テストエンジニアのモチベーションを上げるにはどうすればいいか (後編) JaSST'14 Tokyo
ソフトウェアの開発に関わるエンジニアの中でも特殊なスキルを持つテストエンジニア。そのテストエンジニアをマネジメントする上で、彼らのモチベーションを上げるにはどうすればいいのでしょうか?
ソフトウェアのテストに関わるエンジニアが集まる国内最大のイベント「ソフトウェアテストシンポジウム 2014 東京」(JaSST'14 Tokyo)が、3月7日と8日の2日間、東洋大学 白山キャンパスで開催され、その基調講演に英国コンピュータ協会のStuart Reid(スチュアート・リード)氏が登壇しました。
(本記事は「テストエンジニアのモチベーションを上げるにはどうすればいいか (前編) JaSST'14 Tokyo」の続きです)
ダニエル・ピンクのMotivation 3.0
2010年に発表されたダニエル・ピンクのMotivation 3.0では、モチベーションには3つの要素、やりがい、自主性、目的があるとしています(Mastery、Autonomy、Purpose - MAP)。
ピンクの理論では、つねに新しい課題へのチャレンジがあることが人々をモチベートするとしています。しかしあまりにも課題が難しいと、逆にモチベーションを下げてしまいますので、マネージャーは適切に課題を設定しなければならないでしょう。また、没頭できる課題、あまりにも仕事が面白くて時間も忘れて没頭することは、みなさんも経験があるでしょう。そういう仕事はやりがいのある仕事だということです。
調査では、役職が高いほど、チャレンジがある方がモチベーションが上がると調査は示しています(Mastery1:Challenge)。一方、継続的に新しい技能を学ぶチャンスを与えるのは、モチベーションにとって必ずしも効果的ではないようです(Mastery2:Mastered Skills)。没頭できる仕事(Mastery3:In the flow)はモチベーションを高める傾向にあります。
目的意識の面では、幅広く社会のために働いているんだということは、その会社の利益のためだけというよりプラスに働いている。ただしテスト部門長は唯一、利益を出そうという目的意識がマイナスに働いています。
アジアと世界を比較すると、アジアの人は社会貢献にモチベーションを感じる一方、利益にはあまり関心がないようです。
ピンクの要素にはありませんが、職場環境とモチベーションについても調べてみると、職場環境がよくなることで、とくにデベロッパーとテスト部門長のモチベーションが上がることが分かりました。
なにがテストエンジニアのモチベーションにつながるか?
ここまで扱ってきた2つのモチベーション理論の要素をすべて組み合わせ、いちばんモチベーションに影響する要素の上位4つ、職場環境、多様性2(プロジェクトの多様性)、やりがい1(チャレンジ)、やりがい3(没頭できる仕事)を組み合わせると、相関係数は0.5となりました。
これらから、テスターのモチベーションを上げるのになにが必要か、まず新しいことへのチャレンジ、そして評価されること。そして自分がうまくできている、貢献しているということ。給与は全体の7%、5番目の要因でした。
ですから、給与やボーナスを上げればモチベーションを上げられると思ってはいけません。また、いいマネジメントもあまりモチベーションにはつながっていないようです。
逆にテスターのモチベーションを下げるのは、マネジメントの悪さが最大の要因、そしてフィードバックの欠如も大きい要素となっています。同じタスクの繰り返しが3位に入ったのは驚きでした。4番目は、プロジェクトの完了がはっきりしない、品質基準が決まっていないということです。
これはテスターの給与の傾向です。ただし、資格や地域などによってばらつきはあります。
テスターの経験。10年以上の経験を持つアナリストがあまり昇進していないのが残念な一方、1年未満のテストマネージャやテストコンサルタントなどもいるようです。
これは経験と給与などの関係を示した図です。経験があるほど給与が上がっていますが、教育は全く相関がありません。給与をもらうのに博士号はいらないかもしれませんね。
どのライフサイクルのプロジェクトに関わっていても、モチベーションにはあまり変わりはないようです。また、組織の大きさや本人の経験の長さにもあまり関係はないようです。
仕事としてのテスト以外の興味、例えばこのカンファレンスを開催するためのコミュニティで作業しているとか、ブログを書くとか、会社以外のことでの活動に興味のある人の方が、モチベーションは高いようです。採用をするときには、社外での活動を考慮した方が、モチベーションが高い人を採用する可能性が高くなるでしょう。
結論をまとめましょう。モチベーションは一般的な理論に基づいてある程度高めることができそうです。しかし、全員を一律に扱うのではなく、役職や地域などによって異なる影響の要因を考慮すべきでしょう。
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