企業向けクラウド開発において、クラウドソーシングはどう使われているのか? クラウド専業のシステムインテグレータ、アピリオCTOに聞く(後編)

2013年7月8日

アピリオ(Appirio)は、クラウド専業のシステムインテグレータとしてもっとも知名度の高い企業の1つでしょう。米国で2006年に創業し、日本でも5年前から活動しています。

現在、アピリオの従業員はグローバルで650人、日本は35人。米国ではFacebook、Yahoo!、Twitter、NetAppなどのシステムを構築した実績があり、日本では日本郵政のシステムを構築したことで知られています。

来日した同社CTO Glenn Weinstein(グレン・ウェインステイン)氏と、日本法人代表取締役 藤田純氏にインタビューを行いました。

(本記事は「クラウド専業SIの案件内容、価格モデル、開発手法とは? クラウド専業のシステムインテグレータ、アピリオCTOに聞く(前編)」の続きです)

fig Appirio Inc. Chief Technology Officer Glenn Weinstein(グレン・ウェインステイン)氏、株式会社アピリオ 代表取締役 藤田純氏

クラウドソーシングに参加するエンジニアとは?

──── エンタープライズ向けの開発でクラウドソーシングをしていることに、少し驚いています。具体的にどのような方法でやっているのか、教えてください。

ウェインステイン氏 大企業にはコストに対するプレッシャーがつねにあり、安価なソリューションを探しています。そこで、私たちが機密保持や知的所有権などを包括的に守ることで安全なクラウドソーシングを実現しています。

CloudSpokes - Crowdsourcing Development Community

私たちのクラウドソーシング「CloudSpokes」はすでに多くの実績がありますし、企業自身も開発に対するモデルを変えなければならないと考えていることから採用されているのだと思います。

クラウドソーシングを利用しているのはユーザー企業だけではなく、ソフトウェアベンダー(ISV)もです。クラウドへのアドインモジュールの開発、インテグレーション、共同開発などの案件がクラウドソーシングで行われています。

──── クラウドソーシングに参加するエンジニアはどんな人たちですか?

ウェインステイン氏 7万4000人以上の登録者がおり、あらゆるクラウド技術者、Salesforce.comのAPEXやVisual Force、Heroku、PythonプログラマやRubyプログラマ、JavaScriptプログラマ、それにロゴデザインやスクリーンレイアウトを行うデザイナーもいます。日本の登録者もいますよ。

コンテストの上位者に対価が支払われる

──── クラウドソーシングに参加するエンジニアを、アピリオはどう管理しているのでしょう。

ウェインステイン氏 CloudSpokes専任のスタッフもいますが、これは1つのコミュニティです。ここにアーキテクトがアサインされており、お客様の要件をCloudSpokesで対応できるように作業しています。

──── 参加者に対して、対価はどのように支払われるのですか?

ウェインステイン氏 案件ごとにコンテストが行われ、コンテストに勝った参加者に対価が支払われます。

一般に1つのコンテストには5人から7人くらいの応募者がいて、彼らが提出してきたコードをコミュニティメンバーがクオリティチェックします。コーディング標準に準拠しているか、要件を満たしているか、といった点です。

そしてスコアが付けられ、トップ3がコンテストのスポンサーに提出されます。そしてスポンサーがどれを採用するのかを決定し、その人に対価が支払われるのです。場合によっては上位3人ともに対価が支払われることもあります。

──── コンテストとはどのようなものですか?

ウェインステイン氏 1つのコンテストは大きくも小さくもなく、2~3日、8~16時間のプログラミング作業で完了することを想定しています。迅速に出来上がることをお客さんも望んでいますから。もしもお客様の要件が大きいときには、CloudSpokesのアーキテクトがこの程度の大きさ分割します。ここにアーキテクトのスキルが必要なのです。

エンタープライズ向けクラウドソーシングは日本でも成功するか?

──── クラウドソーシングは日本でも成功するとお考えですか?

ウェインステイン氏 そう確信してます。すでに日本人の参加者もいらっしゃいますし、日本のお客様はクラウドの組み合わせにおいて、より効果的なデリバリと価格を求めています。すでにそうしたケースは私たちのプロジェクトでうまくいっている実績があります。

藤田氏 日本のお客様は品質へのこだわりが強く、セキュリティなどへの懸念があるのはその通りだと理解しています。ただ、このCloudSpokesの仕組みと、そこに参加する7万4000人のエンジニアのパワーを使うことがどういうことなのかを理解していただければ、使っていただけるものだと思っています。

ウェインステイン氏 付け加えるならば、CloudSpokesの成果物は高い品質にあると信じています。これは日本のお客様にとって重要なことでしょう。

というのも、専門家が自分で選択したコンテストに参加し、しかも同じような能力を持つ他の専門家によってピアレビューされます。また多くのコードレビューアもいます。これは通常の開発プロセスと比べても質の高いものだと思います。

──── 日本でクラウドソーシングをローンチする計画はありますか?

ローカライズの計画はありませんが、すでに使える状況になっています。

──── これはお客様が直接クラウドソーシングを使うというよりも、御社へ発注した案件を通して御社がクラウドソーシングを使う、という理解でいいのでしょうか。

ウェインステイン氏 クラウドソーシングで応札されるようなコンテストを作らなければならないので、いまは私たちが関与することが多いですね。ただ、もしお客様ご自身でクラウドソーシングを使いたいのでしたら、直接使うこともできます。

藤田氏 どの単位でコンテストに切り出すか、というのが成功の鍵だと思っています。ですので、基本的には私たちを通してご利用いただくのがお客様にとってはハッピーだと思います。

──── 日本におけるアピリオの開発案件で、クラウドソーシングを利用する予定はありますか?

藤田氏 あります。とはいえ、お客様のご理解を得るのには時間がかかるため、中長期的なお付き合いができるお客様にまずは説明しています。すべての案件に適用できるわけではありませんが、ひとつのツールとして見ていただけるよう、徐々に説明をしています。

ウェインステイン氏 究極的には、アピリオはITに対するサービスの1つとして、そのクラウドソーシングの中に消えていっても問題ないと思っています。

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Junichi Niino(jniino)
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