積水化学工業、オープンソースと内製化、2万人のメールをクラウドへ移行でエンジニアのモチベーションが大いに上がった AWS Summit Tokyo 2014

2014年8月25日

7月17日と18日の2日間にわたって都内で開催された「AWS Summit Tokyo 2014」では、大企業による情報システムのクラウド化事例も紹介されました。

多くの企業において情報システムのクラウド化は、コスト削減や迅速性といった経営上の文脈で語られます。しかし積水化学工業の原和哉氏が行ったセッション「オープンソース&内製化&クラウド移行で、情報系システムを進化させた、積水化学グループ」では「エンジニア(関係会社)のモチベーションが大きく上がった」という点が結論として強調されるユニークなものでした。

また、個人的意見と断りながらも指摘された「ITの運用部門は非常に厳しい環境に置かれている」という点も、企業のクラウド採用が進む背景として無視できない現実でしょう。

クラウドという技術はエンジニアにとってエキサイトなものと多くの人が感じつつ、いざ企業のクラウド導入という文脈ではなかなか語られなかった面にスポットを当てたこのセッションについて、クラウド採用のきっかけとオンプレミスとの比較、そして結論部分を中心にダイジェストで紹介します。

オープンソース&内製化&クラウド移行で情報系システムを進化

積水化学工業株式会社 コーポレート 情報システムグループ 部長 原和哉氏。

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積水化学グループは従業員数が連結ベースで2万3000名、売上高が1兆1100億円ほどです。住宅事業などの住宅カンパニーが約4700億円、高機能プラスチックカンパニー、環境・ライフラインカンパニーなどの事業展開をしています。

AWSへの移行対象となったシステムは「Smile」という社内システムです。

Smileは間接業務の削減や効率化を目的として、2004年にメール機能、2005年にグループウェア機能などを実装、日英中の言語にも対応し、社内のナレッジマネジメントやグローバルな情報共有を行う、積水化学グループ全員が使うイントラ基盤です。

ポータル画面がSmileの顔になっていて、メールが中心的な機能。CMS以外はすべて自社開発のオープンソースソフトウェアです。そして今回2013年に、AWSへの移行による機能強化やBCP(ビジネス継続計画)対応などを行いました。

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移行の検討を始めたのは、メールストレージの保守期限が来て、ハードウェアを更新しなくてはいけないのがきっかけでした。でもこのストレージが高価で、2万人のメールを預かっているのでひと声何千万円の世界です。高価なので一人当たりにはそんなに容量を渡せなくて、一人あたり100メガバイトまででした。従業員からは「しょぼい」という声もありました。

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Smileは延べで100台くらいのサーバで動かしていますが、これを20台ずつ入れ替えても5年がかりで、これもまた大変です。新しいサーバを買って、インストールして動いたらデータをコピーして、古いサーバの空き地にまた新しいサーバを入れてというのは、全然やりたい作業ではないですね。

また、コンプライアンスの件でメールのアーカイブ機能がほしいという要望もありました。震災の後ですからディザスタリカバリも求められますし、社業がグローバルになっていくので、インターネットで利用できるものにしたいですね、というのもありました。

オンプレミス、SaaS、IaaSの比較でIaaSに決定

そこで、移行先を引き続きオンプレミスにするか、Google AppsやOffice 365のようなSaaSか、AWSのようなクラウドにするかで検討しました。

ざっと比較するとこうなりました。お金は5年間のTCOで計算して、人件費も全部算入しました。

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特徴的な判断をしたのがユーザー操作です。いったん慣れた画面が変わるとすごく文句を言われて、従業員から鬼のように電話がかかってきます。そういう人たちにGmailやユーザーインターフェイスがぽんぽん変わるものを提供するのはちょっと大変なので、ユーザー操作にはSaaSでは×をつけました。従業員のITリテラシーが高い会社はこれとは別の評価になると思いますが。

評価の結果、IaaSにしようと。AWSにしたのは、簡単に言うとナンバーワンを使うのがいいのではないか、ということです。

クラウドに移行するというと、セキュリティの心配をよくされます。正直に言うと、私も経営陣にVPCとかELBとか一応説明しますが、いちばん効いたのは、「オンプレミスのデータセンターとクラウドのデータセンターは同じです。同じ仕組みで運用しています」と、それがいちばん理解してもらうのが早い説明でした。

これは私の意見ですが、オンプレミスのインフラを運営している人は社員だったり協力会社だったりアウトソースだったりといろいろですけれど、そこで働いている人たちはほとんど評価されません。運用の人はプラス評価というのがほとんどなくて、なにかあうとマイナスの評価が付く。これは非常につらいです。ITの運用部門は非常に厳しい環境に置かれている、というのを非常に強く感じます。

こういう人たちと、あくまでイメージですが、クラウドで働いている人たち。お客様とは契約に従って運用を行い、きっと定時に帰っているクラウドの運用部門のひとたち。どちらに任せるのがいいでしょうと、クラウドの方が安全ではないかと思います。

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メールボックス2GB、アーカイブ機能も実現

AWSのシステムではどんな構成にしたかというと、EC2で111インスタンス、ESBで11テラバイト、S3で4テラバイトAmazon RDSを6つなど。稼働しているオープンソースのソフトウェアはPerlで書かれていて、利用ユーザー数が2万人くらいです。

この構成でひとりあたりのメールボックス2GBというのを実現し、従来の20倍になりました。また(コンプライアンス対応として)メールのアーカイブ機能も追加されました。

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移行作業では、AWS起因かアプリケーション起因か分からない不具合が発生しましたが、AWSのサポートで解決しました。すぐレスポンスをもらえるのは「ビジネスレベル」のサポートが必要となりますので、みなさまにもビジネスレベル以上を強くおすすめします。

それからドルの問題。AWSの請求はドルです。移行企画時は1ドル80円でしたが、移行完了時には1ドル105円になっていて、念のため移行の資料には1ドル100円で想定していたのですが、ちょうどAWSの値下げがあって5円分は吸収できました。

今後もAWSの値下げに期待しつつ、ぜひ円での取り扱いもお願いしたいと思います。

AWSへ移行したことでモチベーションが非常に上がった

オンプレミスで運用しているハードウェアの台数が多い場合、そのハードウェアの更新作業は無駄です。クラウドに移行して会社にとって生産性ゼロのプロジェクトはなくして、エンジニアをアプリケーションの開発や保守、運用といった有意義な仕事に向かわせるのは非常にいいことだと思います。

コストリダクションは期待しませんでした。試算が経費化するため、予算管理には注意が必要です。

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なによりAWSへ移行したことでエンジニアのモチベーションが非常に上がりましたね。AWSの技術者にも来ていただいていろんな話をしていただいて、たくさんあるAWSのサービスをどう使うと性能が出るのか、といったことを考えながら作るというのはとてもモチベーションがあがりました。

オープンソースを活用してアプリケーションを内製化し、AWSで動かすというのが最大の勝因。IaaSはオンプレミスのデータセンターと同じです。私はAWSを、エンタープライズにおける次世代のインフラ戦略にうってつけのサービスだと思います。

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Junichi Niino(jniino)
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