クラウドの開発環境と実行環境をオープンにするOpen PaaSの登場

2012年6月6日

この記事は、日経SYSTEMS 5月号に掲載された連載「新野淳一の技術インパクト」の第2回のオリジナル原稿です。雑誌には編集済みの記事が掲載されていますが、Publickeyでは編集部との合意を得て、雑誌発行から一定期間後にオリジナル原稿をPublickeyに掲載します。

Open PaaS:クラウドの実行環境をオープンにする

 クラウドをアプリケーションの基盤として利用するには、仮想サーバがずらりと並んだIaaSレイヤの上に何らかのミドルウェアが必要だ。クラウドでこのミドルウェアにあたるのがPaaS(Platform as a Service)基盤ソフトウェアである。

 企業の情報システム構築でミドルウェアの存在が欠かせないように、クラウド上でのシステム開発ではPaaS基盤ソフトウェアの存在が重要になってくる。そしてここで起きている新しいトレンドが、今回紹介する「Open PaaS」だ。

クラウド、言語、データベースが自由に選べる

 PaaSとして現在よく知られているのは、セールスフォース・ドットコムのForce.comやマイクロソフトのWindows Azure、グーグルのGoogle App Engineなどである。これらはどれもベンダ独自のクラウド上で展開され、ベンダ独自の言語やフレームワーク、データベースから構成される。

 Open PaaSは、こうした従来のPaaSが備えるベンダ独自のクラウド、ベンダ独自の言語やデータベースという環境ではなく、利用できるクラウド、言語、データベースなどが自由に選択できる点が特徴となる。

 そもそもOpen PaaSという言葉は、昨年4月にVMwareがオープンソースのPaaS基盤ソフトウェアである「Cloud Foundry」を発表したときに使った言葉だ。Open PaaSの「Open」には、これまでのベンダ独自PaaSとは違うのだ、という意味が込められており、実際にCloud Foundryは「オープンソースであること」「特定のIaaSに依存しないこと」「複数の言語やフレームワーク、データベースなどに対応していること」を特徴としている。

 具体的にCloud Foundryでは、開発はオープンソースで、Java、Ruby、PHP、Node.jsなどの言語、MySQLやPostgreSQL、Redisなどさまざまなデータベースやサービスに対応しており、追加もできるようになっている。インフラとしてはvSphereに依存せず、さまざまなクラウド上で稼働する構造を備えており、単体PC上で動作するバージョンも用意されている。

Cloud Foundry、Java EE 7、OpenShiftなど

 Open PaaSの特徴を備えているソフトウェアは、Cloud Foundry以外にも登場し始めている。年内に正式版が登場予定の「Java EE 7」は、クラウド対応が最大の目玉だ。任意のクラウド上にデプロイすることでJavaのPaaSが実現する。スケールアウト機能を備え、マルチテナントにも対応するという。Java EE 7は当然ながらJava言語を想定しているが、JavaVM上には現在さまざまな言語が移植されている。

 レッドハットが開発中のOpenShiftはまだソースコードの公開が始まっておらず限られた情報しかないが、オープンソースとして開発され、複数言語、複数サービス対応などCloud Foundryとほぼ同じ特徴を備えていると説明されている(新野注:記事執筆時点では公開されていなかったが、5月14日にソースコードが公開された)。

 セールスフォース・ドットコムが買収したPaaSを提供するHerokuも、複数言語、複数サービスの対応に積極的に取り組んでいる。Open PaaSの流れの一端を担っているといっていい。

 これ以外にもOpen PaaSの流れを汲む複数言語、複数プラットフォーム対応のソフトウェアやサービスは多数存在する。

クラウドを抽象化し、同一プラットフォームに

 Open PaaSのもう1つの特徴である特定のIaaSに依存しないという点は、利用者にとってどのインフラでも同じように開発プラットフォームとして抽象化してくれるツールとなる。あのクラウドで使える言語は何だったか? データベースは何が使えるか? コンフィグレーションファイルはどうなっているか? 理想的にはクラウドが変わっても気にする必要がなくなり、同じ実行環境として手許のノートPCに構築した環境で開発したアプリケーションをそのまま社内のプライベートクラウドや社外のパブリッククラウドへデプロイでき、負荷が高まれば自動的にスケールアウトされるようになるだろう。

 クラウド事業者にとっても、オープンソースとして中身が公開されており、カスタマイズが可能なOpen PaaSは、クラウドサービスの付加価値を提供するものとして使えるものとなる。マイクロソフトやグーグルのような大きな開発能力がなくともPaaSが提供できるようになり、PaaSレイヤでの競争を促進することになるだろう。すでに米国では複数のPaaSがCloud Foundryの採用を開始。国内でも楽天が社内インフラとして採用を表明し、大手キャリアのクラウドにもPaaS基盤として採用予定だとの情報が入っている。

 Cloud FoundryをはじめとするOpen PaaSはまだ始まったばかりで、完成度の点では既存のPaaSには追いついていないものもある。しかしクラウドでのアプリケーション開発の新しい方向性を指し示す明確なトレンドとなっている。完成度は追いついてくるはずだ。

あわせて読みたい

クラウド PaaS




タグクラウド

クラウド
AWS / Azure / Google Cloud
クラウドネイティブ / サーバレス
クラウドのシェア / クラウドの障害

コンテナ型仮想化

プログラミング言語
JavaScript / Java / .NET
WebAssembly / Web標準
開発ツール / テスト・品質

アジャイル開発 / スクラム / DevOps

データベース / 機械学習・AI
RDB / NoSQL

ネットワーク / セキュリティ
HTTP / QUIC

OS / Windows / Linux / 仮想化
サーバ / ストレージ / ハードウェア

ITエンジニアの給与・年収 / 働き方

殿堂入り / おもしろ / 編集後記

全てのタグを見る

Blogger in Chief

photo of jniino

Junichi Niino(jniino)
IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。2009年にPublickeyを開始しました。
詳しいプロフィール

Publickeyの新着情報をチェックしませんか?
Twitterで : @Publickey
Facebookで : Publickeyのページ
RSSリーダーで : Feed

最新記事10本