ビジネスが変わればソフトウェアの品質も変わる。ソフトウェアがビジネスの鍵を握る時代の新しい品質とは。ソフトウェア品質シンポジウム 2014

2014年9月16日

ソフトウェアがビジネスの成否を握る時代に、ソフトウェアの品質はどう定義されるのか。9月10日から12日の3日間、東洋大学で開催された日本科学技術連盟主催の「ソフトウェア品質シンポジウム 2014」(SQiP 2014)基調講演では、東京海上日動システムズ顧問 横塚裕志氏が登壇。「ビジネスが変わる…品質が変わる」と題し、ビジネスがソフトウェアによって作られていく時代のソフトウェア品質について、新たな考え方が提唱されました。

そしてこの新しいソフトウェア品質に基づくと、従来のIT業界におけるビジネスモデルやマインドを大きく変える必要があることも説かれています。

基調講演の内容をダイジェストで紹介します。

ビジネスが変わる…品質が変わる

東京海上日動システムズ 前社長、現在は東京海上日動システムズ 顧問 横塚裕志氏。

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品質というのはつねに変わり続ける、それはビジネスが変わっているからで、品質管理部などが何年も同じ品質管理をやっているのはおかしい、という話をしようと思います。

いまはモノづくりからコトづくりになっている時代です。例えばソニーのウォークマンは世界を圧倒しましたが、iPodに負けてしまいました。これは音質という品質で負けたのではありません。iPodとiTunesという体験がお客様に選ばれた。音質という品質だけでは世界に勝てなかった。

新聞もデジタルになると、記者が記事を書く品質もがらっと変わると聞きました。印刷して配る新聞はあとから修正できません。ですから一語一句徹底してチェックしてから出します。ところがデジタルの世界ではいつでも修正ができます。むしろ早く情報を伝える方が大事になってきている。記事を書く品質の基準が変わっている。

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時代が変わるとビジネスが変化して、求められる品質も変わる。

そこでわれわれのビジネスがどうなっていくのかを想像した上で、これから品質がどうなるかについて考えていきます。

スマートデバイスが爆発的に増加していまし、オンラインビジネスもこれまで以上に増加するでしょう。米国のリテールビジネスでオンライン化されているのはまだ6%だと言われています。残りの94%にもオンライン化が押し寄せることは間違いありません。

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こういうことを想定して、通信料もコンピューティング費用もほとんど無料に近づいていく、そういうときにどういうビジネスになるか。オンラインビジネスがこれまで以上に増加する、ということが想定されると思います。

東京海上日動ではスマートフォンで買える1日単位の自動車保険というのを販売したのですが、これが非常にヒットしました。昔は1日だけの保険なんてどうやって売るんだよ、という話でしたが、いまは誰もがスマートフォンを持っていますからね。

するとソフトウェアの品質がビジネスの浮き沈みを握るようになるわけです。お客様が直接、私たちのソフトウェアを評価する。ということは、ソフトウェアの品質が良くないとお客様が商品やサービスを選んでくれません。

じゃあ、ソフトウェアの品質とは何なのか。そこを考えなくてはいけません。お客様からみて品質がどう感じるのか、ということを考えるのが、これからのビジネスの鍵を握るわけです。

新しい品質とは、生産量は小さく効果は大きく早く

住民基本台帳システムを例に、この品質はどうだったのかを考えてみます。これを選んだのはたまたまで、みなさんある程度ご存じのシステムを選んだだけです。

さて、この品質はどうだったのでしょう。いまのところ大きなトラブルも聞かないので、そこそこだったのでしょう。しかし皆さんご存じの通り、あまり使っているという話を聞きません。

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国民の5.8%がこのカードを取得しているそうです。5.8%しか使われないシステム。これはソフトウェアの品質としてどうなんですかね。私は失格だと思います。

もし東京海上日動が「東京海上日動カード」を作って宣伝したけれど、お客様の5.8%しか使われなかったら、責任者の首が飛びます。なんの価値も生んでいないのですから。

ソフトウェアの新しい品質とは、ソフトウェアがお客様にとって新しい価値を生み出しているかどうか、そこに大きなポイントがくると思います。

デジタル化された世界では、新聞記者の例のように、従来の品質はそこそこでもスピードがあって、そのスピードにすごく価値があって、そうした価値に焦点をあててビジネスをしていく。

従来、ソフトウェアの品質は生産量に対してトラブルを最小化することだったと思います。分母をできるだけ大きくしながら、分子のトラブルを小さくする。そうすれば予算も、デリバリも予定通りと、こういう考えできました。

しかしビジネスの価値にフォーカスした瞬間に、ソフトウェアの品質の定義が新しくなる。私の定義はこれです。

生産量分のビジネス効果、掛けるスピードをいかに最大化するか。こういう定義になると思います。

これを最大化するためには、なるべく作らない。ビジネス効果が高いものを、生産量をできるだけ小さくして実現する。そうするほうが早くできる。クラウドのサービスみたいなものを組み上げてぱっと作る。

ソフトウェアの品質をこう定義したとき、品質の高いソフトウェアをどう作っていけばいいか。いままでの考え方を変えないと無理です。

例えば、生産量をなるべく小さくすると言った瞬間に、ソフトウェアの開発をメシのタネにするベンダは売り上げが減ります。必然です。

次に効果。効果があるかないかは発注者の責任であって、開発者の責任ではないよねという考えは、もう時代が違います。お客様とITの専門家が一緒に考える時代です。決めてくれないと作れません、というレベルでは、新しいソフトウェアで新しいビジネスを作ることなどできません。

新しいITの中でどういうビジネスができるのか、ビジネス側の人とITの人が一緒になって考える時代です。

ですから、生産量は減って従来のソフトウェア開発ビジネスは厳しいのですが、新しいビジネスを作っていくという新しい可能性が開けています。

新しいソフトウェア開発のための4つのポイント

その新しいビジネスのためのソフトウェアの開発に取り組んでいくわけですが、4つポイントがあると思っています。

1つは「デザインシンキング」(Design Thinking)という方法論です。徹底して、お客様から見たものの考え方をしなければなりません。

簡単に言うと、人間中心のアプローチです。例えば洗濯機を考えるとき、洗濯機の部品や構造から考えるのではなく、主婦で子供が2人いてというお客様から見て洗濯機とはどうあるべきかを考える。しかも答えが一発で出るわけではないので、プロトタイプを作って試してもらって、お客様の声を聞いて作り直して、ということを繰り返す。

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小さく産んで早く失敗して改善を繰り返していく、繰り返し型の開発の中からお客様に価値のあるものを作っていく。

2つ目はなるべく生産量を下げる、なるべく作らない。例えばクラウドとクラウドをつなげて、必要ならあいだにルールエンジンなどでロジックを入れる。クラウドには使えるサービスがたくさんあって、それらを活用すれば数日でシステムができてしまいます。そういう時代なんです。失敗がたくさんできるので、チャレンジもしやすくなります。

使えるものをそのまま使って、できるだけコーディングしない。作らないように作る。

こういう話をすると、スピードを上げると品質が下がるのではないか、と言う人がいます。しかし急いで作るのではなくて、あるものを活用してできるだけ作らないのです。すでに動いているものを使うのですから、これは逆に品質向上につながります。

3つ目はマインドの問題です。ソフトウェアを開発する人たちのマインドって、「決めてくれたら品質の良いものを作りますよ」という受け身的なものでした。ビジネスの人が「一緒に作りましょう」と言うと引いちゃうんですね。

でもお客様側に立って自由に発想し、作っていけるモチベーションやマインドを育む、それが社長の仕事ですよね。

品質をどのように定義するかが経営の仕事

これからはお客様の価値を描いてそれをソフトウェアとして作るという、そういう勝負ですから、9時から5時までしかめ面で働いていてもだめです。このSQiP(ソフトウェア品質シンポジウム)に来るとか、そういうことで人脈ができたり、自主的に勉強したりと、会社の仕事だけやってても成長できないじゃないですか。

上司から言われた仕事をちゃんとやるだけではつまらない。自分で考えて、こんなビジネスができるのではないか、ソフトウェアで作れるのではないかと作っていけるのはすごく楽しいはずです。

最後に。自社にとっての品質をどのように定義するのかが経営の仕事だと思います。10年前と同じ指標で品質を計るというのでは、その会社の経営も変わっていないと言うこと。 この会社における品質とは一体何か、もちろんソフトウェアが大きな問題を起こしてはいけません。バグがたくさんあっていい、ということを言っているわけではありません。

いかにシンプルなビジネスプロセスにして、シンプルなソフトウェアにするか。クラウドのサービスを使って作らずに作ってやっていくか。その上で新しい価値を作っていく。そういう世界の中で、ビジネスをどう作るかにパワーをシフトしていく。

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そういうブルーオーシャンが目の前です。東京オリンピックの前にエンジニアが足りないという話がありますが、足りないに決まっています。こういう世界が広がっているのですから。

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Junichi Niino(jniino)
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