タッチUIの限界に挑戦した、浮川夫妻の会社MetaMoJiのiPadアプリ「7notes」にPC黎明期と同じ興奮を見る
2月3日、MetaMoJiの「7notes」発表会に参加した。この新製品についてはすでにメディアに記事が多数出ているが、筆者の感想を含めてここに記録しておきたい。
(本記事は、ゲストブロガーのITジャーナリスト 星暁雄氏による投稿です)
7notesは、短く言うと「iPad上で手書き文字でノートを取れるアプリ」だ(説明ページ)。指で手書きした文字を、そのままの形で記録し、1文字削除、ブロックごとの入れ替え、文字拡大や太字や色付け──といった操作ができる。
さらに、手書き文字認識機能と組み合わせて、認識してコード化された文字と手書き文字を混ぜた文章を入力、編集できる。キーボードから入力することも可能だ。
タッチUIの限界に挑戦している
筆者の視点で興味深いと感じたのは、次の3点である。
(1) ジャストシステムの創業者が情熱を傾けていること。
MetaMoJiは、元ジャストシステムの浮川和宣氏が代表取締役社長、浮川初子氏が代表取締役専務を務める。発表会での事実上の主役は社長、専務の両名だった。浮川社長は、iPadに触れたときの「衝撃」を、PCが登場した時いらいの興奮だった、と表現する。
浮川社長のジャストシステムでの経営者経験は1979年の創業から2009年の社長辞任まで30年におよぶ。これだけの経歴を持つ人物が、新会社で新製品に取り組んでいる姿には、理屈抜きに強い感銘を受けるものがあった。高精度のタッチUIとワイヤレスネットワークへの接続機能を備えたタブレット型デバイスには、黎明期のPCに匹敵する魅力があったのだ。
(2) タッチUIの限界に挑戦していること。
7notesの製品開発で特に力を入れた部分は、タッチUI上の操作を、なるべくそのまま「手書き文字」として検出する部分だった、という。iPad上で絵を描けるソフトは何種類も出ている。ただ、実際に試してみると分かるのだが、文字のように微妙な曲線をタッチパネル上で描いてみると、なかなか思い通りの線にならない。「手書き文字が、自分が書いた文字だと分かるように表示される」部分に、この製品は非常にこだわった。そのため、CPU能力の限界に近い部分まで使っている、と説明している。
パッケージソフトウエア開発の黎明期によく見聞きした話だが、「今のテクノロジーで動く限界ぎりぎり」の技術を追求しないと、先端の製品は作れない。ハードの進化により、「ぎりぎりの技術」は、すぐに普通の技術になるからだ。
(3)コア技術以外は借り物を使っていること。
文字認識エンジンは、仏Vision Objects社の製品「My Script」を利用している。10カ国語以上に対応する文字認識エンジンだ。つまり、今回の製品は英語版や中国語版を作れる可能性がある。かな漢字変換のエンジンには、オムロンソフトウェアが開発し、オープンソースで配布しているOpenWnnと、奈良先端科学技術大学院大学が公開している辞書(NAIST Japanese Dictionary)を利用した。コア・コンポーネント以外の部分は市販製品やオープンソース・ソフトウエア(OSS)を利用することで、開発期間は6カ月程度とすることができた。
PC黎明期の興奮をタブレット型に感じとった
MetaMoJiは、ジャストシステムから引き継いだXML製品「Xfy」を応用した、オントロジー工学に基づく製品開発などを手がけている。今までは、企業向け製品が中心だったが、今回登場したのは、直球ど真ん中のエンドユーザー向けiPadアプリだ。
7notesが今後どのように受け入れられていくのかは、まだ分からない。ただ「PC黎明期の興奮をタブレット型スマートデバイスに感じとった経営者がいる」という事実は残る。筆者は、この事実を記録に留めておきたいと思う。今後、PC以外のスマートデバイスが、ユーザーとコンピューティングの接点となっていくだろうことを示す材料でもあるからだ。
(著者の星 暁雄(ほし あきお)氏はフリーランスITジャーナリスト。IT分野で長年にわたり編集・取材・執筆活動に従事。97年から02年まで『日経Javaレビュー』編集長。08年にインターネット・サービス「コモンズ・マーカー」を開発。イノベーティブなソフトウエア全般と、新たな時代のメディアの姿に関心を持つ。 Androidに取り組む開発者の動向は要注目だと考えている)