため、そのまま機械学習にすぐ利用できるからです。さらに後述するように、GmailやGoogle Calendar、Twitterといった外部のデータも参照します。
Salesforce Einsteinは、これらのデータをまとめて機械学習にかけて、顧客の行動を予測するのです。
ただし、すべての業種や顧客に対して同一の機械学習のモデルで正確に予測できるわけではありません。例えば、ある顧客が、取引先を自社から別の企業へ切り替える(いわゆる「チャーン」)可能性があるかどうかを予測するケースでは、業種ごと、企業ごとに可能性の割り出し方に大きな違いがあると考えられます。
しかし同社のデータサイエンス ディレクターShubha Nabar氏は、業種ごと、ユースケースごと、顧客ごとに求められるモデルの選択やパラメータチューニングなどを自動的に最適化する技術を開発したと説明しています。
Salesforce Einsteinの実際
下記がデモで示されたSalesforce Einsteinの画面の一部です。左側には今期予算の実績と予測が示されており、右側にはメールやソーシャルメディアなどの分析結果から、一番上に競合情報、その次に見込みスコアの高い顧客が並んでいます。
Salesforce Einsteinが利用するデータソースも指定できます。CRMに登録されている情報やSalesforceのカレンダーやメールだけでなく、Google Calendarの情報、GmailやYahoo Mail、Apple Mail、TwitterやFacebook、LinkedIn、Google+の情報なども指定可能です。
開発ツールからSalesforce Einsteinを呼び出して予測数値などを元に通知したり、アプリケーションの動作を決定する、といったことも可能です。
同社CEOのマーク・ベニオフ氏は、Salesforce Einsteinが「みんなのためのデータサイエンティストだ」と説明し、「AIを民主化する(誰でも使えるようにする)」としました。それは汎用の機械学習機能を提供するのではなく、同社のサービスにあわせたビジネス用途に特化して提供するということにポイントがあるといえます。
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