JR東における鉄道システムがIT化されてきた歴史と品質向上への取り組み(前編)。ソフトウェア品質シンポジウム 2014
鉄道は乗客を安全に運ぶという点で信号や列車の制御システムに非常に高い品質が求められる一方、ダイヤなど旅客情報については大量の情報を処理して乗客に提供しなければならないという複雑なシステムで構築されています。そして現在そのシステムの多くがIT化されています。
鉄道の安全性や正確性、そして快適性などをITがいかに支えてきたのか。9月11日に東洋大学で開催された「ソフトウェア品質シンポジウム 2014」では、JR東日本のIT化や品質向上の取り組みについて東日本旅客鉄道株式会社 松本雅行氏のセッション「鉄道信号システムへのアシュアランス技術の適用」が行われました。本記事ではその内容をダイジェストで紹介します。
本記事は前編、中編、後編の3つに分かれています。この記事は前編です。
鉄道信号システムへのアシュアランス技術の適用
JR東日本の松本と申します。今日はこういうタイトルでお話しをする機会を与えていただきましたこと、大変ありがとうございます。
ここに出ている写真ですけども、左側のCRTが並んでいるところ、これは、東京圏の運行管理センターの写真です。
右側の新幹線は、私どもがイーストアイ(East i)と呼んでおります。ドクターイエローというとご存じの方いらっしゃると思いますが、私どもJR東になってから、ドクターイエローを作り変えるときに東のカラーを出すということで、イーストアイ、インスペクションのiをとってそう呼んでいます。もし新幹線に乗るときにこのような車両を見たら、検査をしているだなというふうに思っていただければと思います。
今日はJR東についてと、それから鉄道では信号システムが重要な役割を担ってるわけですが、その信号システムの発達の経緯。それをどう革新してきているか、という話をしたいと思います。また、コンピュータ技術の使われ方やアシュアランス技術。そのアシュアランス技術の輸送管理システムあるいは列車制御システムに対しての応用例をお話していきたいとおもいます。
JR東の営業エリアというのはご存じの通り、本州の北側と言いますか左側半分なわけですけど、駅が大体1700駅あります。1700駅あって、1日のお客さんが1600万人ほど。実はこの東エリアの人口が、6000万くらいですので、だいたい4分の1の方が、毎日利用していただいているというぐらいの規模です。
1日で動かしてる列車が1万2700本ほど。これを7500キロの全体の線路を走らせていると。新幹線は1100キロぐらいです。信号機は1万3500、転てつ機は1万500。それから踏切が6500カ所以上あります。
鉄道信号の発展
では信号の発展の話をはじめましょう。鉄道というのはご存じのように、イギリスでストックトン~ダーリントン間にロコモーション号というのを走らせた。これが初めということで、1825年、今から200年近く前から鉄道が動いているわけです。日本には、140年ほど前に新橋~横浜間に鉄道が走ったというのが、日本の鉄道の発祥です。
当初は汽車の前に馬に乗った人が、旗をもって先導していました。当時は46キロくらいのスピードですから、こうやっても大丈夫だったわけです。
ところが列車のスピードが上がってくるあるいは列車の本数が増えてくると、これでは間に合わないので、線路脇にポリスマンと呼ばれる人間が手で今の信号と同じような合図を列車に送っていたと。これが、今の信号の始まりだというふうに言われています。
信号というのはどういうものかというと、形だとか色だとか音、これによって列車の運転の条件を指示する。これを信号というんですね。
鉄道信号というのは、鉄道の始まりと共に発展してきました。古い方はご存知だと思うんですけど、腕木信号機。この写真を撮りにローカル線に行かれた方もいるかもしれませんけど、今、残念ながらJR東日本にはこの腕木信号機というのはありません。
いま皆さんがよく見られているのは色灯式のものですね。色灯式信号機。こういう楕円形のところに電球を3つつけて、赤・青・緑、この色で列車の運転を指示する。それから、特に東京の山手・京浜東北とか、あるいは民鉄でも多く採用しています車内信号機。車内に信号を出すという、そういうものを車内信号機と言ってまして、このように信号機というのも時代とともにあるいは技術と共に変わってきています。
そもそも列車の運転というのは何か。運動している物を規定するのは、場所と速度、方向だとみなさん習ったと思います。列車でも全く同じで、速度、これを指示するのは信号機で指示します。また、方向というのは、鉄道の場合はレールの上を走っていて、「転てつ器」という線路を振り分ける装置がありますが、これが方向を制御する。それから列車がどこにいるかは、あとで話しますが「軌道回路」という検知装置で検知をしています。信号機・転てつ器・軌道回路。これらが信号、あるいは列車の運転にとって非常に重要な役割をするものなんですね。
今言いました軌道回路。これはすごく簡単に言いますと、レールを電気回路として、片側に電源を置いて、もう片側にリレーを置くと。そうしますと、列車がいなければ電気がずっと流れるわけですから、リレーに電気が来てリレーが動作する。で、動作するときの設定を、青のランプがつくように設定をしておけば、ここに何もいないときに青信号がつくと。
ところが列車がいますと車輪でレールを短絡しますので、リレーが動作しない。その設定を赤信号、赤いランプのほうにつけておきますと、ここに列車がいるときは必ず赤信号になるということで、後続の列車を止めます。こういうことで、列車の衝突を防いでいます。
もう1つ大事な信号概念として「閉そく」というものがあります。閉そくというのは非常に大事なものでして、ある区間に1つの列車しか入れないという動き、それを閉そくと定義しています。
ある区間に1本しか列車を入れなければ、衝突は絶対しないわけですね。ですからこれは、衝突を防止するための非常に重要な考え方です。それを実現しているのが、先ほど言った、この軌道回路という装置なわけです。
≫次の中編では、ITによる鉄道システムの革新としてATOSやCOMTRACなどを紹介します。
ソフトウェア品質シンポジウム 2014
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