パネルディスカッション「Flashエンジニアが今後10年食べていくには?」
リッチコンテンツやゲームなどのプラットフォームに使われているFlashにかかわるエンジニアが集まり「今後10年食べて行くには?」をテーマにしたパネルディスカッションが12月11日に都内で行われました。
Flashはご存じの通り、Web標準のHTML5が急速に進化していることでHTML5に置き換えられていくのではないかと考えられていたり、先月にはアドビがモバイル対応のFlashプレイヤーの開発中止を発表したりと、大きな曲がり角を迎えようとしています。
そうした中でFlashエンジニアはいま何を考え、これからどう行動しようとしているのか。ディスカッションの中からいくつか代表的な発言をピックアップしました。
5人のFlashエンジニアによるディスカッション
パネルディスカッションに参加したのは、Flashエンジニアとしてのキャリアを持つ5人の方々。
写真右から順に自己紹介が行われました。
吉川佳一氏 「BOWというクリエイティブチームで活動していて、2002年頃からFlashメインです」
尾野政樹氏 「もともとゲーム会社にいたのですが、モバイルやら何やらの潮流に嫌気がさしてフリーランスになりました」
新藤愛大氏 「beinteractiveという屋号でフリーランスをやっています」
松竹誠氏 「広告などのFlash案件のオーサリングをメインでやっています」
宗原吉則氏 「こくばん.inの代表のかたわら、フリーランスとして活動中です」
FlashエンジニアはHTML5をどう思っているか?
Flashとよく比較される技術がHTML5。HTML5についてどう思うか? という問いでは、ほとんどのパネリストが「Flashに比べるとまだ成熟していない」というスタンスで、「実案件ではやってない」「興味がない」など積極的に取り組んでいないという発言が続く中、ポジティブな姿勢を唯一見せたのが吉川氏。
吉川氏 「僕はHTMLが大好きで、どこがいいかというと、個別にこれがいいよ、というのはたくさんあると思うけれど、感覚的にざっくり言うと、あるデザイナーさんが『JpegとPNGとどっちが硬いと思う?』といった話をしていて、その『PNGが硬い』という感じが分かるなあと。それに似て、HTMLのやわらかさが好きなんですよ。FlashでもHTMLでもどっちでもできるとき、柔らかさを求めてHTMLを選ぶかなあ」
尾野氏 「Flashだと、例えばスクロールバーについていえば、どのOSやプラットフォームで見ても作った人の意図通りのスクロールバーが出る。だけどHTMLだと、そのプラットフォームごとのスクロールバーが出るとか、そういうところですかね」
吉川氏 「そう。あと右クリックして画像が保存できるとか」
新藤氏 「2~3年はまだ、Flashのほうが作りたいものが手軽に作れると思ってます。HTML5は、プラットフォームというかブラウザやJavaScriptの互換性などまだ問題が山積みで、Flashのバージョン4とか5あたりの感じがある」
宗原氏 「Flashやってる人は『自分が意図するものを見せたい』という気持ちがあって、触る人みんなが同じ体験をしてほしいと思っていると思っていて、さっきのスクロールバーの件など、Flashをやっている人がHTMLへ行くと、思っているものがそのまま伝わりにくいところがある。それがHTMLへの行きにくさではないかと思う」
尾野氏 「サービスを作るのか、作品を作るのか、というところの違いがありますよね」
モバイル向けFlash Player開発中止の報道について
米アドビは11月にモバイル版Flash Playerの開発中止を発表しました。これについて5人のパネリストの受け止めは、それほど影響がないというもの。尾野氏だけは、顧客から説明を求められたと。ただし今回のアドビの発表の仕方は唐突で、説明も不足していてよくなかった、という点では意見が一致していました。
尾野氏 「僕はあの発表があったとき、仕事を受けているクライアントから『Flashは大丈夫なの?』って聞かれました」
松竹氏 「スマートフォンだと、Flashが見られなくても意外に(Webサイトから)情報はとれるなと思っていて、だから(Flashがモバイル対応をしなくなることは)いい判断だなと思っている。そもそもFlashとAIRとどっちに力を入れているんだろうと思っていたし」
宗原氏 「画面にFlashがあると、そこでスクロールしようとしても操作が奪われてしまって、インターフェイス的にいやな気がしてた」
尾野氏 「iPhoneにはFlashが載らないとなったときに、アドビはアップルに真っ向勝負していないで、肩の力を抜いて対応しておけばこんなにニュースにならなかったというか。なんであんなにがんばったのに、こんなに簡単にあきらめちゃうんだろう、というのはある。ただ、今回の判断は間違ってなかったと思う」
Flashエンジニアが10年後も食べて行くには?
最後のテーマになったのが、主題でもある「Flashエンジニアが10年後も食べて行くには」。パネリストそれぞれが自分に引き寄せて発言しています。
宗原氏 「そもそもFlashをやっている人の強味というのは、UIに気を使うところだと思う。広告案件とか特に、サイトに来た人がすぐに出て行くのをクライアントが嫌うので。そういうノウハウは技術が変わっても廃れるものではない。どういうボタンの動きをすればどれだけユーザーが滞在してくれるとか、そういう感覚的なものをこの先どれだけ自分の中で高められるかが大事だと思っていて、それがもしFlashを離れてHTMLをするにしても大事なことだと思う。
ActionScriptを10年後も触っているかというと、それはわからないですね。でもそこをどれだけ売りにできるのかがFlashエンジニアが10年後も食べていくときのカギになるのではと」
松竹氏 「宗原さんとだいたい同じなのですが、技術に関してはStage3Dのようなネイティブ系の技術はOpenGLやShaderの技術を使って高速化していかなくてはいけないので、そっち系はリッチな方向へ突き進むFlasherがいるとすれば必修科目なのかなと思う。
その中で、いままで培った気持ちのいい動きをどう実現していくか、つねにアンテナを張っていかなくてはいけないという苦しい状況かもしれませんが、それほど悲観的にならなくてもいいかなと思っています。僕はOpenGLとかShaderが楽しいので、そっち方向に行くと思います」
新藤氏 「僕はVBとかCとかDirectXとかいろいろ触った上で、いまFlashをやっているのは手に馴染んでいるというか、ライブラリや高度なAPIが充実していたり、作りたいものがすぐ作れるところにあります。
10年後も自分の中にはFlashはありつづけると思っていて、アドビさんもFlashをHTML5にコンバートする技術を開発しているようだし、そういう形でFlashで培ったものは活かせると思う」
吉川氏 「Flashでいいところは、これを身につけておけば何でもできるようなところがあって。ここ数年はHTML5対Flashで、何ができる、できない、という議論があったけれど、数年後も自分が作りたいものがいちばん手軽に作れるのはFlashだと思うので、そういうFlashが向いているケースにはFlashを使い続けるだろうし、でもそうじゃないケースではそこで使いたい技術を使えばいいだろうなあと」
尾野氏 「守りに入ったコメントとしては、僕らの価値はアイデアとデザインであって、言語が変わってもやっていけるぜと。でもこれだとつまらないコメントなので、外すかもしれないけど先のことを予想してみると、全部のサービスがゲームになると思います。
HTMLの軽いサイトでもバナーが動いたり、ボタンを押すと反応したり、リッチになってきてる。そういうのってユーザーに楽しさを提供するためで、楽しさは重要になってきている。ゲーミフィケーションが注目されたり。そうなったとき、硬い言語の方が大規模開発には向いているから硬さも必要だけれど、開発の速さとか、リッチな表現とかそういう方向が重要になってきたときには、アニメーションはFlashが不動だろうし、JavaScriptだと大人数での開発が怪しいけれど、Unityまでいっちゃうと行き過ぎでUnityのコンテンツを作るためだけに使われると思うので、そう考えるとちょうどいい立ち位置にいるのがFlashというかActionScriptになると思う。
ActionScriptは10年後大丈夫かというと、心の中では大丈夫だと思っているし、そうじゃなくてもそれに近いものが出てきて、いまと同じようなやり方で、すべてものに楽しさを入れていくような開発になるのではないかと思います」
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