「人材募集をしなくては」と悩んでる某クラウドベンダのK部長のために、参考になりそうなことを書いてみた

2013年4月8日

先週末に行われたクラウド関連の勉強会の飲み会で、たまたま僕の隣席になった某クラウドベンダーのK部長。業務拡大のために自分の部署の人材募集もしなくては、という話をされていました。

クラウド業界は人材不足の会社が多いようだ

K部長に限らず、クラウド関連の勉強会では発表者の方がスライドの最後で「一緒に働いてくれる人を募集中です、興味があったらぜひ連絡を!」と人材募集の告知をされているのをよく拝見します。クラウド関連分野はいま明らかに成長分野で、特にスタートアップから中堅規模の企業が事業拡大のため、積極的に人材を求めているようです。

ただ、そういう企業は人事部がなかったり担当者も人材募集の経験がなかったりと、手探りで人材募集を進めているところも少なくありません。K部長もどんな方法がいいのか模索中の様子でした。

僕は人材系ビジネスの実情にそれほど詳しいわけではないのですが、自分の知っている範囲で「こんな風にするのはどうですかね」、という話をビール片手にK部長にしてみました。そして、もしかしたらその話はK部長だけではなく、人材募集を考えているIT系企業の参考になるかもしれないと思ったので、簡単にここでまとめておこうと思います。

勘違いしている部分や、もっといいアイデアがある、というご指摘があれば、ぜひコメント欄やTwitterなどで教えてください。

転職サイトは確実か?

人材募集、中途採用の手段としてすぐに思い浮かぶのは、いわゆる人材紹介会社や転職サイトを使うことでしょう。

これらの会社はおおむね、転職を考えている登録者のリスト(あるいはスカウト候補のリスト)を持っています。その人たちの中から適切な人材をスカウトして紹介してくれる場合もあれば、そのリストの人たちにダイレクトメールを送って告知をし、転職希望者を募る場合もあります。転職サイトに採用情報を掲載することで、転職先を探しに来た人たちに知ってもらうようにする場合もあります。

企業によってどんなサービスが得意かは異なりますし、料金も例えば、スカウトの場合は転職した人の年収の20~30%程度だったり、登録者へのメール送付の料金が1回いくらだったり、採用情報の掲載が一カ月あたりいくらだったりと、どのサービスを使うかによって異なります。

ただ、人材募集をしている多くのIT系企業にとって「人材紹介会社や転職サイトは値段が高そうで……」という印象がつきまとうようです。確かに一定のコストは発生しますが、彼らはその道のプロですので、どうしてもいつまでに何人ほしいといった場合や、じっくり相談しながら中途採用のプロセスを進めたい、といった場合には払ったお金の分だけしっかりした確度で採用できるのではないかと思います(もちろん、この裏返しとして求職者から見た人材紹介会社などのメリット、デメリットの話もありますが、それを書き始めると長くなるので、ここでは割愛します)。

求人広告は安いか?

転職サイトなどを使わず、例えばPublickeyや@ITなどのエンジニアがよく見ているサイトに直接求人広告を出した方が安上がりなのではないか? こう考える会社もあります。K部長もPublickeyに広告を出すことに興味を持っていただいていました(ありがたいお話です)。

これは率直に言って、安上がりになる可能性はもちろんあります。けれど、そうでない場合もある、というのが答えになります。

たしかに初期投資は小さくて済むかもしれませんが、いつまでも適切な人が現れなかったためにずっと広告を出し続けることになると、転職サイトを使った方が安くて早かった、ということになります。もちろん転職サイトを使ったからといって確実に人材が採用できるわけではありませんので、どちらが確実に安い、ということを断言することはできませんが、転職サイトは専門サイトですので、営業マンががんばってフォローしてくれたりすると思います、おそらく。

広告料金をPublickeyの例で簡単に計算してみましょう。いちばん安い記事下テキスト広告を出したとします。定価で月間7万円で、月間35万インプレッション程度です。

広告のクリック率が0.08%だとすると、月間で280回クリックされて企業の求人ページに飛びます。そのうちの0.2%が面接の申し込みをするとすれば、月に0.56人、つまり2カ月に1人程度が面接を申し込みそうだ、という感じです。おそらく広告以外にも口コミや検索などの流入もあるでしょうから、月に1人程度の面接申し込みがあるとしましょう。

その企業が20人面接して1人採用するぐらいと想定すると、20カ月のうちに1人採用に至る、という計算になります。広告費が月7万円で10カ月なら70万円、20カ月なら140万円かかることになります。

もちろん、求人ターゲットに合うようなところに広告を出してうまくはまれば、最初の面接でいい人が現れて採用決定。7万円で済んだ。という可能性がありますし、20カ月やってもいい人が面接に来てくれなくて140万円かけてもだめだった、ということもあり得ます(もちろん転職サイトでも同じことが起こりえますが、転職の専門サイトですからいろいろフォローしてくれると思います)。

これはあくまで想定です。一般のサイトの広告単価はもっと高いですし、例えば求人企業に魅力がなかったり、逆に人気の高い企業だったり、面接のハードルが高かったりすればパラメータはいくらでも大きく変わることをご了解いただきたいのですが、自社で求人広告を出すときのイメージは分かっていただけると思います。

コミュニティで求人活動

間違いなくいちばん安上がりなのは、勉強会などのコミュニティで「当社は人材募集してます!」といった告知をさせてもらったり、コミュニティで築いた人間関係のなかから優秀な人を見つけてアプローチする、といった方法でしょう。

もちろん勉強会で露骨に求人活動をしてはマナー違反でつまみ出されてしまいますし、そういうマナー違反の企業に転職したいと思う優秀な人はいないでしょうから、そこは紳士的かつルールを守って、ということになります。発表者が最後に求人の告知を入れる、といった程度がバランスのとれたやり方になるかもしれません。

それでも最近ではコミュニティを通じて優秀な人が転職をする、といったケースが増えてきたように思います。コミュニティ活動の中で、個人の人柄や経験、能力といったものはそれなりに見えてきますし、個人の属している企業の文化や方向性もなんとなく感じることができます。そうした中で良質のマッチングが生じて転職に至る、というのは健全なものではないかと個人的にも思います。

ちなみに、K部長が所属する会社はコミュニティの人たちがいつの間にか転職していることで知られています:-)

ただ、「人材がほしい! できれば早めに」と考えているIT系企業にとって、コミュニティを通じた人材募集活動は、良質な人材が採れる期待はあるけれども、いつ、何人くらい採用できるかはもっともアテにならない(ですし、アテにしてはいけない)方法でしょう。

自社でイベントを開催し、興味のある人を集める

僕がK部長に「こんなやり方もありますよ」と紹介したのは、以前少し関わったことのある、某ソーシャルゲーム企業の求人のやり方でした。

ソーシャルゲームを開発する会社が多くの人材を求めていることはよく知られています。その企業はSIerで業務系プログラマーのキャリアを積んでいる人たちを採用候補と考えていました。一方で業務系プログラマーの人たちから見るとソーシャルゲーム業界は別業界に見えるらしく、あまり転職候補に入っていないのが現状で、そうした人たちにどうやって振り向いてもらうかが課題でした(数年前の話なので、いまはこの辺のイメージは変わってきているのかもしれませんが)。

そこで、ソーシャルゲーム企業は業務系プログラマーの人が興味を持ちそうで、しかも自分たちが得意な分野である、大規模データベースを展開する技術をテーマにしたイベントを自社で開催。後半では自社の業務内容や給与の話も少し挟むようにして、会社への興味ももってもらうとともに、業務系プログラマでも社内で成長できるようにちゃんと育てるから、という話をしていました(もちろんイベントの内容は事前にそういう話もあることを告知した上で)。このときこの会社は、Publickeyに集客広告を出していただきました。

この方法のいいところは、いま転職を考えている顕在的転職者だけでなく、あまり考えていないけれどもチャンスがあれば転職する可能性を秘めている潜在的転職者層に対してアピールできる点です。

世の中には、当然ながら「いま転職先をさがしている」と活動をしている人よりも、いま転職するつもりはないがいいところがあれば考えてもいい、という転職潜在層の方が圧倒的に多く存在しています。イベントを切り口に自社や自社の技術分野に興味がある人に来てもらい、自社への転職をアピールすることで、より広い潜在層に対して自社への転職を意識してもらい、その中から良さそうな人に目星をつける機会と、可能なら転職へとつなげてもらう機会を作り出せる可能性があります。

リクルーティングを忍ばせたイベントや勉強会はこの会社だけでなくときどき目にすることがありますし、転職サイトや人材紹介会社もエンジニアに対する認知向上や登録者を増やすことを意図したイベントを開催するようになっているようです。

もちろん、だからといって安易なリクルーティング目的でのイベントや勉強会をすすめるつもりはありません。きちんとした内容のものを準備することが前提ですし、リクルーティングの要素が内容に入るのなら、そのことも告知するべきでしょう。

この方法は、広告を出したり人材紹介会社に依頼するのに比べると手間のかかる方法かもしれませんね。

IT系企業にとって人材こそすべて

IT系の企業にとって、人材こそすべてといっても過言ではありませんし、特に人数がまだ多くない組織にとって、優秀な人材が採用できるかどうかは会社の行く末に大きな影響を与えます。僕もベンチャーを立ち上げ、何人も面接をして採用して会社を大きくしてきた経験を持つ者として、そのことはよく分かるつもりです。

人材の流動性があがることは、一般に業界全体にとっていいことだと思っています。K部長をはじめみなさんの人材採用活動の成功と、転職を検討しているみなさんの転職の成功を祈っています。

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Junichi Niino(jniino)
IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。2009年にPublickeyを開始しました。
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