ソニー銀行のクラウド活用によるITコスト構造改革、その内容と効果
ソニー銀行がクラウドを活用している事例は、2014年夏に開催された「AWS Summit Tokyo 2014」で発表され、金融機関によるクラウド活用例として話題になりました。
参考:ソニー銀行は金融機関としてAmazonクラウドをどう評価し導入したのか? AWS Summit Tokyo 2014
その後、ソニー銀行はさらにクラウド活用を進めるとともに、その詳細について2015年3月に行われた一般法人日本クラウドセキュリティアライアンス主催のイベント「金融向けクラウドの最新動向」で紹介されました。
そしてこの事例は先月、公益社団法人企業情報化協会が選出した平成27年度(第33回)IT賞「ITマネジメント賞」にも選出され、あらためて優秀さが示されました。
その内容をダイジェストで紹介しましょう。
ソニー銀行のクラウド活用によるITコスト構造改革
ソニー銀行 システム企画部 マネージャー 基盤統括担当 大久保光伸氏(肩書きは当時)。
ソニー銀行ではアウトソースや運用サービスなどを積極的に活用し、クラウドについても早い時期から積極的に検討を進めてきました。
インフラにおけるITコスト構造改革の手段として、1つはインフラ標準化の推進。2011年頃から共通設計書の作成といったものを進めて、そして昨年Chefを利用した構築自動化など実績を積んできました。
そして2番目はOSSの推進、特にLinuxの推進を進めています。昨年にはAWSの活用も進めてきました。来年度にはプライベートクラウドも統合管理できるAWSと互換性のあるものを見極めて進めていきたいと思っています。
3つ目は、ネットワーク基盤の最適化で、キャリア閉域網の活用やセグメントの見直しなどを進め、最終的にはハイブリッドSDNへと進めています。
Chefによるインフラの自動化
インフラ標準化の推進ですが、Chefによるインフラの構築、自動化などを行っています。
Chef採用の目的の1つに、パブリッククラウドのリスク、つまりサービスの解約通知や内部不正などのリスクを緩和するというものがあり、Chefはその技術要素として重要な位置づけになっています。
これまで、サーバ機器などは工場で初期設定を行った上で納品後に詳細設計を行い、環境定義書などの手順書を用いて行っていました。Chefではそうした作業が10分程度で完了します。革新的だと思います。
ServerSpecで単体テスト工程なども自動化するといったことにも取り組んでいます。
OSS活用の目的はイノベーションの加速
OSS活用の目的はイノベーションの加速です。FinTechというキーワードがでて来ていますが、先端技術や国際標準技術を活用したシステムを構築するために積極的に採用しています。
OSSは保守サポート面で不安があるという話を聞きますが、実際にはメインベンダーなどによる支援があるので、クラウド環境の監視ツールとして導入したZabbixによるシステム管理などでも何ら問題は発生していません。
また、今後は海外の事例なども参考に、AWSと互換性のあるオープンなプライベートクラウド基盤の採用に向けて、ハイブリッドクラウド環境のPoC(Proof of Concept)評価をしています。
ネットワークの集約でコスト削減
ネットワーク最適化の1つとして、ネットワークの集約を、キャリアの閉域網を利用して冗長構成を保ちつつ行いました。これにより拠点間の接続先の接続回線を23本削減できました。
かかった初期費用や減価償却や加味しても、年間3000万円くらいの削減効果が見込まれています。
データセンターでのSDNの適用も進めており、既存のIPネットワーク環境を生かしつつ、段階的にSDNにマイグレーションを行ってい行く方針です。
クラウドを利用している業務とは
続いてクラウド利用の説明です。
各行の規定によって異なるとは思いますが、現金の共有や資金決済、事業者間の取引など社会機能維持者としての金融機関の機能はスコープ外としています。
移行スケジュールはまずWeb系の専用環境で試行し、そのあとに一般系、これはOA系の環境とのハイブリッドで、そのあとドキュメント管理システムといった銀行系システムに採用していきます。
ハイブリッドクラウドの構成では、左からWeb系VPC、一般系VPC、銀行系VPC、開発系VPC、構築系VPCです。構築系VPCを除いて、オンプレミスとは専用線ないしはインターネットVPNで接続されています。
構築系VPCには、ベンダさんの環境から直接リモートでアクセスできるようにしています。ただしセキュリティを担保するため、申請に基づいて一時的に通信を許可するといった仕組みを入れています。
クラウドサービスの選定ポイント
クラウドサービスの選定ポイントです。実績と信頼性、セキュリティ認証、コスト、テクノロジ、システムメンテナンスなどをポイントに比較しました。
AWSは銀行系のパッケージとの互換性ですとかネットワーク、セキュリティ、豊富な機能やAPIなどの面などで圧倒的と考えています。
そして金融機関のシステム基盤として安定的に長く利用するための「セキュリティと可用性を」確保するといったことを確認し、われわれの設計次第で従来どおりの運用レベルを担保できることが可能と判断し、採用しました。
これが具体的なシートで、内部資料になりますが、当社の方針を書いて、さらにNRIさんに対応内容について問題がないことを確認してもらっています
クラウドの導入効果
AWSを採用後、要対処メンテナンス通知が2件あったのですが、業務への影響は発生していません。
下記がクラウドの導入効果の1つです。
人的リスクは自動化が進むことで低減できているのではないかと思います。AWS SDK、AWS Config、Cloud Trailなどで、これまでばらばらだった情報がまとめて取得できるようになりました。
コスト比較では、ドキュメント管理のところは初めてだったこともありますが5年間の総額で32%減、メール連係で75%減、管理会計で64%減、ログ監査で66%減などのコスト削減効果が見込まれています。
コスト削減によって得られた費用によって、新たな戦略投資を行っているところです。具体的には、2年前からFinTechのパッケージベンダとAWS上の検証環境でPoC(Proof of Concept)をやるところまできています。また、デジタルマーケティングにおいても、クラウドの積極活用を検討しています。
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