モバイルにおけるWeb、そしてその先
これからのコンピューティングは、PCよりもスマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスが主役になる。そうした時代を見据えて、Webをどのように発展させていくべきなのか。
W3CのスタッフであるDominique Hazaël-Massieuxが、Webデザインの情報サイトとして著名な「A List Apart」に投稿した記事「The Web on Mobile and Beyond」は、その重要性と困難さを見通しつつ、向かう先への決意を示した内容になっています。そしてW3CがWebをどのように進化させようとしているのかを知るための、情報のひとつともいえるでしょう。
この記事の翻訳はA List Apartと著者の許可を得て掲載しています。
モバイルにおけるWeb、そしてその先
By Dominique Hazaël-Massieux
2005年にW3CがMobile Webイニシアチブを立ち上げ、モバイルにおけるWebの重要性を高めようとしたとき、誰もが私を見つめ、目をぱちくりさせたものだ。しかしいま、わたしはバルセロナで開催された世界最大級のモバイルとネットワークのイベントであるMobile World Congress 2013の開催中、ずっと笑みをこぼしていた。
W3Cは今年そのブースで大きなHTML5のロゴを掲示し、業界におけるOpen Web Platformのインパクトを強調したが、それ以上に語るべきは、HTML5のロゴが多くの、本当に多くのW3C以外のブースにおいて輝いていたことだ。
Webはモバイルにおける大きな存在感を得て、私たちは笑みを隠せずにいる。なぜなら私たちは低いコストでより多くのデバイスや人々にリーチできるプラットフォームへと、また一歩近づいたからだ。
MWC2013はまた、HTML5がブラウザの殻を破ったことを確認する場ともなった。数々のHTML5対応開発プラットフォーム、例えばPhoneGap、Windows 8、Blackberry、そしてTizenなどの登場だ。さらにMozillaは、Webテクノロジーを全面採用したモバイルOSであるFirefoxOSという大きな発表を行った。W3CとIntelは共同で「I See HTML5 Everywhere」(どこを見てもHTML5)というTシャツを作ったけれど、それは文字通りのことだった。
モバイルの挑戦(The Challenge of mobile)
Webがモバイルにおいて重要な役割を演じるだけでなく、モバイルもWebにおいて今後の鍵となるような役割を果たすことになる。私たちのつながりや対話の発信や着信は、これからさらにモバイルデバイスにおいて増加していくだろう。こうしたモバイルの生活にWebプラットフォームを適合させていくことを、私たちは確実にしていかなければならない。私はこれこそ将来のWebにとっての最重要課題だと信じている。
これまで何年も、W3Cはモバイルにおいて、さらなるリッチな体験、さらなる適合、さらなる統合を実現しようとテクノロジーをデザインしてきた。例えば、CSSメディアクエリはレスポンシブWebデザインの基盤を提供するといったことだ。すでにモバイル対応は数多くなされており、これからもさらに進むだろう。こうした活動をフォローしやすいように、私はモバイル関連のWebテクノロジーに関するオーバービューを四半期ごとに公開してきた。
これらのテクノロジーは、デザイナーがユーザー体験を構築するために使えるものだが、テクノロジーはモバイルデバイスのユーザー体験を実現するうえでパズルの1ピースでしかない。モバイル開発に関するA List Apartの多くの記事は、この課題がデザインコミュニティに置いてクリエティビティを前進させるものであることを示している。
レスポンシブWebデザイン、モバイルファースト、フューチャーフレンドリー、そしてジャストインタイムインタラクションなどいくつかのトレンドの影響は、この先何年も続くだろう。クリエイティビティは素晴らしいが、さらに前進を求めていきたい。いまテクノロジーを実践していてまだ何かが足りない、そう思ったらぜひ教えて欲しい。[email protected]宛てに直接メールしてくれてかまわない。
ギャップを埋めるもの(Closing the Gap)
私たちWebコミュニティにとってもう1つの課題は、ネイティブアプリケーション開発へ向けられるエネルギーに直面していることだ。
Webはこれまで多くのネイティブアプリケーションを置き換えてきたが、モバイルではその逆のことが起きている。これまでWebで提供されてきたコンテンツが、ネイティブアプリケーションへとマイグレートされているのだ。少し例を挙げれば、新聞、ソーシャルネットワーキング、メディア共有、政府系サービスなどがある。さらには、これらのコンテンツプロバイダの多くが邪魔なバナーやポップアップでユーザーをWebサイトからネイティブアプリケーションへと誘導している。
モバイルな世界がどこへ向かっているのかはまだ不明確だ。いくつかの統計や調査ではWebへと強力に回帰する動きがあると言っている(例えば最近のKendo UIの調査)し、その逆だというものもある。私にとってはっきりしているのは、ネイティブに囲い込まれたエコシステムをたやすく受け入れることはできない、ということだ。
Webの特徴であり多くの人の心をつかんでいるのは、テクノロジー(そのいくつかは素晴らしく、いくつかはひどいものだが)でも遍在性でもない。Webの重要性の基盤をなしているのは構造的なオープンさ、だれでもコンテンツを公開でき、そのプラットフォームとしての将来を決める議論にだれでも参加できることだと私は信じている。
モバイルのネイティブなエコシステムは歴史的に、特定の企業に支配されたとても閉鎖的なものだった。多くの私たちの情報やインフラが、こうした軽々に受け入れるべきでないエコシステムの内側へと陥ろうとしている。聞いていただきたいのは、こうしたプラットフォームが生み出したイノベーションには感謝するとしても、イノベーションが標準になるサイクルが回るようにし、その標準が次のイノベーションを生み出す優れたプラットフォームになるようにしていく必要があるのだ。
もちろん、そのための最善な策とは、Webをモバイルにとってベストなプラットフォームにしていくことである。この考えを実現するには、多くの人々のエネルギーやアイデアを引き出していくことが求められるし、WebデベロッパーやWebデザイナーは次世代のWebにおけるユーザー体験を作り出していくうえで重要な役割を果たすことになる。私はW3Cにおいて、この動きをリードし、Webをモバイルにおいてより競争力の高いものにするためのに何をすべきか、といった調査を行った。この点でフィードバックやアイデアがあれば歓迎したい。
モバイルを超えて(Beyond mobile)
Webを“king of mobile”(モバイルの王様)にする鍵となるのは、モバイルデバイスは手段であると言うことを理解することだ。このコネクテッドワールド(接続された世界)――コンピュータ、電話、タブレット、テレビ、自動車、メガネ、時計、冷蔵庫、電球、センサー、まだまだ増えるだろう――モバイルフォンは全体のハブとなりそうだ。プラットフォームとしてすべてのデバイスで現実に利用可能になるその唯一のものは、Webだ。
いま、私たちはOpen Web Platformを成功させる貴重な機会を手にしているが、これをきちんと手にするのは簡単ではないと思う。モバイルデバイス(時計さえ!)からテレビまでスケールするユーザー体験を構築するのは複雑なことだろうし、異なるタイプのデバイスに適合する対話的なユーザー体験の構築も困難なことだろう。さまざまに広がるコンテキストにおいてユーザーの要件を満たすことなど、私たちにできるだろうか。デバイスのバリアを超えてユーザー体験を作ることは、今まで以上に私たちを悩ませるだろう。
しかし今、この地上にオープンなプラットフォームを構築する空前の機会が横たわっている。それこそ、私が笑みを隠せずにいることなのだ。
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