ものづくりスタートアップのビッグデータやクラウドファンディング活用事情 ― AIIT起業塾#2 ―[PR]

2016年4月7日

最新の「ものづくり」分野では、どのような革新がもたらされているのか。2015年7月12日に産業技術大学院大学(AIIT)が品川区大崎の品川産業支援交流施設SHIPにて開催した第2回「AIIT起業塾」では、IT技術等を駆使してものづくりに携わる起業家4名が登壇し、「ものづくり」分野の最新事情と今後の動向等について講演とディスカッションを行いました。

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ビッグデータ×ハードウェア「株式会社キーバリュー」

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株式会社キーバリュー代表取締役社長の伊藤将雄氏は、「ビッグデータ×ハードウェアは我々の生活をどう変えるか」について講演しました。

ITにおける大きなトレンドとして、もはやビッグデータは欠かすことができない、と伊藤氏は語ります。特に変化が速い現代においては、自分の直感より、実際の利用者の「行動」と「データ」をもっと見るべき、というのが伊藤氏の考えです。

伊藤氏は、大学院でデータの可視化を研究し、データ分析のベンチャー「株式会社ユーザーローカル」を起業し、Web画面上でどこがクリックされているか、何%の人が読んでいるかといった情報を分析できるツールを開発しました。さらに、ソーシャルネットワークの口コミデータ等も分析しており、このツールは企業で活用されています。

こうしたビッグデータの活用は、今後はWebだけでなく「リアル」にも拡大し、ものづくりもビッグデータ時代に大きくシフトしていく、と伊藤氏は予想します。例えば、自動車の走行記録データをカーナビに活用したり、交通安全に利用したりする動きも出てきており、今後はこうした動きがさらに加速すると予想しています。

さらに、オープンソースハードウェアの普及によりハード開発が容易になってきているため、「欲しいものを自分で作る」ことができるようになってきています。株式会社キーバリューでは、着席状況を記録する座布団や、世界中を仮想的にサイクリングできるフィットネス支援デバイス等、ハードウエアと連動した意欲的なサービスを開発しています。

Webより「配布」が圧倒的に難しく、またプロトタイピング後の製品開発や部品調達等が大変でもある一方、Web開発プロセスは複雑化し、競合相手も多いため、これからのスタートアップはものづくり分野がねらい目、と伊藤氏は参加者にエールを送りました。

発酵技術×クラウドファンディング「ファーメンステーション株式会社」

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ファーメンステーション株式会社代表の酒井里奈氏は、「発酵技術で米からいろいろを生み出す」というテーマで講演しました。酒井氏は大学卒業後、銀行等に勤めるうち、発酵技術に興味を持ち、この技術を学ぶために大学に入学。岩手県奥州市の「米からエタノールとエサを作る地域循環プロジェクト」へ研究者として参加した経験に基づき、ファーメンステーション株式会社を立ち上げます。

同社は奥州市に工場を経営しており、米を発酵させてエタノールを抽出しています。これを化粧品の原料や石鹸として利用しているほか、米から作った消臭スプレー等、同社ならではの製品も開発しています。

酒井氏が製造するエタノールは、無農薬であることと、誰がいつ作っているかわかるトレーサビリティーが評価されています。また、クリエイティブディレクターを置くことによりデザインもこだわっていることも人気の一因です。

さらに、同社は積極的にクラウドファンディングを活用し、商品開発を行っています。最近では、きびだんご株式会社のクラウドファンディングにより、エタノールから虫除けスプレーを企画し、集めた資金で商品を開発しました。このスプレーは会場でも配布され、参加者はアロマのような香りを楽しみました。

酒井氏によれば、小規模の会社にとって、クラウドファンディングが資金繰りの大きな助けとなることはもちろんですが、そのほかにも商品等の説明をしっかり紹介でき、こだわりやストーリーを伝えることができることや、支援者のメッセージを紹介でき、広報的なPRにつながるというメリットもあるとのことです。

また、こうしてものづくりをしていると、単にものを創造しているだけでなく、奥州市に人が集まってきたそうです。地元の団体の方や農家の方とツアーを行うなど、人の交流にも繋がる面白さを酒井氏は実感しています。

コミュニケーションスキルのアセスメント「リーブ株式会社」

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リープ株式会社代表取締役の堀貴史氏は、アセスメントを活用して効果的な能力開発の支援を行っています。企業教育の学習効果や行動分析をアセスメントし、人材開発や経営戦略に生かしてもらうのが同社の主なサービスです。

堀氏の考えでは、人材育成においてアセスメントは非常に重要です。アセスメントを行うことにより、あるべき姿と現状を見極めることができ、これらのギャップを埋めるための効果的な戦略を検討することができます。さらに、毎日体重計に乗り続けることにより、自然とダイエットに成功する、といったケースのように、社員がアセスメントという具体的な経験を経ることによって、この経験を自らで振り返り、次の機会に活かしていく効果も期待できる、と堀氏は言います。

同社は、特に人と人のコミュニケーションスキルをアセスメントします。このスキルの可視化は難しく、なかなか納得のいくアセスメントがしづらいのが現状ですが、このスキルをアセスメントすることは、顧客のニーズや企業の課題を把握し、企業の戦略を考える上で非常に有用だ、と堀氏は語ります。

この手法は、堀氏が起業しながら通っている産業技術大学院大学の学びを土台としています。マーケティングやプロジェクトマネジメント等について学んだ後、これらの知識を基に大学院でプロジェクトマネジメントやデータマイニング、感性工学などの実務を学修する中で、工学・デザイン系では当たり前に活用されている手法が、人材育成や営業の現場では初耳の事ばかりであり、この発見がニュービジネスにつながった、と堀氏は言います。

こうして事業に直結する内容を大学院で学びながら起業にチャレンジし、企業の成長や交流をサポートする大崎の品川産業支援交流施設SHIPのオフィスを活用するなど、スタートアップを支援する様々な環境を活用し、同社は一層の飛躍を目指していきます。

購入型のクラウドファンディングを活用「きびだんご株式会社」

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クラウドファンディングは、Webサイト上でアイディアを発表し、共感する人から資金を事前に集める手法です。もともとアメリカで進んでいる仕組みですが、日本でも近年盛り上がりを見せています。講演者の松崎良太氏が代表取締役を務めるきびだんご株式会社は、このクラウドファンディングを活用して様々なプロジェクトを支援しています。

クラウドファンディングには「投資型」あるいは「寄付型」という種類のものもありますが、同社は「購入型」と呼ばれるクラウドファンディングを扱います。「購入型」では、プロジェクトオーナーが企画提案を行った後、支援者から資金を先に払ってもらい、目標額が集まるとプロジェクトが成立、支援者はプロジェクトオーナーから商品・サービスを手に入れることができます。

この仕組みを活用すれば、これまでにはない様々なメリットがあると松崎氏は言います。まず、サポーターは、単に商品・サービスを受け取ることができるだけでなく、他では得がたい、プロジェクトを支援したからこそ得られる体験や知識、支援者として参加したことを歴史に刻むことができる名誉も受け取ることができます。さらに、大量の品揃えからすぐに手に入る仕組みとは異なり、まだないものを実現する仕組みであるからこそ、できるまでの時間自体を楽しむこともできます。

例えば、高性能なメッセンジャー型カメラバッグの作成プロジェクトにおいては、支援者を集めて「新商品企画会議」を開催するなどのケースも見られ、ファンが参加する新しいものづくりの形がここに表れている、と松崎氏は言います。

さらに、松崎氏の話では、プロジェクトオーナー側からすると、単に商品を店頭に並べただけでは伝わりづらいストーリーを伝えることにより、より多くのファンを集め、お金を集めることができます。更には、従来のようなクローズドドアで行われていたものづくりではなく、アイディア出しからファンを巻き込んでサービスづくり、ものづくりができることも魅力だと言います。

また、現実的な側面から言えば、趣味の範囲で少数作成する手法と、従来型の数千、数万個以上作成する手法との中間として、クラウドファンディングは百個あるいは千個単位での製作が可能となり、ロットの壁にも柔軟に対応できる、と松崎氏は考えています。

ただし、クラウドファンディングは錬金術のように無から何でも生み出せる仕組みとは限らない、と松崎氏は注意を喚起します。プロジェクトを始めるにあたっては、一定のリスクをかけて十分な準備をしてからクラウドファンディングを利用して支援者の反応を確認することが望ましく、また知的財産権についても知識を持ち、これを守りながら利用してほしい、とのことです。

こうした注意点を踏まえれば、購入型クラウドファンディングはサポーターという「仲間」と共に、やりたいことがある人の支援ができる新しい事業の仕組みと言える、と松崎氏は語りました。

パネルディスカッション

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酒井氏を除く講演者3名が登壇し、産業技術大学院大学教授の國澤好衛氏がモデレーターを勤めたパネルディスカッションでは、各社の取り扱うサービスや、各社の起業時の経緯などについて、参加者からの様々な質問に答えました。 特に各講演者の考えが際立ったのが、事業規模についての考えです。

伊藤氏は、当初は同社の関わるデータ分析ビジネスの事業規模はそれほど大きくないと予想していたが、実際に始めてみると思いのほか大きいものと感じてきているので、引き続き拡大させていきたい、と語りました。

松崎氏は、クラウドファンディングという市場そのものが現在まだ十分に形成されていないが、潜在的な市場はあるため、いずれ市場は拡大していくと考えています。仕組み自体が分かりづらいため、現状では、いかに多くの人に理解してもらうかが課題と言います。

堀氏は、リソースを最大限活用し、1件に付加価値を加え、1件ごとの利益を増やしていきたい、という立場です。更には、現在主なターゲットとしている製薬会社以外の企業に対してもアプローチを拡大することを今後視野に入れたい、と言います。

AIIT起業塾について

産業技術大学院大学が主催する「AIIT起業塾」は、広く一般の方々が参加できるオープンな勉強会です。IT・デザイン・マネジメントなどを活用し、様々な産業分野で新しい事業構築や問題解決をしている先駆者達が登壇し、講演します。また、自由なディスカッションする機会も設けられています。

Twitterの ハッシュタグ「#aiit_startup」では新しい情報だけでなく随時質問や要望を受け付けています。今後も引き続き開催予定ですので、ぜひご参加ください。

また、この「AIIT起業塾」は、文部科学省の「高度人材養成のための社会人学び直し大学院プログラム」に採択された産業技術大学院大学「次世代成長産業分野での事業開発・事業改革のための高度人材養成プログラム」の一環として開催されました。

執筆:平賀 直哉=産業技術大学院大学 職員

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(本記事は産業技術大学院大学提供のタイアップ記事です)

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Junichi Niino(jniino)
IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。2009年にPublickeyを開始しました。
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