「Facebook Phoneまもなく発表」のリーク情報を見て、デバイス×ワイヤレス×クラウド連携ビジネスモデルを考える
「Facebook Phone」に関するリーク情報(正式発表されていない情報)が出回っている。ソーシャルメディア分野で最も注目されている企業であるFacebook専用の携帯電話が登場するかもしれない、という噂は以前にもあった。だが今回のリークはかなり具体的だ。この記事では、リーク情報の内容を検討し、それを材料にFacebookが目指すビジネスモデルについて考えてみたい。
「HTCが2月のMWCで2機種発表」、リークとしては内容が具体的
英国の経済紙City A.M.は、1月26日付けで、「台湾HTCが2月にバルセロナで開催のMWC(Mobile World Congress)において、Facebookブランドの2種類の携帯電話を発表する」と報じた(City A.M.の記事)。AndroidをカスタマイズしたOSを搭載し、ディスプレイ上にはFacebookのメッセージやニュースフィードを主に表示するようデザインされているという。経済紙が、企業名を主語としてこのような報道をする場合、当事者がメディアに対して非公式な形で情報を伝えたことを意味する。「噂」から一段進んだ状態になっていると考えられる。
同じ1月26日に、このFacebook Phoneの機能についてのリーク情報が、米国のモバイル/電子機器系ニュースサイトBGR(Boy Genius Report)に掲載された(BGRの記事)。Facebook Phoneのフォーカスグループ(新機種の機能をテストするための被験者)にいた匿名の人物からの情報として、以下の内容が紹介されている。
(1) 常時GPSが有効になっている。位置情報に基づく自動「チェックイン」機能、事前登録した関心事項と位置情報に応じたクーポンがプッシュ配信される機能、友人と位置情報を共有する機能がある
(2) ストレージはなしか、極小。カメラで撮影した内容などは自動的にクラウド上に転送する
(3) ニュースティッカー・スタイルのメッセージ通知
いずれの情報も、当事者であるFacebookが正式発表した情報ではない。ただ、MWC開催直前のタイミングを考えるといかにもありそうな情報ではある。ただし、発表がなかったとしても筆者は驚かない。直前になって諸事情で発表が取りやめとなることもあるし、リーク情報がすべて真実とは限らないからだ。
Facebook Phoneの製造元として名前が挙がっている台湾HTCはスマートフォンの製造に特化したメーカーで、最初のAndroidスマートフォン「G1」や、Googleブランドの最初のスマートフォン「Nexus One」の製造元だ。Facebookが組むにはふさわしい相手に思える。ニュースの掲載元が英国のメディアである点は興味深い。HTCは、2010年秋の戦略モデル「Desire HD」と「Desire Z」の発表会を9月15日に英ロンドンで開催している(Engadgetの記事)。
狙いはデバイス×ワイヤレス×クラウドの垂直連携型ビジネスモデル?
リーク情報の真偽のほどはMWCが開催されるまで分からない。ただ、伝えられている内容は、思考のための良い材料といえる。
FacebookのCTO(最高技術責任者)であるBret Taylor氏は、2011年のFacebookの優先課題はモバイルであることを説明、「モバイル機器は本質的にソーシャルだ」との言葉を放っている(TechCrunchの記事)。氏は「Facebookユーザー約6億人のうち、1/3の2億人がモバイル機器を使っており、Facebookのモバイル・ユーザーは、Webユーザーの2倍アクティブ」とのデータも紹介している。2億人のFacebookモバイル・ユーザーの1%が「Facebook Phone」を購入したとすれば、200万台の売上げとなる。もし5%なら1000万台。十分にインパクトがある数字だ。
だが、もし「Facebook Phone」が登場することになったなら、それは単に携帯電話端末を売ることだけが目的であるはずがない。
FacebookのiPhone版Facebook公式アプリは、すでに高い評価を得ている。ユーザーの行動や生活を変える可能性を感じさせる内容だ。iPhone版に近い内容のAndroid版も公開済みである。そこへ、iPhoneユーザーや、既存のAndroidスマートフォン・ユーザー以外の層に「Facebook×常時接続」の環境を提供することは、Facebookのモバイルユーザーの数を増やし、アクティブ率を高めることにつながるだろう。
リーク情報には興味深いアイデアが含まれている。「位置情報を常時取得し続けるモバイルデバイス」は特に魅力的なアイデアだ。これは、現在のAndroidスマートフォンでも実現可能だ。文字通りの「GPS常時オン」は電力消費が増えることから実現が難しいかもしれないが、ソフトウエアが定期的に起動してGPSや基地局測位を使って位置情報を取得し続けるというAndroidアプリはすでに登場している。
位置情報を活用したソーシャルサービスではFoursquareがよく知られている。伝えられるように、「Facebook Phone」が自動的に位置情報を「チェックイン」してくれるなら、現在のFoursquareよりもはるかに強力なサービスとなる可能性があるだろう。
そしてこの位置情報を活用した「利用者の関心分野と現在位置情報に基づき、携帯電話にプッシュされるクーポン」は、強力なビジネスモデルを構築できる可能性があるアイデアだ。ユーザーの位置情報を、明示的な「チェックイン」操作抜きに自動的に収集し続け、適切な広告情報をプッシュする──これはビジネスモデルの設計者にとっては夢のような機能だ。ショッピングセンターに足を踏み入れるなり、興味がある分野の店の「お得なクーポン券」が携帯電話の受信箱に入っている、といった応用を想像してみれば、その威力はすぐに分かる。
一方、プライバシー問題を気にする人にとっては「悪夢のような機能」と見えるかもしれない。「GPS常時オン」機能や「クーポンのプッシュ」機能が提供されるとしたら、それらが明示的に設定しなければ使えない「オプトイン」になっているか、それともデフォルトでは有効で、設定しなければオフにできない「オプトアウト」になっているか、ここは気になるところだ。
Androidをカスタマイズすれば、このような携帯電話を比較的短い期間で開発できよう。「ストレージがない」という情報が本当だとすれば、デバイス製造の低コスト化にも寄与するだろう。iPhoneより低価格で、より幅広い層が購入できる端末である可能性もあるだろう。また、Web版のFacebookでも「Facebook Phone」でも同様に使えるIP電話サービスが登場する可能性もあるだろう。現状のGoogle Voiceが実現しているような、一つの電話番号でPCのIP電話にもスマートフォンにもつながる環境をFacebookの世界で作り上げることは、魅力的なアイデアだ。
スマートデバイス、ワイヤレスネットワーク、クラウドサービスを組み合わせ、垂直連携型のビジネスモデルを構築すること──これが現在のIT大手企業が追い求める「勝利の方程式」だ。先行する成功例であるAppleのiPhone、AmazonのKindleのようなビジネスモデルの構築を求めて、今世界中のプレイヤー達が取り組みを続けている。GoogleがAndroidに注力するのも、MicrosoftがWindows Phone 7を開発したのも、大きくは「デバイス、ワイヤレス、クラウドを連携させる」ためだ。ごく最近の例では、1月27日にソニー・コンピュータエンタテインメントが発表した「PSP」後継機「NGP(Next Generation Portable)」は3Gネットワークへの接続機能を搭載している。この機種の利用形態として、ワイヤレスネットワークによる常時接続とクラウドサービスとの連携が視野に入っていることは間違いない。
リーク情報の真偽は保留するとしても、「Facebookならどのような携帯電話を作るだろうか」と考えてみることは、スマートデバイス、ワイヤレスネットワーク、クラウドサービスの垂直連携型ビジネスモデルを考える上で、良いトレーニングとなるだろう。
(著者の星 暁雄(ほし あきお)氏はフリーランスITジャーナリスト。IT分野で長年にわたり編集・取材・執筆活動に従事。97年から02年まで『日経Javaレビュー』編集長。08年にインターネット・サービス「コモンズ・マーカー」を開発。イノベーティブなソフトウエア全般と、新たな時代のメディアの姿に関心を持つ。Androidに取り組む開発者の動向は要注目だと考えている)
あわせて読みたい
セールスフォース、誰でも無料で使える企業内ツイッター「Chatter.com」公開。日本語対応で利用者数上限なし
≪前の記事
ウォーターフォールだって成功する。ただしそれには前提条件があるはず