PR:伊藤直也×まつもとゆきひろ。ポストPC時代のモバイル開発を語る
これからのアプリケーション開発では、「クラウド」と「モバイル」が重要な要素になることは明らかです。そしてそれらを用いた開発では、新しい技術や方法論が求められてくるであろうことも指摘されています。
9月6日にセールスフォース・ドットコムが開催するイベント「Salesforce Developer Conference Tokyo 2013」では、このクラウドとモバイルをテーマとし、HerokuのRubyチーフアーキテクトでもある、まつもとゆきひろ氏やフリーランスエンジニアの伊藤直也氏による講演などが行われる予定です。
イベントに先立ち、まつもと氏と伊藤氏がポストPC時代のアプリケーション開発にどのような考えを持ち、実践しているのか、イベント主催者のセールスフォース・ドットコムCTO 及川喜之氏と共にお話を伺いました。聞き手はPublickey 新野淳一です。
エンタープライズとコンシューマが逆転した、ポストPCの時代
伊藤 僕はいまBtoBの開発のコンサルをすることがあって、そこで何を期待されているかというと、BtoCで成功している方法論や開発プロセスなどをBtoBでもやりたいと。
以前はサーバOSやデータベースなどの面で先進的な技術が使われていたBtoB、エンタープライズ系の開発は、いまや先進性ではクラウドやモバイルデバイスを使ったコンシューマに逆転されてしまっています。
まつもと 最近、スマートフォンとかタブレットとか、PCじゃないところが主戦場になってきて、PCより小さなデバイス、少し前なら「組み込み」と言われていたものの重要性が高まってくるのではないかなと思っています。いまホットなデバイスはスマートフォンだったりしますが、もっと先に進むとコンピュータは環境に組み込まれてどんどん見えなくなっていくのではないかと思います。
でも、例えば多くのスマートフォンのアプリはスマートフォンだけでは完結していなくて、データやロジックはクラウドにあるわけで、ポストPC時代には小さなデバイスとクラウドが手を取り合って働くようになるわけです。
そういう時代に、かつての組み込み系プログラミングのようなCやC++でプロトコルの部分からプログラミングするというのはかなり無理があって、だったらそういう小さなデバイスでもアプリケーション開発に使える言語があるといいなあ、というのがmrubyの開発の背景にあります。
いままでのやり方ではうまく作れないものが増えてきている
伊藤 僕らがWebサービスの開発現場でやっていたことは、自分たちで「アジャイル開発」や「DevOps」とは言わなくても、自然とそういうものになってきたんですね。なんでかというと、Webアプリケーションやサービスみたいなものを作って成功しようと思ったら、頻繁にアップデートを行って利用者に価値を提供し続ける、といったことをするしかなかった。
いまエンタープライズの人たちが、なぜこうしたBtoC系の開発に注目し始めているかというと、いままでのやり方ではうまく作れないものが増えてきているからではないかと思います。
モバイルアプリケーションはまさにそうで、いままでのように要件定義をして、その通りに作ればうまく作れる、などとは思われなくなっていて、違うやり方にしなくてはいけないと考えられているのではないかなと。
まつもと 伝統的なSI市場はいまは縮小してるんですよね。いまは何でもWebじゃないですか。で、Web開発のプログラミング言語に何を使うか、JavaかPHP、Rubyとなりますよね。Javaはともかく、PHPやRubyを使うとなると、いままでの開発方法論でいいですか、というところにギャップを感じる人が多いと思います。
いままで通りの開発をするのであれば、Rubyやmrubyはいらないし、従来の組み込み開発にわざわざmrubyを使っても誰も幸せにはならないと思うんです。
でも未来のアーキテクチャや未来のモバイルシステムを作るときには、作り方も変わってくるだろうし、そういうところでRubyやmrubyが活躍するところが出てくるんだと思います。
で、5年後にそういう未来のシステムが広まったときに、そこからそれに合ったRubyを作りましょうといっても間に合わないので、いまから、というか2年前からmrubyを作り始めていると。
──── そういう中で、今回セールスフォース・ドットコムがクラウドとモバイルにフォーカスするデベロッパー向けのカンファレンスを開催する意義はどのようなところにあるのでしょう?
及川 セールスフォース・ドットコムは、コンシューマで起きていることをいち早くエンタープライズに取り込む会社なんです。最初は、Amazon.comで本を買うみたいにエンタープライズでCRMが使えるようにならないかと考えてクラウドサービスを作りました。Chatterを作ったときも、企業の中でFacebookのように情報共有ができないかと考えて作ったものです。
モバイルへの取り組みも、そうしたコンシューマで起きていることを積極的にエンタープライズへ持ち込む戦略の1つです。
まつもと 2011年に僕がHerokuにジョインしたときにCEOのマーク・ベニオフ氏は、われわれのコアコンピタンスは「クラウドに対する熱意だ」と言っていて、クラウドの未来にHerokuのようなPaaSと、言語としてのRubyがあると。ということでスポンサーがしたい、と言われたんです。で、スポンサーするって何だろうと思っていたら、ある日「いつジョインしますか?」って連絡が来て(笑)。この人たちは本気なんだなと感じました。
モバイルでのUIの競争が厳しくなってきている時代
──── アプリケーションがモバイル対応となり、UIが大事になると、これまでとは違う開発のやり方の大事さが高まりますね。
伊藤 その通りです。やった方は分かると思うのですが、モバイルアプリケーション開発の八割方はUIの開発で、そこが既存のアプリケーション開発とは相当違います。iPhoneアプリの開発などは、ひたすらUIを作っていくようなものです。
まつもと 大きな変化が起きていると思うんです。携帯電話のかなりの割合がスマートフォンになってきて、しかも会社で仕事に使うデバイスも、これからは自分の机の上でしか使えないようなPCだけ、ということは考えられない状況です。すると、アプリケーションのUIがスマートフォンやタブレットなどのモバイル対応になるというのはもう不可避ではないかと。
伊藤 しかもそのモバイルでのUIの競争が厳しくなってきている時代だと思っていて。僕が昔、はてなにいた頃は、PCから利用するBtoCのサービスが中心でした。
でもいま、何が起きているかというと、PCもスマートフォンもタブレットも全部のUIの垣根がなくなってきているんです。業務アプリケーションにしてもPCからだけでなくスマートフォンやタブレットから利用して仕事をするということも起きてきている。
すると、いままでPC向けのサービスをやっていたから小さな画面のモバイル向けサービスとは競争しなくていいと思っていたのが、UIの垣根がなくなってきたので、モバイルに特化してサービスを提供してきた新しい競争相手とも戦わなければならなくなってきています。そういう会社は小さい会社も含めてたくさんあるので、幅広い競争環境になっていくと思います。
──── 業務システムがスマートフォンで使えるようになった結果、情報システム部門の人がスマートフォン用のアプリを見せられて「どうしてこんな風に使いやすくないのか?」と社員から文句を言われたことがある、という話を聞いたことがあります。
伊藤 UIの重要性やビジネスゴールが不確定になりやすいといった現状に対して最近みんな分かってきたのは、試行錯誤の回数が大事だということではないかと思います。
UIは作って評価して、また作り直して良いものにしていくし、ビジネスはリーンスタートアップもそうですしアジャイル開発もDevOpsも、どれだけ試行錯誤の回数を増やすかというところに重きを置いています。
モバイル開発で言えば、クラウドを活用することですごく試行錯誤を増やせます。例えば、僕自身の開発でも、アプリケーションのクラッシュレポートやアクセス解析、プッシュ通知などはSDKやクラウドのサービスを組み込んでいて、自分で作らなくて済んでいます。
──── お二人ともイベント当日の講演は、今日お話しいただいた内容をベースにしたものになるのでしょうか。
まつもと ポストPCやネットワークと繋がった小さなコンピュータデバイスのような、まず大きなトレンドの話をして、その中で私からの解としてのmrubyの話をしようかなと思っています。
伊藤 僕も、ここでお話しした内容をもっと具体的な説明も含めて紹介したいと思っています。
──── ありがとうございました。
(本記事はセールスフォース・ドットコム提供のタイアップ記事です)
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