AndroidをめぐるOracle対Google裁判を振り返る(後編)~ 残る課題はAPI著作権と9行のコード
AndroidをめぐるOracle対Googleの裁判で、Oracleは当初は7件の特許侵害を主な争点としていました。しかし7件中5件の特許が無効とされ(前編)、特許で闘うには不利な状況となりました。Oracleは法廷で、著作権侵害を主要な争点として取り上げることになります。
(本記事は「AndroidをめぐるOracle対Google裁判を振り返る(前編)~ Oracleが主張した特許侵害は認められず」の続きです)
特許侵害から著作権侵害へ争点が移る
Oracleは、AndroidがJavaテクノロジと互換性があるAPIセットを持っていることから「37のAPIと、一部の実装コード」について著作権が侵害されたと主張しました。
この戦術はそれなりに有効でした。Oracle側は初めて「勝ち点」をあげることに成功します。
2012年5月7日、陪審員は、次の2件に関して著作権の侵害があったと認定しました。
1件目、「37のJava APIパッケージの互換コードについて、Oracleは、Googleが著作物全体の「構造、順序、構成」(structure, sequence, organization)を侵害したと証明したか」。この質問に陪審員は「Yes」との評決を下します。ただし、Googleによる「構造、順序、構成」の利用が「フェアユース」と認められるか、という質問には評決のための意見の一致を見ることがありませんでした。
2件目、「TimSort.javaおよび互換コードのrangeCheckメソッド」において著作権侵害があった事が認められました。このコードはわずか9行で、その名の通りメソッドの引数の範囲をチェックする短いプログラムです。このようなプログラムでは、互換APIであることから、同じ変数名と順番、同じロジックのコードが出てくる可能性も大きいように思えますが、陪審員の判断は「クロ」でした。
ここまでの所、裁判では(1)特許侵害はシロ、(2)9行のコードの著作権侵害に関してはクロ、(3)API著作権の侵害はあったもののフェアユースか否かの結論は出ず、という段階です。
残された以下の問題は判事の結論にゆだねられています。「APIの著作権」という概念が認められるのかどうか。認められたとして、Googleによる互換APIに開発に関して「フェアユース」が認められるかどうか。そして、賠償金の金額の算定がどうなるか、です。
APIの著作権は認められるのか?
特に影響が大きいのは「APIの著作権」という、今回の裁判で表舞台にデビューした概念に対する法的判断がどう下されるかです。もし互換APIの開発を著作権侵害とみなす判断が出たとしたら、ソフトウエア産業の将来にとって大きな制約条件となって残る可能性があります。
今回の裁判がソフトウエア特許をめぐる裁判でもあったことは記憶に留めておくべきでしょう。今回は「特許侵害はなかった」という結論に落ち着いた訳ですが、ソフトウエア特許への懸念がなくなった訳ではありません。
そして、現在では大部分がオープンソース・ソフトウエアとして公開されているJavaテクノロジに関して特許と著作権の訴訟が起きたという今回の出来事は、オープンソースに関わる人にとっては大きな問題です。今回の裁判の結果をIT業界の人々が見守っているのは、こうした様々な懸念、将来を左右しかねない問題を含んでいるからなのです。
(著者の星 暁雄(ほし あきお)氏はフリーランスITジャーナリスト。IT分野で長年にわたり編集・取材・執筆活動に従事。97年から02年まで『日経Javaレビュー』編集長。08年にインターネット・サービス「コモンズ・マーカー」を開発。イノベーティブなソフトウエア全般と、新たな時代のメディアの姿に関心を持つ。 Androidに取り組む開発者の動向は要注目だと考えている)
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