「分散クラウド」がモノのインターネット時代のクラウドの形ではないか
いまのクラウドは、大量のサーバやストレージを大規模なデータセンターに詰め込み、そこで集中的に処理を行うモデルです。しかし、これからやってくるモノのインターネット(Internet of Things)の時代には、分散モデルのクラウドが登場するのではないか。EMCのグローバルマーケティングCTOのChuck Hollis氏が、ブログへのエントリ「The Emergence Of Dispersed Clouds」(分散クラウド群の登場)で書いています。
Hollis氏は、インターネットのおもな利用者が人間である現在は、集中モデルのクラウドが適しているが、インターネットに大量のモノがつながる、いわゆる「モノのインターネット」(Internet of Things)の時代には、集中モデルは合わず、分散クラウドが登場してくるのではないか、と書いています。
モノのインターネットの時代には分散クラウドが登場する
エントリから一部を引用しましょう。Hollis氏はまず、モノのインターネットの時代になると、ネット上に数兆ものノードが出現し、データを生成し始めるとします。
And, at scale, we're talking not simply billions of nodes, but perhaps hundreds of billions or even trillions -- each generating and processing enormous amounts of data.
規模の点において、単に数十億ノードという話ではなく、おそらくは数千億か数兆のノードが、それぞれ多くのデータを処理し生成するという話だ。
この状態では、すべてのデータをクラウドに運ぶよりも、ノードの近くで処理する力が働くだろうとHollis氏は予想しています。
At some point, it's not entirely reasonable to assume that all that data gets shipped to some centralized location, processed, acted upon -- and the resulting actions forwarded back to the node for potential action.
どこかの時点で、あらゆるデータをどこかの中央に届けるというモデルが適切だとはいえなくなってくるだろう。その結果として、そうした処理をノード側へと押し戻すことになる。
Even if network costs were near-zero (which they're most certainly not), you still have bandwidth, latency and availability issues to consider.
それはたとえ、もしネットワークコストがほとんどゼロだったとしても、バンド幅やレイテンシ、可用性といった懸念は残るからだ。
だから分散クラウドというモデルが登場するだろう、と。Hollis氏は次のようにまとめています。
We, as IT professionals, tend to view today's highly-centralized clouds as potentially better ways of doing what we've always done with IT: run applications on behalf of users: more efficient, more elastic, more dynamic, etc. And, to be sure, there's plenty of goodness there.
私たちITプロフェッショナルとして、現在の集中モデルのクラウドは、私たちがふだんITの役割としてのアプリケーションの実行をより効率的で柔軟でダイナミックな手法だと考えている。そして確実にそこにはそうした利点がある。
But when we start to think of the clouds we'll need to build to serve the needs of many billions of intelligent, autonomous nodes -- it will be increasingly apparent that the highly-centralized big lump cloud model isn't ideal: too expensive, too inflexible, too slow, too fragile.
しかしこう考えてみるとどうだろう、何百万ものインテリジェントで自律的なノードを扱うようなシステムを作るとしたら。それは集中的な大規模設備モデルのクラウドが理想的なものではなくなってくることは明らかだろう。それはあまりにも高価で、柔軟性がなく、遅く、破綻しやすいものなのだ。
シスコも「フォグコンピューティング」で分散コンピューティングを提唱
実はこれとほぼ同じ提案を、日本のシスコシステムズが今年の10月に行っています。彼らはそれを「フォグコンピューティング」と呼んでいます。専務執行役員 木下剛氏の発言を、記事「シスコが提案するInternet of Thingsのためのアーキテクチャ「フォグコンピューティング」」から引用します。
「クラウドのデータセンターが、コンピューティングとネットワークを組み合わせて集中的なシステムを提供するものだとすれば、IoTではクラウドでうまくいっていることをうまくエッジに分散させる。ルータやスイッチとコンピューティングを融合することで分散処理をしましょうというもの。例えば気象情報なら、気象センサーの情報をその地域で分散処理すれば、必ずしもクラウドへ集めなくても気象予報ができる。
気象関係のモニタリングや都市部における交通情報をカーナビにフィードバックする、といったときにフォグコンピューティングが使えるのではないか」(木村氏)
そのとき示したのが以下の図です。
つまりシスコも、モノのインターネット時代には分散モデルのクラウドが重要になってくると考えているわけです。
クラウドベンダーは変わっていくのか
モノのインターネット時代にはネット上の分散処理モデルが登場するだろう、という2つの予想を並べてみましたが、説得力のある予想ではないかと思います。
いまはクラウドベンダーが主に規模の経済を武器に大規模なデータセンターをグローバルに展開しています。これがモノのインターネットの時代にはあらたな分散クラウドへと展開が変わるのか、それとも現在のクラウドベンダーとは異なる別のプレイヤーが登場するのでしょうか。それとも、この予想が外れて、モノのインターネットの時代にも集中的な大規模データセンターを中心とした現在のクラウドが覇権をとり続けるのでしょうか。
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