[速報]IBMとマイクロソフトがクラウドで協業を発表。WebSphereやDB2がAzureで、.NETランタイムがBluemixで利用可能に。協業の意味を分析する
IBMとマイクロソフトはお互いのエンタープライズ向けソフトウェアを、お互いのクラウドで利用可能にすることを中心とした協業への取り組みを発表しました。
この協業により実現される具体的な内容は以下の4つです。
- IBMとマイクロソフトはWebSphere Liberty、MQ、DB2など、IBMの主要なミドルウェアをMicrosoft Azureで利用可能にする
- Windows ServerとSQL ServerをIBMのクラウドで提供する
- IBMとマイクロソフトはIBM Bluemixで.NETランタイムの提供のために協力する
- ハイブリッドクラウドの展開を支援するため、IBMは自社ソフトウェアのWindows ServerとHyper-V対応を進めると同時に、IBM Pure Application ServiceをAzureで稼働させるべく計画を立てる
つまりAzureでWebSpereやDB2が使えるようになり、SoftLayer/BluemixでWindows Server、SQL Server、.NETアプリケーションが稼働するようになる、というのが主なポイントとなります。この協業に込められた意味はなんでしょうか。
お互いのミドルウェアの選択肢を広げること、そしてBluemixの強化
この協業を発表したプレスリリースのタイトルは「IBM and Microsoft to offer greater choice in the hybrid cloud」(IBMとマイクロソフトがより重要なハイブリッドクラウドの選択肢を協力して提供する)です。
つまり両社とも、自社のミドルウェア(IBMならWebSphereやDB2、マイクロソフトならSQL Serverや.NETランタイム)がオンプレミスで動作するのに加えて、AzureおよびSoftLayer/Blumixという複数のクラウドでも稼働するという選択肢の広がりを実現する、これがこの協業の主眼として両社が合意したポイントだといえるでしょう。
しかし協業がPaaSにフォーカスしたものだと考えると、もう1つのポイントがあります。それはIBMのBlumixです。
IaaS市場においてIBMは、率直に言って自社のクラウドではAWSに太刀打ちできず、SoftLayerを買収せざるを得ないほど追い込まれました。
これをひっくり返すには土俵を変える必要があります。IBMはそれをPaaSの領域に求め、Blumixを最強のPaaSにすべく注力しています。そのためにはBluemixが当初から備えているLinuxのミドルウェアスタック(例えばApache、MySQL、PHP、Ruby、Node.jsなど)だけでなく、Windowsアプリケーションが稼働する.NETランタイムは欠かせません。
Amazonクラウドは現状でLinuxのミドルウェアスタックを非常に得意とし、さらにAWS BeanstalkではJava、PHP、Python、Rubyなどに加えて.NETもサポートするなど隙のない展開です。一方でMicrosoft Azureは純正の.NETランタイムを備えたプラットフォームですが、Linuxのミドルウェアスタックについてはいま必死で強化をすすめているところです。
Blumixの基盤となっているCloud FoundryはもともとLinuxをベースに構築され、次のバージョンではDockerにも対応する強力なPaaS基盤ソフトウェアへと成長しようとしています。これにSQL Serverが稼働し、.NETランタイムが対応していけば、事実上あらゆるアプリケーションを稼働できるユニバーサルなPaaSに進化できるかもしれません。Blumixをエンタープライズ市場において最強のPaaSにするには.NETランタイムは重要な要素といえます。
今回の協業はIBMにとって、ハイブリッドクラウドの強化と同時にBluemixの強化に大きなポイントがあるように見えます。一方のマイクロソフトにとっても、.NETランタイムのBluemix対応は、クラウドでWindowsの存在感を強化するためには断る理由はないでしょう。
おそらくこれが実現する頃にはCloud FoundryのDocker対応に加えて、Windows ServerもDockerに対応しているでしょうし、市場におけるPaaSの重要度はいまよりも高まっているはずです。IBMは目論見通りにBlumixを最強のPaaSへ作り上げていけるか、一方でMicrosoft AzureでのLinux対応は同社の狙い通りに普及しているといった点も含めて、この競合の成果が出る頃にはPaaS市場の景色はいまとは比べものにならないくらい変化しているでしょう。両社の協業はそのときに自分たちが他社よりもいい場所にいる、ということを目指したものではないでしょうか。
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