電子書籍フォーマットの本命、「EPUB」をいまのうちに理解しておく
Publickeyでは、現在策定中の電子書籍フォーマット「EPUB 3」の動向について積極的に伝えていますが、ここでちょっと立ち止まって、EPUB 3とは何か? という基本的な情報について簡単にまとめておこうと思います。
EPUBの仕様はオープンかつフリー
EPUBとは、「電子出版」を意味する「Electronic Publication」からとった名称といわれていて、International Digital Publishing Forum(IDPF、国際電子出版フォーラム)が策定をすすめている電子書籍のファイルフォーマットです。ちなみにEPUBは「イーパブ」と読みます(EPUB 3はイーパブスリー)。また、表記は「ePub」と表記されることもありますが、最近は「EPUB」とすべて大文字で表記されることが多いようです(仕様書などでは「EPUB」と表記されています)。
イースト株式会社の高瀬拓史氏による資料「EPUBの現状とEPUB3.0への期待」から内容を少しお借りしつつ、EPUBがどういうものかを紹介していきましょう。
EPUBの標準仕様としての特徴はオープンかつフリーであることです。そしてその具体的な実体は、XML、XHTML/HTML/CSSファイルなどをまとめてZIPで圧縮し、.epubという拡張子を付けたもの。
EPUBの仕様は基本的にWeb標準であるHTMLやCSSをベースにしています。そして現在策定中のEPUB 3はHTML5やCSS3をベースにしているため、基本的にHTML5やCSSが備えている機能はEPUBでそのまま利用可能です。文中にCanvasで描いたグラフィックを入れたり、Videoタグで動画を入れたり、CSS3のアニメーションを利用することも可能です。EPUBリーダーによってはJavaScriptも動作するでしょう(JavaScriptの動作は仕様上必須とはなっていません)。
EPUBで電子書籍を作成するということは、Webサイトを作成するのと同じようにHタグで見出しを書き、Pタグで本文を書き、CSSでレイアウトをして、それをZIPで圧縮する、ということになります。
ここから分かるように、EPUBはWebと非常に親和性が高く、これまでのWebのノウハウを使って電子書籍を作成することが可能です。このWebとの親和性が、EPUBを電子書籍フォーマットの本命と位置づけさせる最大の要素です。
ただしWebとEPUBの違いは、EPUBは電子書籍リーダーにダウンロードしてオフラインで参照することを前提にしているため、画像や動画などすべてのファイルがまとめて圧縮されていること。そして、表紙や目次や索引、章立て、ページ番号といった、(Webには存在しない)書籍に特有の内容や機能を記述するためのマークアップ方法やファイル構成が決められている、ということです。
EPUB 3の仕様はIDPFのサイト内の「EPUB 3 | International Digital Publishing Forum」のページから参照できます。
参考記事
EPUB3を、世界各国の代表から構成されるISO/IEC(国際標準化機構/国際電気標準会議)による公的標準(デジュールスタンダード)にする動きが始まっています。
EPUB 3対応電子書籍リーダーのリファレンス実装(=見本となる実装)をオープンソースで開発するプロジェクト「Readium」が公開されました。
JEPA(日本電子出版協会)とイーストは、EPUB 3に対応した電子書籍の作成方法を解説した「EPUB日本語文書作成チュートリアル」と、EPUB 3に対応した電子書籍リーダーを実装するためのガイドラインのための「EPUB日本語文書対応Reading System実装ガイドライン」の公開を開始しました。
EPUBは「リフロー」が大きな特徴
EPUBのレイアウト上の最大の特徴が「リフロー」(再流し込み)です。リフローのもっとも身近な例がWebページです。Webページは、Webブラウザのウィンドウの大きさに合わせて一行の長さや縦方向に表示される行数が変化します。
EPUBのレイアウトも同様に、iPadを縦にして表示したときと横にして表示したときで1行の文字数が変化するのに合わせてレイアウトが変化します。もっと小さいiPhoneの画面で見れば、今度は画像が1つと数行くらいしか表示されないかもしれません。EUPBはWebページと同じように、画面の大きさに合わせてレイアウトが変化するのです。
EPUBではどのデバイスでみるかは利用者の環境に依存しますから、雑誌でいう見開きで完結したレイアウト、といったことをすべてのデバイスで表現することは事実上できません。
小説や文学作品のような文字中心の書籍では、画面の行数や文字数が変化してもそれほど問題にはならないと予想されますが、ページごとに写真と見出しと文字のバランスを考えてレイアウトされる雑誌や実用書などでは、リフローが前提となっているEPUBでどのようにレイアウトするかは課題となっています。リフローしても美しく見えるようなレイアウトと、画面の幅によってスタイルシートを切り替える機能を使いこなすテクニックなどが今後開発されていくことでしょう。あるいは出版物ごとに推奨デバイスが示されるなどの動きもでてくると予想されます。
EPUB 3からは縦書き、ルビなどに対応
日本でEPUB 3が注目される背景には、EPUB 3ではいままでのEPUBではできなかった縦書き、ルビ、圏点(傍点)といった、日本語の書籍を作成するうえでニーズの高かった表現が可能になり、文芸書などの電子書籍を実現できるようになったことが1つ。もう1つはiPadやKindle、ソニーのReader、シャープのGalapagosといった電子書籍リーダー搭載のデバイスが昨年から一斉に登場しはじめたこと、この2つのタイミングが重なった点にあると思います。
EPUB 3の仕様は5月に完成する見通しとなっており、おそらく夏頃にはiPadをはじめとしてEPUB 3に対応する電子書籍リーダー、つまり日本語の縦書きやルビなどを表示可能な電子書籍リーダーが次々に登場してくることでしょう。
と同時に、そうした電子書籍リーダーに電子書籍を配信するための電子書籍マーケットもさらに活気を増すはずです。電子書籍の動向に詳しいイースト代表取締役の下川和男氏は、この頃には国内向けのアップルのiBook Storeがオープンするだろうと予想しています。
夏頃にはこうした目に見える動きが予想されることから、いまの段階でこれらを先取りしたいと考える企業や個人がEPUBに注目し、いまから情報収集や実験的な製品の発表をはじめているのです。
ただし前述のリフローのように、どのデバイスで見ても美しいレイアウトを実現するようなEPUBを作成するのは現時点でかなり難しいといわざるを得ません(iPad限定など画面サイズと電子書籍リーダーを決め打ちしてしまえば、きれいなレイアウトが可能です)。レイアウトをきれいに見せたいならばPDFやアプリ化してしまう方が優れており、EPUB 3が商業的な電子出版で本格的に使われだすには、まだしばらくは電子書籍リーダーやデバイス、そして書籍製作の3つすべての進化と試行錯誤のための時間が必要ではないかと考えています。
(情報開示:EPUBの動向をこうして昨年から記事にしていたところ、JEPA(日本電子出版協会)によるEPUB関連の活動を手伝ってほしいと依頼があり、少し手伝っているところです。3月22日のJEPAの成果報告会にもちょっとだけ登場します)
参考記事
慶應義塾大学SFC研究所、KADOKAWA、講談社、集英社、小学館、出版デジタル機構は、共同で慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)に、未来の出版に関する研究を行う 「Advanced Publishing Laboratory」(APL)を設置することで合意したと発表しました。
Webブラウザを用いJavaScriptで実装をしたEPUB 3リーダーが相次いで公開されました。
Chrome 10には、電子書籍のEPUB 3で策定が予定されている日本語の縦書きとルビ、圏点などの機能がすでに実装されています。