OpenFlow/SDNへの準備ができていない、と指摘されるシスコ
シスコはOpenFlow/SDNで独自の戦略を採用する、つまりOpenFlow以外の独自技術を採用するのではないかと遠回しに推測する記事が、米国のネットワーク系メディアに掲載されています(OpenFlowとSDN:Software-Defined Networkの関係については、以前書いた記事「OpenFlowとネットワーク仮想化とSoftware-Defined Network。そしてネットワークOSの主導権争いが始まる」をご覧ください)。
SearchNetworkingの記事「Cisco OpenFlow: Not likely for Cisco software-defined networks」は、先月ロンドンで行われたシスコのイベント「Cisco Live London」のレポートの中で次のように書いています。
It appears Cisco will go proprietary on its SDN strategy, and that could hamper the move toward open source software-defined networking throughout the market.
シスコは独自のSDN(Software-Defined Network)戦略を採用し、それが市場を通じてオープンソースのSDNへと向かう動きを妨害することもあり得る
記事の中では、データセンタースイッチング部門のプロダクトマネージャ、Ram Velga氏のコメントも紹介されていました。
OpenFlow is only one of the many [SDN] protocols that are available … at this point we don't think it's production read.
OpenFlowは多くの(SDN)プロトコルの中の選択肢の1つでしかない……現時点でそれが製品化できるとは思っていない(最後のreadはreadyのミススペルと推測)
このコメントの最後の部分「we don't think it's production read(y).」は、OpenFlowはまだ製品にするには未成熟だ、という意味での発言ととることができます(ちなみに僕もCisco Live Londonの基調講演のビデオも見ましたが、OpenFlowへの言及はたしかにありませんでした。もっとも、ビデオは途中までしか公開されていませんでしたが)。
Network Computingの記事「HP and Cisco Take Different Paths To SDN」でも、タイトルで示されている通り、シスコは独自路線へ向かう一方、HPはOpenFlow対応機器を一斉に発表し、両者は異なった戦略で進んでいる、と書いています。
シスコは明らかにSDNの準備ができていない
Network Worldの記事「Cisco still dragging feet on OpenFlow」では、前述のSearchNetworkingの記事の直後にシスコに取材し、Ram Velga氏の新たなコメントを掲載しています。かなり長いコメントなのですが、次のように結ばれており、SDNへ対応していくことが強調されたコメントとなっています。
Ultimately, Cisco sees SDN as incremental capability that can be layered onto existing infrastructure to deliver specific functionality.
つまりシスコはSDNを、特定の機能を提供するために、既存インフラの上位レイヤとして追加できる機能だと考えている。
要するにいまの製品との連続性や互換性を重視する、という趣旨なのですが、しかし長いコメントの割にあまり中身はありません。記事ではこのコメントに対して、
Obviously, Cisco is not ready to publicly discuss its SDN strategy and implementation plans, with or without OpenFlow.
明らかなのは、シスコはOpenFlowであろうがなかろうが、対外的にSDNの戦略や実装の計画について話す準備が整っていないことだ。
と、同社がSDN分野でまったく出遅れていると切って捨てています。
シスコはいつか変わるのか
これまでのネットワークは自律分散型の制御が中心だったため、個々のネットワーク機器がインテリジェンスを備えていました。しかしOpenFlowは(あるいはSDNは)「コントロールプレーンとデータプレーンを分離する」アーキテクチャによって、機器のインテリジェンスを取り上げてコントローラにまとめてしまいます。これによってシスコを代表とするネットワーク機器の付加価値と価格が大きく下がる可能性があります。
また、先週の記事「なぜ米ヒューレット・パッカードは、一挙に16機種ものOpenFlow対応ネットワーク機器を発表したのか」に書いたように、OpenFlowは機能拡張、管理、運用の面に大きく踏み込んだオープン化を実現するため、ネットワーク機器ベンダの囲い込み戦略がこれまで以上に通用しにくくなります。
かつてHTML5という新しい標準技術が登場し、Webアプリケーションのプラットフォームがオープンな標準へと大きく変わろうとしたとき、それを無視し、反発しようとしたのは、それまでInternet ExplorerやFlashで市場を支配していたマイクロソフトとアドビでした。しかしその変化が不可避だと分かると、両社とも大きく戦略を転換し、HTML5を強力に推進する立場となりました。
果たして、OpenFlow/SDNにおいて同じことがシスコにも起きるでしょうか。あるいはHTML5以前に登場し消えていったXHTMLのように、OpenFlowも標準の地位を確立できないままに終わるでしょうか。これから1年程度で大きな流れが決まるように思います。