デブサミ10周年に寄せて。IT情報の発信源はベンダからコミュニティに移ろうとしている
昨日と今日、都内で行われているイベント「デベロッパーズサミット 2012」、通称デブサミは、デベロッパーにとってすっかりおなじみのイベントになりました。というのも、今回が10周年なのです。
10年の節目として、今日は最後のセッションでデブサミ10周年(およびマイクロソフトのドットネット10周年)をお祝いするパーティが開かれる予定で、実は僕がその司会を務めさせていただくことになっています(残念ながらすでに参加者は締め切られたようです)。アスキー、アットマーク・アイティ、アイティメディアと、デブサミの主催社である翔泳社さんとはずっと競合会社にいた僕がデブサミでパーティの司会をするなんて、数年前には予想もできなかったことですね。
とはいえ、同じ業界にいるライバルというのは、実は交流があったりお互いにリスペクトする間柄だったりします。僕がアットマーク・アイティにいた頃から「ウチでもデブサミみたいなのできたらいいね」という話をときどきしていました。これだけの規模でしっかりしたイベントを10年続けてこられた関係者のみなさまには頭が下がります。
コミュニティは重要な情報発信源となった
デブサミといえばデベロッパーの交流の場、コミュニティの場でもあります。そしてITを取材するという立場から見ると、10年前と現在ではコミュニティの状況がずいぶん変わりました。
ひとことで言えば、ITの重要な情報発信源が、この10年でベンダからコミュニティへと大きく移動しているのです。
1990年代から2000年前後までは、IT系の情報源はほとんどベンダでした。マイクロソフトがOSの新バージョンを出すたびに大ニュースとなり、インテルから登場する新プロセッサの性能はつねに読者の興味を引き、オラクルのラリー・エリソン氏の発言が注目されて、IBMが大型買収をするたびに業界の将来像が記事になる、そんな時代でした。
新技術はベンダから新製品という形でつねに情報発信され、新しいバズワードもそれに合わせて登場して、ユーザーはいつもベンダに振り回され気味でした。
しかし現在、ITの先端的なもの、重要な技術がコミュニティ、ユーザー会、勉強会などでたくさん語られています。例えば、クラウドのどこがすごいか? どんな技術が登場しているのかを知るのなら、毎週のように開かれているコミュニティの勉強会、例えば「オープンクラウドキャンパス」、Amazonクラウドのユーザー会「JAWS-UG」やWindows Azureユーザー会の「Jaz」やさまざまなクラウドのユーザー会があり、あるいは早稲田大学大学院の丸山先生による通称「丸レク」や、デロイトトーマツコンサルティングの八子さんによる通称「八子クラウド」など、コミュニティの中にはベンダの発表会よりもずっと詳しく正確で先端でリアリティのある話があふれています。
アジャイル開発のムーブメントも、例えば「Agile Japan」「Scrum Gathering Tokyo」「XP祭り」などコミュニティ主導ですし、HTML5も、NoSQLも、Hadoopも、Node.jsも、jQuery Mobileも、OpenFlowも、DevOpsも、EPUB 3も、例を挙げればきりがないほどにコミュニティの方がずっと活発に情報発信、情報交換が行われているのです。このIT勉強会カレンダーに書き込まれた勉強会のすさまじいほどの数を見ると、いかにコミュニティが活発なのかが実感できるのではないでしょうか。
コミュニティの発展に寄与してきたデブサミ
僕の記者としての情報収集方法もずいぶん変わりました。以前はベンダの発表会に行き、詳しく話を聞くことが情報収集の大部分でした。しかし今はそれに加え、コミュニティに足を運び、勉強会のUstreamやYouTubeを見て、メーリングリストを読み、ブログを読むことが非常に重要です。しかも日本だけではなく英語でも同じことが言えます。
ITでいまどんな技術が登場し、何が重要になってきているのかを知るには、コミュニティを抜きにしては考えられなくなってきているのです。まだこうした認識で活動をしている記者は少数派ですが、率直に言ってこれがこの先も認識できないままの人はITを専門とする記者としては失格だとさえ思います。ついでにいえば、ベンダならコミュニティとの良好な関係はこれからますます重要でしょうし、エンジニアを抱える企業ならコミュニティに積極的に参加するような優秀な社員をこそ採用するべきでしょう。
そして、日本のIT系コミュニティをずっと尊重し、発展に寄与してきた最も大きなイベントの1つがデブサミであることは間違いありません。これがビジネス的にも成功し続けるとともに、ますますコミュニティの発展に寄与されることを祈っております。
デブサミ10周年おめでとうございます! IT系のメディアビジネスをしていたひとりとして、ちょっとうらやましいです。
関連記事
1年前のこの記事でも、僕は勉強会が大事ということを言ってました。
2年前、@ITが10周年を迎えたときの記事。