PaaSをオープンソースのCloud Foundryで仕掛けるVMwareの狙いはどこにある?
VMwareが4月13日に発表した「Cloud Foundry」は、JavaやRubyといった開発言語、MySQLやMogoDBといったデータベースを採用し、クラウド上でPaaS(Platform as a Service)を実現するためのソフトウェアです。
これまでグーグルのGoogle App Engine、セールスフォース・ドットコムのForce.com、マイクロソフトのWindows Azureなどが提供してきたPaaSは、独自の開発言語や独自のデータベースを利用したものでした。これらのPaaSではアプリケーションやデータを他のクラウドへ移動することが難しいため、ロックインされてしまうという課題を抱えていました。
Cloud Foundryはこれを解決する「Open PaaS」というVMwareの戦略に沿ったものです。
Cloud Foundry自体もオープンソースとして提供され、さらにVMware製品に依存せず、Amazonクラウドやそれ以外のクラウドでも対応するなど、徹底したオープン戦略をとっています。
ブログScobleizerのブロガーとして知られ、クラウドベンダーRackspaceのスタッフでもあるRobert Scoble氏は、エントリ「VMware disrupts with open source PaaS play」でも、Cloud Foundryの発表を「Amazon、グーグル、マイクロソフト、セールスフォース・ドットコム、RightScaleなど多くの企業にとって重要な意味を持つ出来事だ」と書いています。
なぜVMwareはこのような戦略をとったのでしょうか? そしてVMwareはこの戦略のうえでどのようなビジネスをしようとしているのでしょうか?
PaaS市場で失うものはないVMwareだからこそオープン化に
Robert Scoble氏は先のエントリで、ホスティングやアプリケーションプラットフォームはすぐにコモディティになってしまうだろう、と予測しています。
The hosting and app platforms are quickly turning into commodities so service is one of the areas that will really matter.
ホスティングとアプリケーションプラットフォームはすぐにでもコモディティ化していく。だからサービスこそ重要な領域の1つになるだろう。
つまり単純なIaaSもすぐにコモディティ化するという認識です。VMwareがPaaS市場へ参入するのも、仮想化やIaaSだけではいずれ競争力を失っていくと考えたからでしょう。
InfoWorldの記事「VMware's Cloud Foundry looks to disrupt the PaaS market」では、Cloud FoundryはPaaSであるWindows AzureやGoogle App Engineとの競合になることが確実だと書いています。
It's obvious that VMware is going after Microsoft Azure head-on. But this latest move from VMware also brings it into competition with Google,
VMwareは明確にWindows Azureと正面衝突しようとしているだけでなく、Googleとの競争にも入ろうとしている。
すでにPaaSのサービスを開始し、収益化を計ろうとしているマイクロソフトやグーグルとは違い、VMwareはPaaSのソフトウェアをオープンソースとして無償で提供してもいまのところ失うものはありません。だからこそPaaSの基盤ソフトウェアであるCloud Foundryを競合のビジネスにぶつけることができたのです。
これは昔、ネットスケープがWebブラウザでビジネスを立ち上げようとしたときに、マイクロソフトがInternet Explorerを無償でOSにバンドルすることで対抗したことに似ているように見えます。このとき、マイクロソフトにとってはWebブラウザを無償化しても失うものはほとんどなく、競合であるネットスケープの市場を効果的に奪うことに成功しました。
VMwareの戦略が成功すれば、多くのPaaSがCloud Foundryをベースにして提供されるようになります。しかしオープンソースで提供するCloud Foundryを基にして、VMwareはどのようなビジネス展開を考えているのでしょうか?
もちろん同社は企業が自社のプライベートクラウドで利用するためや、クラウドプロバイダがPaaSを提供するための商用版の「Cloud Foundry for Enterprise」の提供を予定しています。
また、Cloud Foundryの環境を1つの仮想マシン上で再現する手軽な開発環境としての「Cloud Foundry Micro Cloud」の提供も予定しています。
すでに買収済みのGemStoneや、Redis、RabbitMQなども、Cloud Foundryに対応したスケーラブルなデータベースやメッセージキューの商用ソフトウェアとして提供するのは確実でしょう。
オープンソースに対してこのような付加価値のある商用製品を提供することが、同社のCloud Foundryを中心にしたPaaS戦略の中心となると予想されますが、それ以外にも動きがあります。
Cloud Foundryへの付加価値サービスビジネス
VMwareは最近2つの買収を発表しています。3月に買収したWaveMaker、4月に買収したMozyです。
WaveMakerは、Javaの統合開発環境を実現するソフトウェアで、Webブラウザから利用することができます。ブラウザ上でJavaアプリケーションを開発し、そのままクラウドへデプロイすることが可能。Mozyはオンラインバックアップをサービスとして提供している企業で、EMCから買収したもの。
この2つの買収はいずれもオンラインサービスを提供する企業であり、ここにVMwareの次の目論見が表れているように思います。つまり、Cloud Foundryに対して、統合開発ツールやバックアップサービスなどの付加価値を提供するオンラインサービスのビジネスです。Cloud Foundryが広まるほどに、その開発ツールやバックアップやそれ以外の付加価値サービスへのニーズが高まることでしょう。そうしたサービスのビジネスもVMwareは狙っているのではないでしょうか。
VMwareは、PaaSをオープンソース化することによって既存のPaaSの弱点を攻めて競争力を奪いつつ、Cloud Foundryの普及を促進することで、その周辺に付加価値のあるサービスやソフトウェアを提供していく。マイクロソフトやグーグルといった巨人に対抗するためにVMwareがとった戦略は、このように読み取れます。
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