「Rubyの進歩がより速くなることを期待している」 Herokuのチーフアーキテクト就任について、まつもと氏との一問一答
記事「[速報]まつもとゆきひろ氏、米HerokuのRubyチーフアーキテクトに就任」でお伝えしたように、Ruby開発者のまつもとゆきひろ氏が米HerokuでRubyのチーフアーキテクトに就任すると発表されました。
就任の経緯、今後の役割などについて、まつもと氏にメールでインタビューをしました。
Rubyコアをより高機能に、より高性能にするのがミッション
─── HerokuのRubyチーフアーキテクトに就任される経緯などについて教えてください。
まつもと氏 先日、Salesforce.com CEOのMarc Benioffさんとお会いした時、「Rubyの開発を支援したい」との申し出がありました。そこで、Ruby開発に参加している人は、私を別にすると本業の合間に開発したり、雇用が不安定な状況で開発しているのをなんとかしたいと話したところ、支援を快諾していただきました。それに伴い、私もSaleforce.comおよびHerokuに参加することになったということです。
(注:まつもと氏以外にも、Ruby開発コアメンバー数人がHerokuに参加する方向で話が進んでいるとのです)
ですから基本的に、私(たち)の行う作業の本質は変化しません。Rubyコアを開発し、より高機能に、より高性能にするのが私たちのミッションです。ただ、経済的な安定や、Herokuなどの大規模ユーザーからのインプットを受けて、より進歩が速くなることを期待していますし、そうでなければ支援を受けた価値がないと考えています。
ただし、HerokuのChief Architectとして参加したといっても、HerokuやSaleforce.comに「忠誠を誓う」ような立場ではないと思っています。今までもお世話になってきたNaClや楽天との関係は変化しませんし、Rubyアソシエーションの理事長としての立場も変わりません。
ちなみに肩書ですが、いくつかあった候補の中でもっともビジネス臭の薄いものとしてChief Architectを選びました。今後もHerokuのビジネス上の判断に踏み込むような立場にはなるつもりはないです。
─── Herokuでのご自身の役割について、抱負などがあれば教えてください。
まつもと氏 すでに述べたように、基本は今まで通り、しかしより速く進歩を推し進める、というのが原則になると考えています。それはそれとしてHerokuの人たちとは今まで以上に密接に対話することで、クラウド環境におけるRuby利用の阻害要因を(もしあるとすれば)取り除いていきたいです。
また、Herokuのメンバーにはなりますが、あくまでも「Rubyのまつもと」として、Heroku以外の企業、たとえばEngineYardやVMwareなどとも良い関係を継続したいと考えています。
─── Rubyとクラウドの関係について、現時点でのお考えやビジョンがあれば教えてください。
まつもと氏 私やコアRuby開発者の多くは、正直Webにあまり関心のない人が多いのですが、クラウドが今後ますます重要な存在になることは明らかですから、クラウド分野からのインプットをより多く受けてRubyの進歩の方向を検討していきたいと考えています。
─── 勤務形態として、シリコンバレーに行かれるおつもりはあるのでしょうか。松江からリモートで参加することを主に考えておられるのでしょうか。
まつもと氏 仕事の進め方はともかく、私の生活は基本的に変化しません。ですから、松江に住んだままリモートで開発することになるでしょう。
私個人に限定すると、シリコンバレーに引っ越したからといって、今以上にハッピーになれそうな予感がありませんから。
ただし、年何回かはHerokuをはじめとするサンフランシスコ/シリコンバレーの人たちと直接交流する機会があるといいなと考えています。
(注:質問に「シリコンバレー」と書いてしまったのですが、Herokuの本社はサンフランシスコ市街にあり、正確にはシリコンバレーにある企業とはいえないかもしれません)
─── そのほかご自由にコメントをいただければ。
まつもと氏 本件で初めて「Rubyの開発者/開発体制」を認知したという海外の方も多いように聞いています。日本から情報発信するソフトウェア開発者のロールモデルになれれば良いと考えています。
─── ありがとうございました。