AWSとVMwareの提携から見えてくるもの。最強のハイブリッド環境を手に入れたAmazonと、クラウドでの逆転を狙うVMware
Amazon Web ServicesとVMwareの提携による「VMware Cloud on AWS」の発表は、意外性のある大型発表でした。この提携が両社にとってどんな意味をもつのか、考えてみました。
最強のハイブリッド環境を手に入れたAWS
Amazon Web Services(以下AWS)は、クラウド市場において競合他社を圧倒的にリードする巨人です。そのAWSに弱点があるとすれば、ハイブリッドクラウドのソリューションに乏しいという点でしょう。
AWSを猛追するマイクロソフトはハイブリッドクラウドのソリューションが充実していることもあり、この弱点をどう補うのかが、AWSにとって最大の課題だったといえます。
その意味で、オンプレミスにおける仮想化のリーダーともいえるVMwareと提携し、その仮想化基盤とシームレスなAmazonクラウドとの接続を実現したことは、同社にとって最強のハイブリッドクラウド環境を手に入れたといえます。
クラウドでの逆転を狙うVMware
VMwareについてはどうでしょうか。この提携に先立つこと8カ月。今年の2月にVMwareは今回の発表と似たような提携をIBMと行っています。
提携の内容は、VMwareの仮想化基盤であるvSphere、vSAN、NSXをIBM Cloudで提供し、オンプレミスとIBMクラウドをシームレスに接続する環境を実現する、というものです。今回のAWSとの発表とほぼ同じ構図です。
実は今日のAWSとの提携発表で、VMware CEOのパット・ゲルシンガー氏は、今年の早い時期から今回のVMware Cloud on AWSのアーキテクチャについてAWSとVMwareの両社で検討を始めたと話しています。
VMwareにとって、IBMとの提携とAWSとの提携は発表こそ時期がずれているものの並行して行われているプロジェクトというわけです。そしてもちろん数カ月後に「VMware Cloud on AWS」とほぼ同じ内容の「VMware Cloud on IBM Cloud」が登場することは十分にあり得ます(また、すでにIBM CloudでvSphere、vSAN、NSXを走らせる「VMware Cloud Foundation」が発表されています)。
そしてもう1つ、今年8月に行われたVMworld 2016 USの初日の基調講演で同社は「Cross-Cloud Services」を発表しました。
これは仮想化によってサーバを抽象化したように、パブリッククラウドの上にも仮想化レイヤを設けることで抽象化し、クラウドの違いを超えてリソースを一元管理できるようにする、というものです。
こうしたVMwareの発表から見えてくるのは、同社が自社でデータセンターを展開してAWSやIBMやマイクロソフトと正面から戦う戦略は放棄したのだろう、ということです。
そして同社が狙っているのは、他社が築いたクラウドインフラの上でVMwareのソフトウェアを走らせることであらゆるクラウドを抽象化してしまい、どのクラウドプロバイダーのクラウドを使っていても、そしてオンプレミスを使っていても、つねに顧客からはVMwareのソフトウェアによるSoftware-Defined Datacenterを使っているように見えるようにする、ということです。
VMwareはデータセンターの展開という苦手な物理レイヤでの競争を捨て、得意のソフトウェアレイヤの戦いに持ち込むことでクラウド市場で逆転しようという目論みです。
AWSとVMwareの提携は両社がともに戦略上で必要なメリットを得た、いわゆるWin-Winな提携といえますが、一方で、AWSとVMware、それにIBMやマイクロソフトなどを含むさまざまなクラウドのプレイヤーがレイヤを超えて主導権を争う様相が具体的に見えてきた、ともいえるのではないでしょうか。
(2018年8月28日 追記)この記事を執筆してから約2年後の2018年8月、両社はAmazon RDSをVMware環境上で提供する「Amazon RDS on VMware」を発表しました。これによって両社の提携はさらに深まっています。
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