パネルディスカッション:先達に聞くこれからのエンジニア像 2016(後編) エンジニアサポートCROSS 2016
昨今の急速な技術進歩の中で、技術者はどのような生存戦略をとって成長していくかべきか。こうしたことをテーマにしたパネルディスカッション「先達に聞くこれからのエンジニア像 2016」が、2月5日に横浜で行われたイベント「エンジニアサポートCROSS 2016」で行われました。
(この記事は「パネルディスカッション:先達に聞くこれからのエンジニア像 2016(前編) エンジニアサポートCROSS 2016」の続きです)
スピーカーは 楽天 よしおかひろたか氏、Increments 及川卓也氏、ICTトラブルシューティング実行委員会 伊勢幸一氏。司会はニフティ 森藤大地氏。
スタッフにはゆるい制約と完全な自由を提供する
伊勢 僕は職種がシステムの構築運用というインフラ関係なので、お二人とは若干仕事が違うこともあって、吉岡さんがおっしゃったコミュニケーションが重要という話や及川さんの世界観の共有というのはあんまり感じていなくて。
いちばんうまくいったやり方は、ゆるい制約と完全な自由を提供するというやり方、そうするとやってくれるんですね。いついつまでにこれをやっておいて、と言って、期日が来るまでは口を挟まない。
で、期日までにできなかったり、思ったりしょぼいものが出てきたりもするんだけど、そういうときにどうするかはこちらで考えておいて、途中では口を挟まないというのをやってましたね。
森藤 それはリスキーすぎて怖いんですけど。
伊勢 リスキーと言っても人類がなくなるわけじゃないし(笑)。僕は進捗のミーティングとかすごくいやで、昨日何してましたかって聞かれて、寝てましたって言えないじゃないですか。でも一週間後のこの日までにはちゃんと仕上げるので、それまではつべこべ言ってくれるなと、自分がそういうスタイルだったので、それを仲間やスタッフにもやっていたと。
ただリスキーはリスキーなので、結果が要求を満たさなかったりしょぼかったときにどうするか、というバックアッププランは用意しておいたと。
吉岡 自由っていうと気持ちのいい言葉なんだけど、前提としてチームのメンバーが素人だと困るんですよ。自律的に仕事をできる人がいて、ひとりひとりがちゃんとやるという前提がないと。
伊勢 そうです。素人がいることは想定していません。
もちろん、タスクをアサインするときには、その人に合わせた内容を、この期間でできそうだって考えて振っていきます。メンバー全員に同じような要求をするわけではないですし。
大きなミスをしたらどうすればいい?
森藤 会場から質問はありますか?
会場 大きなミスをやらかしたときに、会社によってはすごい怒鳴られることがあって、僕はそれが嫌で会社を辞めたこともあるのですが、仕事ができなかったときや失敗したときにはどうすればいいでしょうか。
伊勢 これは経営層の人にはなかなか言えないのだけど、あんまり気にしないこと(笑)
僕も過去にものすごい失敗をしていて、バックアップ取っていないファイルを全部消したり、5000人のユーザー接続を全部落としたりしました。でも怒鳴られても死ぬわけじゃないし、別に問題なくないですか? 実害ないですよね。
及川 (会場の質問者に向かって)いや、そこで納得しちゃだめですよ(笑)
基本、失敗していいと思います。綺麗な言い方をすれば、失敗して初めて学べるわけですよね。失敗してそこから学んで対策をして、二度とその失敗が起きなくなれば組織もよくなる。
失敗しない組織はリスクが取れないんですよ。すると当たり前のことを当たり前にやっていくだけになって、そんな組織ではイノベーションなんて起きない。
だから基本は失敗しても怒っちゃいけなくて、失敗を学びにつなげていくのが大事だと思います。僕も体育会系の組織とか大嫌いなので、怒られたら会社を辞めちゃうと思います。
あと、いきなり失敗しましたというのはおかしくて、その間になにかあると思います。今のタスクはこうですよと上司なりに話しているときに、うまくいかない可能性があるとか、前の段階で分かり始めて、そこで止めるなりほかの方法にするなりリーダーと考えなくちゃいけない。
そういうことを言い出せなかったとしたら、組織として問題があったのかなともおもいます。
ただ僕も、同じ間違いを何度もするとか、ぎりぎりまで情報を共有しないでいきなり失敗しましたとか、そういうときにはきびしくいう時はあります。
伊勢 たしかに納期が過ぎてから「できませんでした」って言われてもどうしようもないですもんね。
周りから見てあの人はハマってるっぽい、というのはチームを運営していれば見えてくるので、それは言わない人だけの責任じゃなくてチームの体制とかそういうのもあると思います。
森藤 どうするとコミュニケーションが円滑なチームになれるのでしょうか。
よしおか ひたすら話すしかないですね。ケース・バイ・ケースで正解はない。
及川 これは結局人間関係の話だと思うんです。技術でもマネジメントでもなくて、人間誰でも話すのが苦手な相手っているし、相性もあるじゃないですか。
そういうときは正直に、「ちょっと僕、君と話しにくいんだけど同じチームだし、苦手意識はあるけれど仕事の上だけでもうまくいくようにしようよ」と。仕事の上でプロとして付き合うのはできるんじゃないかなと。
よしおか お言葉を返すようですが(笑)、それが言えれば苦労はないよ、ということだと思います。
会社を辞める大きな理由の1つで、待遇や仕事の内容よりも上司や同僚と合わないとか、そういうのってふつうにあるじゃないですか。
そういうのがあれば、社内なら人事と相談して異動させてもらって救われるという話も山のようにあって、そこは頑張らなくてもいいんじゃないかと。
及川 だから人材流動性が社内でも会社の間でも大事ですね。
伊勢 IT業界はほかの業界と比べると人材流動しは割とあるので、会社を辞めることができる業界かなと思いますね。
コミュニティに参加している人が超面白そうな顔をすればいい
森藤 チームの中には、プライベートの時間を使って勉強会へ行ったりする人もいれば、そうじゃないメンバーもやっぱりいると思います。主体的に自分で勉強するようなメンバーになった方がチームとしては面白くなると思うのですが、どうすればそういうチームになれるでしょうか。
伊勢 会社以外で技術を学んだりコミュニティに参加している人が、超面白そうな顔をしていればいいんじゃないの?
で、周りにそういう人がいっぱいいると「ちょっと僕も勉強会に行ってみたい」って思うようになるんじゃないですかね。
よしおか ですよね。
伊勢 さくらインターネットの社長の田中さんが言ってたんだけど、社員のモチベーションを会社が与えることはできなくて、会社はモチベーションがある人の邪魔をしないことしかできないって。
ただ、勉強会やコミュニティに触れる機会がないと興味を持つこともできないので、いろんな活動を見せてあげたり勉強会の情報を提供したりして、それでも興味がなければしょうがないでしょう。
ソフトウェアは人が作るのだから
森藤 そうしたなかでコミュニティとの関わり方について、どう考えているのか教えてください。
よしおか われわれは技術者なので技術力を絶対値で見なくてはいけない、けれど会社では狭いので絶対値で見るのは難しい。でも外に出てみれば、コミュニティの中での相場観というのが出てくるから、自分がどの位置にいるのかなんとなく分かる。絶対値を見るうえで、外の世界は絶対重要だと思う。
そしてコミュニティは仲間を見つける場所でもあるし、研さんする場所でも、自己実現する場所でもある。
及川 おっしゃるとおり、自分のベンチマークみたいなものを持つとすると、会社だけじゃなくてコミュニティのような広い目線で見る、というのはいいと思います。
もう1つ、人間ってアウトプットが大事だと思うんです。なので、コミュニティでライトニングトークをやります、というときに、中身がまだ固まってなくても5分くらいなら頑張って中身を作れるじゃないですか。そういうアウトプットをしてみる。
まあそこまでできなくても、勉強会で誰かが説明しているときに、あとで質問するつもりで話を聞くと全然違う。結果的に質問しなくても、話の聞き方が変わってきます。
コミュニティとか勉強会とかオープンソースの世界は、広い場所でアウトプットできる貴重な場だなと思います。
伊勢 コミュニティに参加するだけで、自分の情報源だったり協力し合う仲間だったり、そういうリソースが格段に増えると思うんです。参加してもぼっちになるのは寂しいなんて考えないで、いいところを考えて活用するのがいいと思います。
会場 最近、土日のカンファレンスに参加するのも会社でハンコをもらわないと参加できないという会社もあると聞いて驚いています。こういう状況を打破するにはどうしたらいいと思いますか?
よしおか それはすごい簡単で、そういう会社からはどんどん人材が流出するんですよ。ソフトウェアの時代、ソフトウェアは人が作るのだから優秀な人材を獲得しなくちゃ行けないのに、そんなことを言っている会社はとっとと辞めた方がいい、というのが誠実な答えだと思います。
及川 よしおかさん、怒ってますね! それは正しいんだけど、一方で経営者の人たちが、いまコミュニティというものがどういうものなのかご存じないだけ、というのもあるんですね。
震災のあとで東北などでボランティアの活動をしているんですが、地元の企業に相談したり、こういうのをやってるんですとチラシを持って行ったりすると、分かってくれて変わってきている、というのはあります。
伊勢 カンファレンスに登壇するときには、会社の広報から許可をもらわなくちゃいけない、というのはあります。でもそれは偽名とか仮面かぶってやればいいんじゃないのと思います。
森藤 そろそろ時間です。登壇者のみなさま、ありがとうございました。
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