SAP、クラウドサービス基盤を「SAP HANA Cloud Platform」で統一。業務アプリケーションのクラウド化が加速へ
SAPはこれまでさまざまな業務アプリケーションをクラウドサービスとして発表し、提供してきました。例えば、昨年買収した人事系クラウドサービスのSuccessFactors、中堅規模向けの統合業務ソフトをクラウドで提供するSAP Business ByDesign、営業支援や顧客管理のためのクラウドサービスSAP Cloud for SalesやSAP Cloud For Customerなどがあります。
しかしそれぞれのサービスにはあまり統一的な戦略やプラットフォームが用意されているとはいえず、SAP全体の明確なクラウド戦略が見えてくることはありませんでした。
そのSAPは5月14日(日本時間5月15日)、米国オーランドで開催中のイベント「SAP SAPPHIRE NOW」において「SAP Unifies Comprehensive Cloud Portfolio With SAP HANA Cloud Platform to Serve Companies of All Sizes」(SAPは包括的クラウドポートフォリオをあらゆる規模の企業へ提供するためにSAP HANA Cloud Platformで統一する)というプレスリリースを発表。同社が提供するあらゆるクラウドサービスの基盤をHANA Cloud Platformで統一することを明らかにしました。
SAP HANA Cloud Platform will serve as the foundation for the full portfolio of cloud solutions from SAP. With this integrated approach, companies of all sizes can gain the flexibility, choice and lower cost needed to innovate for growth across their entire business in the cloud.
SAP HANAクラウドプラットフォームはSAPのクラウドソリューションの全ポートフォリオの基盤となります。この統合的アプローチによって、あらゆる規模の企業が柔軟性、選択、コスト削減といったビジネス全体にわたり成長のためのイノベーションに必要なものをクラウドで得ることができます。
これによって、顧客はどのようなメリットを得られるのか、少し長いのですがプレスリリースを引用しましょう。
To offer maximum flexibility and lower total cost of ownership (TCO), the unified SAP cloud portfolio will empower customers to leverage and extend their existing investments with multiple deployment choices — whether in their data center, the public cloud, the managed cloud or a hybrid environment to help meet the changing needs of any organization.
最大限の柔軟性と総所有コスト削減を実現するため、統一されたSAPクラウドポートフォリオは複数のデプロイメントの選択肢 ― 自社のデータセンター、パブリッククラウド、マネージドクラウド、あるいはハイブリッドクラウド環境など、あらゆる組織のニーズの対応を支援 ― によって既存の投資を拡大し、お客様の競争力強化に貢献します。
And with SAP HANA Cloud Platform as the underpinning, customers will be able to rely on maximum scale for all cloud-based SAP solutions, including line-of-business cloud applications, cloud-enabled business network and social collaboration solutions, and a managed cloud environment for SAP HANA.
そしてHANA Cloud Platformを基盤とすることにより、お客様はクラウドをベースにしたSAPソリューションで最高のスケーラビリティを得ることができるでしょう。それは業務アプリケーション、クラウドでのビジネスネットワークやソーシャルコラボレーション、そしてSAP HANAのマネージドクラウド環境などを含みます。
包括的なクラウド戦略、中小中堅の攻略が始まるか
この発表からは、3つの展開が読み取れます。1つ目は、HANAの重要性がさらに高まったこと。SAPは先週、大企業のミッションクリティカルな業務に対応したクラウドサービス「「SAP HANA Enterprise Cloud」を発表したばかりで、今回の発表はそれに続き、HANAを同社の業務アプリケーションのバックエンドデータベースとしてさらに本格的に利用することの表明です。
これはクラウドだけでなく、オンプレミスでも同じ方向に進むでしょう。SAPはデータベース、ミドルウェア、業務アプリケーションのすべてを自社でまかなう企業へと変わることになります。
2つ目は、SAPが本格的に業務アプリケーションのクラウド化を推し進め始めた点です。ミッションクリティカルな業務アプリケーションがクラウドに乗るのは時間がかかると言われてきましたが、キープレイヤーであるSAPが本格的に動き出したことで、業務アプリケーションのクラウド化を阻む聖域はほとんどなくなり、さらに加速することになるでしょう。
3つ目は、クラウドサービスによって、同社がこれまで苦手としてきた中堅中小規模企業の攻略が始まるかもしれない、ということです。
業務アプリケーションのクラウド化は、自社でデータセンターを持てるほどの規模がある大企業よりも、自社で複雑なシステムの所有も運用もしたくないと考える中堅中小規模の企業の方がニーズが高いことは間違いありません。SAPがクラウド戦略によってこの市場の攻略に今度こそ本気を出すのであれば、これから中堅中小規模の市場には大きな構造変化が起きるかもしれません。
SAP HANAは、インメモリデータベースとカラム型データベースという2つの先進的なデータベース技術を用い、これまでは専用のデータベースでそれぞれ処理していたOLTP処理とOLAP処理を、1つのデータベースで統合して高速でこなすという特徴を備えたデータベースであるとSAPは説明しています。技術的にはその通りだとして、SAP HANAにもっとも欠けているのは、業務アプリケーションのバックエンドとして十分な性能と信頼性を備えていることを証明する実績です。もちろんSAPはそのことを痛いほど分かっているはずで、これからその実績作りに注力することになるでしょう。
Publickeyでは来週、SAP HANAがどのような技術でOLTPとOLAPを両立させているのか、詳しい解説記事を掲載予定です。
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