複数サーバのメモリを単一の「メモリクラウド」化するRNA Networks。デルが買収した理由は?
米RNA Networksは、米デルが同社を買収したとWebサイト上で発表しました。
RNA Networksは、ネットワークで接続された複数のサーバのメモリをたばねて、単一の巨大な「メモリクラウド」を構築するソフトウェア「MVX」を提供するベンチャー企業です。
このメモリクラウドは仮想サーバあるいは物理サーバの大容量メモリとして利用可能で、それ以外にもI/Oキャッシュや高速ストレージとしても利用可能だと説明されています。
既存のアプリケーションはそのまま変更する必要なく、サーバ間の接続に使うネットワークの種類にも制約はないそうです(もちろん性能はネットワークの性能に左右されます)。
いままでCPUからアクセスできるメモリは、通常は同じ筐体内のメモリ(もしくは仮想メモリ)に限られていましたが、メモリクラウドはその名の通り、その範囲をクラウド全体に広げる技術です。
垂直統合をせずに、いかにシステムの差別化を図るか
サーバベンダとしてのデルはこれまでずっと、サーバのハードウェアに対して標準技術の採用を守ってきました。ライバルのIBMがMAX5で大容量のメモリを搭載可能にし、ヒューレット・パッカードが独自CPUコントローラで複数のプロセッサ間のトラフィックを最適化するなどマザーボードのレベルで独自機能を追加してくる中、デルがサーバに採用した独自技術「FlexMem Bridge」は、空きCPUソケットに差し込むモジュールとして実装され、インテル標準のマザーボードには手を入れずにメモリ拡張を実現しています。
今回のRNA Networksの買収も、ハードウェアには一切手を加える必要がなく、ソフトウェアによってクラウド上に新しい形のサーバインフラを構築する技術を手に入れた面で、これまでのデルの戦略との整合性を感じさせます。
一方でハードウェアベンダであるデルが、ソフトウェア企業の買収によってメモリクラウドのような、拡張したサーバインフラの提供に乗り出してきたことは興味深い点です。
いまやコモディティサーバとなったIAサーバの差別化を図るためには、ソフトウェアとの緊密な連携による拡張の重要性が高まっています。オラクルややシスコなど多くのハードウェアベンダが、サーバ、ハイパーバイザやミドルウェアなどを緊密に連携させた垂直統合へと向かっています。
デルもRNA Networksの買収でハードウェアとソフトウェアの垂直統合に乗り出すのでしょうか? おそらくそうはならないでしょう。
RNA NetworksによるメモリクラウドはVMwareなどのハイパーバイザとも組み合わせることができ、既存のゲストOSやアプリケーションの変更は不要とも説明されています。技術的に見て、デルは引き続きVMwareやマイクロソフトやそのほか多くのOSベンダ、ハイパーバイザベンダ、ミドルウェアベンダなどに対する中立性を慎重に維持することが可能なようです。
つまりRNA Networksの買収はデルにとって、標準のハードウェアを採用し、垂直統合の道を進まないというこれまでの戦略を継続しつつ、プラットフォームを差別化するための技術を手に入れたことを意味することになります。
先週の記事「サーバはデータセンターの中を液体のように流れるような存在になる、という仮説」で書いたように、サーバはどんどんクラウドの中で流動的なものになっていくと予想されます。おそらく競合ベンダであるヒューレット・パッカードやIBMやそのほかのベンダも、今後同様の機能を実現するソリューションを展開してくるのではないでしょうか。