パネルディスカッション:クラウド時代の情シスのあり方[前編]。Developers Summit 2014

2014年2月24日

東急ハンズの情報システム部門の責任者である長谷川秀樹氏と、数年前まで協和発酵キリンの情報システム部門の責任者だった現アイ・ティ・イノベーションの中山嘉之氏を中心に、クラウド時代の情報システム部門とはどうあるべきか、というパネルディスカッションが2月13日と14日に行われたDevelopers Summit 2014のセッションとして行われました。モデレータはアトラクタの原田騎郎氏。

長谷川氏は内製にこだわった情シス部門の発展を語り、中山氏もクラウドによってインフラがコモディティ化する中で情シス部門はより上のレイヤに注目しなければならないとし、両社ともほぼ一致した見解を示したディスカッションの模様を、ダイジェストで紹介しましょう。

fig 画面左から、原田騎郎氏、中山嘉之氏、長谷川秀樹氏。右の空いた椅子は、会場からの質問者が発言する際にステージに上がってもらうためのものとして用意された

情シス部門は崖っぷち?

原田 ディスカッションに入る前に、最近話題になったこんなニュースがありました。

パナ、社内情報部門を千人削減 富士通とIBMに転籍 - 47NEWS(よんななニュース)

パナソニックが、社内情報システムの開発を手掛ける部門の社員約1500人のうち、3分の2に当たる約千人の削減を検討していることが1日、分かった。経営の合理化と人件費圧縮などが狙いで、7月1日に実施する予定。取引先の富士通と日本IBMに転籍させ、業務を委託する。 (47News 1月1日付)

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それから、日経コンピュータでは最近こんな特集もありました。「崖っぷちのIT部門」

一方で、転職サイトのDudaによると社内SEの求人は伸びているそうです。こうした中で、これからの情報部門を考えなければいけないと思います。

そこでまず、中山さん長谷川さんそれぞれに、情報部門をどう考えているのか少しお話しいただこうと思います。

クラウドの登場で情シスはよりビジネスに近いレイヤに行く

中山 私は一昨年まで協和発酵キリンの情シス部門で部門長をしていました。いわゆるユーザー企業に30年いました。クラウド時代の情シスをどう考えるか、というお題をいただきましたが、ユーザー企業から見たクラウドとは、来るべき時代が来たな、という感があります。

ITのプレイヤーはインフラからアプリまで多くの階層になっていて、下はテクニカルアーキテクチャから上はビジネスアーキテクチャと多岐にわたっています。情シス部門の本業は社内のビジネスにシステムを役立てていくことですが、下の方のレイヤはやることが多く専門性も高いので、なるべくベンダさんに外注するということでやってきたわけです。

そしてクラウドではここがコモディティ化する、つまりお金で調達できると。だから社内の情シスはもっと上の、よりビジネスに近いレイヤに行くと。

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情シスって、1980年代はコストダウンをしてきたかなと。1990年代はWindowsなどが出てきて企業活動のスピードアップ。2000年代はERPなどがでてきてガバナンスに寄った時代だったり、一方でインターネットも登場してきました。

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そして2010年代は、考えてみるとこれまでの情シスって売上げに寄与してないじゃないかと。そこでこれからはちょっと事業の競争力というところにいくのかなと思っています。

情シスの本質的な役割は、情報の流通を司っていると思っています。あくまでも社内が中心ですが、いろんな情報をどうコントロールするのかをやってきているのかなと。エンタープライズの仕組みをどう作るか、社内の情報流通のデザインをするという。

原田 これを見ると80年代と90年代の仕事はずいぶん違いますね。では長谷川さん、お願いします。

帳票を作るだけのシステムにがっかり

長谷川 システムの考え方って企業の大きさによって異なるのかなと思っていて、東急ハンズは800億円くらいの企業なので、僕の話はこれくらいの規模の会社と思って聞いてください。

僕の経歴は、もともとSIerというところで14年くらい仕事をして、そのあと東急ハンズに入って情シスの責任者と通販の責任者にもなります。だから今は情シスとユーザー部門の責任者と両方をやっていると。

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ハンズは自社開発を一生懸命やろうということで、社員による自社開発に切り替えていて、自社インフラは昨年くらいからAWSに持って行くことをどんどんやっています。

1990年から2000年くらいで店員がPDAを持ってバーコードスキャンすると、商品がバックヤードの在庫にあるかどうかすぐに答えられるようになったりしていますが、こういう業務効率に寄与するシステム作りはずっとやっていたやんかと。しかし直接的に売上げや利益があがるようなシステムは作ってなかったやんか、というイメージを持っています。

昨日の朝のセッションでも話したのですが、社会人になって初めてのプロジェクトに入ったときに200~300人くらいの人がいて、これはすごいプロジェクトやろなと。で、先輩に『このシステムで何ができるんですか?』と聞いたら『おう、売上げの入力ができるで』と。『で?』『それを見ることもできる』と。それってExcelでもできるやん? と思いました。この客のところに行けば売れるとか、売上げの予想をしてくれるとか、そういうのまでやってくれるのかと思ったら、そんなのはなくて、帳票を作るだけのシステムで、がっかりした思い出があります。

情報システムはいつも乗り遅れてきた

1990年代後半からインターネットがでてきましたが、SIerも情シスもそちらにはいかなかったんですね。『HTMLってのがあるらしいで』『あれって個人がちょちょっと書いてホームページ作るもんで、企業が使うもんじゃないらしい』とかって。でも会社のホームページを作らなくてはいけなくなって、それをSIerに頼んでも『できません』とか『できるけど見積もりがドカーン』とか、そんな感じでした。

インターネットなんてBtoBでは使えないとバカにしていたのではないかなと。

でもその次にEC(電子商取引)が出てきて、これは基幹システムと連係が必要なんですね。ホームページは基幹との連係は不要ですが、ECは基幹から商品マスタを持ってくることなんかが必要なのですが、ここでも担当はWeb事業部みたいなところが外注企業とやっていて、ここでも情シスは『それうちらの仕事やん』とは出張っていかず、関わってこなかった。

ここでも情シスは乗り遅れたのではないかなと思っています。

で、次にスマートフォンが出てきましたが、以下同文です。

いうてみたら情シスって、会計とか在庫とか、伝票とか。会計や在庫のシステムが必要なのは分かりますが、じゃあそのシステムを新しくしたら売上げが上がるかというと、上がらないですよね。システムがないとめっちゃ困るけど、新しくすることの貢献度は低い。

売上げに貢献しそうな面白いシステム、ソーシャルとかECとかスマホ対応といったところは営業部門などが中心になってネットベンチャーみたいなところと一緒にどんどん面白いことをやっていると、で、ガートナーによると2017年には営業系部門のIT予算が情シス部門の予算を超えるんじゃないかと予想されています。

このままだと情シスは企業にとってお荷物な部署になっていくのとちゃうかなという危惧をしているところです。

東急ハンズは内製回帰へ

ハンズの例では、情シスはなにをやっているかというと、もともと10人ちょっといたのが店舗からも人をひっぱってきて、いま40人くらいいるんですが、全員エンジニアにして自社開発しています。

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インフラもデータセンターを借りていたのですが、これをAWSにして自社でインフラの運用もしています。iOSのアプリ開発も外注していたのですが、これも内製にしたいのでだれかできる人にきてほしいなと思っています。

会計はSueprStreamで人事はOBIC7です。ここはパッケージですね。

ビジネスに近い人をどうやって育てるか?

原田 お二人の話を聞いて思うのは、情シスがビジネスの方へ入っていく、あるいはビジネス部門から人が来ているというとき、そういう人をどうやって育てるのか、ということです。

中山 直接売上げに貢献しようと思ったら営業部門に近づくというのは当然ながら必要で、でもSIerさんは自分たちでは事業が分からないけれども、情シスは分かっているのかというと、実は分かってないんじゃないのと。

大企業における情シスって、自分から情報を取りに行く、コミュニケーションしに行くということをしないとSIerと変わらないと思います。事業のことなんて分かるわけがない。

営業のシステムを作ろうとすれば営業に密着するし、コミュニケーションを密にするのは大前提です。会計のシステムなら経理の人と戦えるぐらいのノウハウを身につける。そういう気持ちやアプローチが必要かなと思います。

私がいた当時は、情シスの場所が本社と別のところだったのですが、2000年に当時のマシンを全部アウトソースして自分たちを身軽にして、本社のなくなった部署の空いている部屋を見計らって20人で乗り込んで行きました。

長谷川 僕はWebエンジニアの人たちに学ぶところがあると思っていて、Web系のひとは『こんなサービスがいい』と言ってサービスを作って自分で公開して、おまけに自分で経営もしちゃうみたいな。

でもエンタープライズ系のITの人って、自分はここしかできませんと勝手に決めちゃってる。情シスの人も営業を覚えると、発想を転換しないとWeb系のエンジニアの人にやられるぞと思います。

≫後編に続きます。後編では会場の参加者から、現場に出ることで仕事が忙しくなりすぎる心配や、作ったシステムをどう使ってもらうかの悩みについて。

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Junichi Niino(jniino)
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