Publickeyが選ぶ2014年のITトレンド。相次ぐ国内データセンター、状況を一変させたDocker、フラッシュストレージベンダの転換期

2014年12月24日

2014年もあと営業日としては数日でおしまいです。Publickeyの記事を中心に、この1年のITトレンドを振り返ってみました。

国内データセンターの設立が相次ぐ

今年もっとも明確だったトレンドの1つが、海外の大手クラウドベンダが相次いで日本国内にデータセンターを設立したこと。

2014年以前に日本にデータセンターを置いていた海外の大手クラウドベンダは2つだけでした。2011年3月に東京データセンターを開設していたAmazonクラウドと、同じく2011年12月に東京データセンターを開設していたセールスフォース・ドットコムです。

それから3年。今年、海外の大手クラウドベンダが日本国内にデータセンターを設立した動きを時系列で並べてみましょう。

2月 マイクロソフトが日本データセンター 東日本&西日本リージョン開設

3月 オラクルがOracle Service Cloud(旧RightNow)の日本データセンターを開設

4月 SAPジャパンがSAP HANAクラウドデータセンターを東京と大阪に開設

11月 VMwareがvCloud Airの国内データセンターを開設

12月 IBMがSoftLayerの東京データセンターを開設

5社がこの1年で国内データセンターを設立。そしてGoogleも、4月に日本を含むアジア向けにGoogle Cloud Platformのデータセンターを台湾に設立しています。

これでAmazon、マイクロソフト、セールスフォース・ドットコム、そしてIBMと、クラウドのシェア上位のベンダはGoogle以外はすべて日本国内にデータセンターを設立し、日本国内のユーザーにとっては国内ベンダも含めてクラウドが選び放題、という環境になったわけです。

しかもGoogle、Amazonクラウド、マイクロソフトは積極的に価格の引き下げを繰り返し、まだクラウドの価格低下傾向は止まりそうにありません。クラウドベンダのあいだではインフラの規模と体力、そして利用者向けのサービスを次々に打ち出していける技術力の総合的な戦いが、さらに厳しさを増していくことになるはずです。

一方で、2014年の国内クラウド事例としてはついに金融機関が使い始めたことを明らかにした点が大きな出来事でした。

金融の周辺業務の利用事例ではありますが、金融機関ならではの堅い評価と運用でクラウドを使いこなす事例が明らかになったことは、多くの保守的な企業にとって「クラウドを使わない理由」がなくなってきたことを示すものです。国内データセンターの設立と相まって、2015年もさらにクラウドの普及にはずみがつくことでしょう。

Dockerによって状況が一変したPaaSレイヤ

クラウド関連のテクノロジで2014年にもっとも状況が激変したのはDocker関連だったのではないでしょうか。

2014年が始まった頃に注目されていたキーワードは「イミュータブルインフラストラクチャ」でした。仮想サーバを立ち上げ、設定し、使えるようにした後で、設定変更などの必要が生じたら設定変更をするのではなく、その仮想サーバは破棄して新たに立ち上げて設定し直すことで、つねにサーバの設定をシンプルに保ち運用もシンプルにする、といった考え方です。

このイミュータブルインフラストラクチャ的な運用を実現するときに便利なのが、仮想マシンより迅速に起動できてプログラマブルに設定できるコンテナ型仮想化の技術です。すでにLinuxでも複数の実装があり、Herokuなどでも使われていた技術でしたが、その中でも一気に注目を集めたのがDockerでした。

昨年、2013年10月31日にPaaS型クラウドベンダ-だったdotCloudが、自社で開発していたDockerにフォーカスすることを宣言して社名をdotCloudからDockerに変更すると発表したときには、大胆なことを考えるなあと思いつつ記事を書いていました。

そのDockerが2014年5月にDocker 1.0をリリースしたときにはRed HatがDocker専用OSを発表し、Google Compute EngineもDocker対応を発表Amazonクラウドも対応を発表するなど、クラウド業界全体が争うようにDocker対応に前のめりな状況になっていたのです。

Dockerの登場と発展は、これまでのOSが担っていたアプリケーションプラットフォームの役割がコンテナへ移り、従来のOSはコンテナのためのプラットフォームの一部になっていくという大きな転換点を眺めているようでした。

そしてDockerによってLinuxがより強力で柔軟なプラットフォームになり、コンテナがアプリケーションの容れ物となっていく様子を、マイクロソフトはどう評価しているのか、マイクロソフトはこの大きなトレンドにどう対応するのかと考えていたときに、示されたマイクロソフトの答えがこれでした。

Dockerが今後のアプリケーションプラットフォームにとって決定的な役割を果たすことが、これで確実になったといえます。

Dockerによって普及するであろう軽量な仮想化は、アプリケーションを小さなコンポーネントの集まりとして構成することを容易にします。クラウドによって大量のサーバリソースが用意に調達できるようになり、マイクロサービスというアーキテクチャスタイルも注目されるようになってきました。

コンテナ型仮想化を積極的に取り入れたPaaSとともに、マイクロサービスは2015年に注目されるキーワードになるでしょう。

フラッシュストレージ、HTML5勧告など

サーバにおける仮想化、ネットワークにおけるSoftware-Defined Networkやネットワーク仮想化のように、ストレージを大きく変える役割を果たしたのがフラッシュメモリによる高速なフラッシュストレージの登場でした。

そのフラッシュストレージ市場を切り開き、もっとも成功してきた企業の1つであるFusion-ioがSanDiskに買収されるという発表があったのが6月17日。

フラッシュストレージ市場はもちろんいまでも成長市場ですが、すでにEMC、NetApp、IBMなど総合ストレージベンダもフラッシュストレージをラインアップに加えはじめているため、例えばPure Storageが垂直統合サーバへと乗り出したように、フラッシュストレージ専業ベンダにとってはそろそろ次の成長戦略へ向かう転換期がきたように見えます。

最後は手短にまとめましょう。そのほか、2014年で大事なニュースと言えば、HTML5が勧告になったことでした。

HTML5と関連技術の登場は、Webを巨大なアプリケーションプラットフォームへと一変させました。PCだけでなく、スマートフォンや家電でさえHTML5に対応しつつあります。OSやハードウェアを超えた標準技術の地位を獲得した、その大きな印を刻んだ年でした。

バルマー氏が退任し、サティア・ナデラ氏が新しいマイクロソフトのCEOになったのも今年2月ラリー・エリソン氏も9月にオラクルのCEOを退任し、CTOとなりました。

サティア・ナデラ体制となったマイクロソフトは.NETコアをオープンソース化しLinuxとMacOS X版のリリースも発表。Visual Studioも小規模組織向けに無料で提供するなど、大胆な発表が相次ぎました。オラクルは2015年に、なにか大きな発表が期待できるでしょうか?

明日は毎年恒例の、Publickeyの業績発表です。

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Junichi Niino(jniino)
IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。2009年にPublickeyを開始しました。
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