OpenFlowによってネットワーク機器がただの土管になるわけではない
OpenFlowは、これまでネットワーク機器が個々に行っていたプロトコルの処理を、サーバ上のソフトウェアなどによって集中的に制御できる技術です。これはある意味で、これまでスイッチやルータなどの機器それぞれが備えていたインテリジェンスを不要にし、安価なボックスで代替可能にしてしまう“破壊的な技術”であると考えられています。
しかし半年ほど前からこの破壊的な技術についていろんな方から話を聞き、さらに先日の「クラウドネットワーク研究会」などでもあらためて確認したのは、OpenFlowが登場してもネットワーク機器は単なる土管にはならない、新たにファブリック機能が求められる、という方向性です。
ツリー型のトポロジーからメッシュ型へ
OpenFlowやあるいはそのほかのSoftware Defined Network(SDN)の技術が普及すれば、たしかにネットワーク機器がそれぞれプロトコルを自律的に処理する必要は薄れ、中央のコントローラから処理方法を支持されてそれに従うだけの、ダム端末ならぬ“ダムネットワーク機器”で済むようになります。
しかし一方で別の課題が登場しています。データセンター内は仮想サーバによって以前よりもずっと大量のサーバが詰め込まれ、ライブマイグレーションなどが行われていることから、トラフィックが急激に上昇しているのです。
この大量のトラフィックに対する解決策がファブリック型のネットワークです。
従来のネットワークはスパニングツリーによるツリー型の構成を取っていましたが、これだとつねにトラフィックは1つの経路だけを通ります。トラフィックが増えたら、この1経路のパイプをふやすしかないわけです。
一方で、ファブリック型のネットワークはメッシュ型の構造をとるので、トラフィックは複数の経路を通ることができるので、網の目を増やしていけば全体の通信容量はどんどん増えていきます。
昨年4月に公開した記事「ネットワーク機器はサーバ上の仮想機器(アプライアンス)、ネットワークはファブリックベースになる。ガートナーの予想」で、ガートナーがファブリックベースのインフラを提唱していますが、ファブリック型のネットワークはその基礎となるものです。
ファブリックが新たな付加価値になる
OpenFlowはこのファブリックネットワークを構成するのが得意ではありません。OpenFlowの開発者ともいえるMartin Casado氏も「ファブリックはOpenFlowで制御すべきではない」とPublickeyのインタビューで発言しています。
ファブリックの構築は、TRILLやSPBといった新しい技術で行われようとしています。この技術では自律的にネットワーク機器それぞれがインテリジェンスを持ってレイヤ2のレベルでネットワークの経路を計算することになっています。
ただしこれだけでは大量のスイッチを管理するのが大変なので、この上にベンダ独自の付加価値を載せるわけです。シスコもブロケードもジュニパーも、このファブリックネットワークを構築する技術に積極的に取り組んでいます。
仮想サーバにいちばん近いエッジ部分のスイッチは、OpenFlowなどを用いてソフトウェアで制御されるようになり、安価なスイッチやハイパーバイザ上の仮想スイッチなどにどんどん置き換えられていくことは間違いないでしょう。
しかしデータセンターのトラフィックをさばくコアな部分のスイッチ/ルータに関しては、トラフィックに対応するためにファブリック対応という新たなインテリジェンスが求められています。
ネットワーク機器はこの新しい付加価値が重要になっていくため、少なくともそこで破壊的な技術が登場しない限り、単なるダムネットワーク機器に置き換わることはない、というのが現在の見通しです。
ただしこれはOpenFlowをNetwork Hypervisor型のモデルで利用した場合で、現在はこのモデルの商用利用が進んでいるためでもあります。今後Hop-by-Hop型の利用モデルが普及してくるとすれば、また状況は変わってくるかもしれません。