「IT業界は右肩上がりに成長しなくなった」のか?
先週の木曜日、2月24日に住商情報システム(SCS)とCSKが経営統合を発表したとき、SCSの中井戸信英会長兼社長は次のように発言したと、ITproの記事「「成長が見込めないIT業界で生き残りを賭ける」、SCSがCSKを吸収合併」が伝えています。
経営統合は、IT業界が右肩上がりに成長しなくなった今、どうやって生き残っていくかを考えた結果だ
IT業界が右肩上がりに成長しなくなった、という認識を吐露されていますが、これはSCS/CSKが主力にしている「エンタープライズITにおける受託業務の国内市場」が成長しなくなったと受け止めるべきでしょう。
ブログGoTheDistanceのエントリ「住商情報システム(SCS)とCSKが合併した件について」でもこの発言に触れ、経営統合の理由を次のように分析しています。
「右肩上がりに成長しない=既存の市場のパイはもう大きくならない」という解釈を僕はしました。そうなると、残存者利益を狙いに行くのはエンタープライズにとって合理的な判断と言えるのではないでしょうか。他社がくたばった後、耐え抜いて残った市場のシェア拡大を狙っていくというシンプルな話です。
受託市場は縮小していて、このままでは明日はないことは多くの場面で語られ、IT系企業の業績にも表れてきていますが、CSCとCSKの経営統合と中井戸氏の発言はそれをあらためて鮮明なものにしています。
国内受託市場とともに縮小していくのか
この縮小する国内受託市場の中で生き残るために、経営統合による規模の拡大を選んだ両社を、しかし市場は評価せず、発表翌日のSCSの株価は大きく落ち込みました。
ロイターの記事「ホットストック:CSK<9737.T>ストップ安売り気配、住商情報<9719.T>も大幅安」では、以下のように伝えています。
市場では合併効果への疑問も出ている。ドイツ証券は25日付リポートで「両社は企業の情報システムを何でも構築する総合システムインテグレータであり、実際には相互補完はあまりないだろう」と指摘している。
単に規模を拡大させるだけではどのみち縮小する国内受託市場とともに落ち込んでいくことは目に見えているということでしょう。つまり、国内受託市場のプレイヤーは態転換のような大胆な変化を求められているのです。しかし大手ほどそうした変化は難しいもの。
約9カ月前、2010年の5月にITproに掲載された記事、「ソフト会社に明日はない? - 田中克己の針路IT:ITpro」では、経営者に向けた次のようなアドバイスが記されています。
成長機会を得るためにグローバルに打って出るのも必要だろうが、まずは足元を固めることだ。例えば「受託ソフト開発からITサービスへ、ビジネスモデルの転換を5年以内に達成する」と設定し、1年目、2年目、3年目に取り組むことを決め、着実に方向転換を進める。どんな技術に力を入れ、どの事業に注力し、どんな方向に進むのかを決断するのは、経営者の役割である。今、ソフト会社の経営者は決断力と実行力が問われている。
受託業務が縮小しているとしても、クラウド、サービス、コンシューマライゼーション、ソーシャル、モバイルなどIT業界には成長が見込まれる分野が数多くあります。そうした変化に対応せよ、という話です。
また同じ頃、ブログCasual Thoughtsに書かれたエントリ「大手SIer(インド)の収益向上がとどまることを知らない件」では、インドのSIerが好調なことに触れ、その要因を次のように分析しています。
- 日本の大手SIerは売上の殆どは日本国内からあげるが、インドの大手SIerは売上の90%近くは海外からあげる
- 日本の大手SIerは外注を活用することが多いが、インドの大手SIerは10万人以上の従業員をかかえ外注率は日本ほど高くはない
- 日本では下請けにだされた仕事はさらに孫請け、曾孫請けと複数階層におりていくが、インドでは下請けは使うものの階層は2階層が一般的である
- 日本の30~34歳のエンジニアの平均年収が541万円なのに対し、インドのエンジニアの平均年収は194万円と人件費に大きな差がある
グローバルに見れば受託やSIerでもまだ成長している企業があり、その構造は日本国内のSIerとどのように異なっているのかが分かります。
受託依存から脱却し、外注依存を減らし、グローバルを目指す、サービスモデルへ転換する、クラウド、モバイル、ソーシャルなど成長が見込める分野へ投資する。従来の企業はこうした変化を求められていると同時に、そこに属する多くのエンジニアにもこれに対応するような変化が訪れるはずです。
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