[速報]欧SAP、R/3後継となる次期ERP「SAP S/4HANA」発表。HANAインメモリデータベース専用に新規開発
「R/3発表以来の23年のSAPの歴史の中で、おそらく最も大きな製品の発表となるだろう」、欧SAPのCEO Bill McDermott氏は、R/3後継となる「SAP Business Suite 4 SAP HANA」(SAP S/4HANA)のオンライン発表イベントの冒頭でこのように発言し、今回の新製品発表の重要さを示しました。
S/4HANAの開発の中心となったのは、同社の会長で共同創業者でもあるHasso Plattner氏。
同氏によるS/4HANAの説明を中心にまとめました。
S/4HANAパブリッククラウドエディション
S/4HANAは、同社のフラッグシップである統合業務アプリケーションソフトのR/3やSAP ERPの後継となるソフトウェア。
S/4HANAは、インメモリデータベースのHANA専用として開発された。5年前にマイケル・ストーンブレイカー氏は講演で「SAPは400ミリオンものコードを新たに書き換えることなどできはしない。彼らはいずれ死にゆくだろう」と言っていた。しかしわれわれはそれをやってのけた。
「S/4HANA」のパブリッククラウドエディション。これは22種類すべての業種をカバーするものではない、銀行やヘルスケアといった、現時点ではクラウドを優先しない業種もあるからだ。
新しいデータモデル、新しいUX、新しいコンフィグレーションの3つが特長となる、まったく新しいシステムだ。
(スライド右の「Key Benefits」)
- Built on HANA
- New Fiori for any device
- Guided Configuration
- Subscription
- 1/10 of datafootprint
- 3-7x higher throupt
- Up to 1800X faster analytics
- ERP、CRM、SRM、SCM、PLM in one system
- No locking parallelism for throuput
- Actual data(25%) and historycal(75%)
- Unlimited workload capacity
- Predict, recommend, simulate
- HCP extensions
- HANA multitenancy
- All data: social, text, geo, graph, processing
(日本語にしたもの)
- HANA上に構築
- Fiori(HTML5によるUI)であらゆるデバイスに対応
- ガイド付きコンフィグレーション
- サブスクリプション
- データ量は従来の10分の1
- スループットは従来の3~7倍
- データ分析速度は最大1800倍
- ERP、CRM、SRM、SCM、PLMなどが1つのシステムに
- 並列処理でのロックは発生せず高スループット
- 25%のアクチュアルデータと75%のヒストリカルデータに分離
- ワークロードの上限なし
- 予測、レコメンド、シミュレーション機能
- HCP拡張
- HANAマルチテナンシー
- ソーシャル、テキスト、地理、グラフ情報など全て処理可能
HTML5をベースとしたUI、
ビル(SAP CEOのBill McDermott氏)は、SAPの最大の弱点はUIだと言ったが、一方で多数のユーザーがUIを変えないでくれと私たちに訴えていた。何千人ものユーザーを再トレーニングしなければならず、変化を恐れているためだ。
これにSAPがどう対応するのか、それがこの答えだ。新しい「FioriUI」は、デスクトップ、モバイル、タブレットなどのすべてに対応する(新野注:Fiori UIとは、HTML5をベースに開発されたUIフレームワーク)。
シンプルなデータモデルによってデータの大きさが10分の1になった。
システムを小さくできたため、ERP、CRM、SRM、SCM、PLMなどを1つのシステムに統合できた。例えば、多くの業務システムの負荷の40%はERPからCRMへデータ交換するために費やされていると言われているが、1つのシステムにすることでそうした負荷を排除できる。
先進的なシステムのカスタマイズを採用した。「ノンタッチアプローチ」というオリジナルのシステムには手を加えずに、分離されたシステムによって規律のある手法で行う。これによって、オリジナルのスタンダードシステムは従来の18カ月ごとよりも迅速に四半期ごとに行う予定だ。
S/4HANAマネージドクラウド、オンプレミス
S/4 HANA Managed Cloud Editionは、クラウドの一部としてではなく顧客と一緒に運用を行っていく。
(スライド右下「all this plus...」)
+ECC6.0 Compatibility
- UX
- Customization
- Reporting
- Datamodel(via Views)
企業がソフトウェアをバージョンアップに対応するには時間が必要であり、マネージドクラウドエディションでは、過去のバージョンを維持したまま新バージョンをリリースする(新野注:ECC6.0とは、現在のSAP ERPのS/3相当部分。つまりS/4HANAマネージドクラウド版ではR/3互換を提供するということのよう)。
新しいUIが登場しても、古いUIを一定期間顧客に提供し続ける。処理についても同様。顧客にとって非破壊的なリリースチェンジを提供する。
S/4 HANA On Premise Edition。
(スライド右下「all this plus...」)
- Unlimited individualizations
- Option to convert to the cloud
金融や病院など、手許にデータを置かなくてはならないケースに対応する。オンプレミスのシステムは、短期間でクラウドへ移行可能だ。
データモデルのシンプル化
S/4HANAではデータモデルのシンプル化で劇的にデータ量が少なくなる。
実際に、ある米国の会計システムの例だが、既存のデータベースは約600GB。これをHANAへ移行することで(HANAのカラム型データ構造や圧縮機能、インメモリによるインデックスの排除などにより)データが118GBにまで小さくなる。
さらにS/4HANAではデータモデルがシンプルになり(S/4HANAでは内部のテーブルなどが少なくなっている)、42GBまで縮小。さらにアクチュアルデータとヒストリカルデータを分けた結果、コアとなるデータはわずか8GBになった。iPhoneにも入る大きさだ。
これでスループットは大きくなる。しかもバックアップも、アップロードも、リスタートも、テストも、開発環境も本物のデータを使ったテスト環境も、わずか8GBで済む。これがS/4HANAのユニークさの1つだ。
S/4HANAのデモ
ログイン画面。
コンフィグレーション画面
アナリティクス機能。リアルタイムにデータをドリルダウンし、指標ごとにグラフ化できる。
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今回の発表のポイントを短くまとめました。
S/4HANAの基盤となっているHANAインメモリデータベースのアーキテクチャについては、以下の記事で詳しく解説しています。
- インメモリデータベース、カラム型データベースは使い物になるのか? インメモリとカラム型データベースの可能性を調べる(その1)
- 従来のデータベースをメモリに載せるだけではだめなのか? インメモリとカラム型データベースの可能性を調べる(その2)
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