ソフトバンクとオリコがAndroidスマートフォンとNFCで決済サービスの実証実験
(本記事は、ゲストブロガーのITジャーナリスト 星暁雄氏による投稿です)
Androidスマートフォンと近距離無線通信のNFC(Near Field Communication)を利用したモバイル決済サービスの実証実験が2011年1月中旬から始まった。実験の主体となるのはソフトバンクモバイルとオリエントコーポレーション(オリコ)である(オリコの発表資料、ジェムアルトの発表資料)。このほか、Master Card、クレディセゾン、共同印刷などが実験に参加する。
この実証実験では、オランダに本社を置くGemalto社(ジェムアルト)社のソリューションを採用する。NFCアンテナが付いた専用のUSIMカード(ジェムアルト社の「N-Flex」)をAndroidスマートフォンに装着して使い、セキュアな決済のための情報のやり取りをOTA(Over The Air)で完結させるため、ジェムアルト社のサーバ側ソフトTSM(Trusted Service Manager)「Allynis」を通信事業者とカード事業者にそれぞれ配置して運用する。
市販中のHTC Desire IIを利用して実証実験
実証実験に使用するAndroidスマートフォンは、すでに発売中のHTC Desire II、搭載OSはAndroid2.2である。注目したいのは、すでに市販中のスマートフォンを採用していることだ。つまり、技術的には現行機種でもNFCによるモバイル決済サービスを利用可能なのだ。
現行機種でNFCを利用するために使う「NFCアンテナ付きUSIMカード」は、この写真のような形状をしており、USIM本体より大きなアンテナがフラットケーブルでつながっている。このフラットケーブルとアンテナ部分を、スマートフォン内部の蓋とバッテリーなどの間の隙間に潜り込ませる形となる。
現行機種にはNFCのアンテナなどが搭載されていないため、N-FlexのようなNFCアンテナ付きUSIMカードが必要になるのだが、今後はNFCを標準搭載したスマートフォンが増える見通しだ。Androidスマートフォンでは2010年12月発売のNexus SではNFCアンテナを搭載している(関連記事)。このようなNFC搭載スマートフォンでは、アンテナ付きではない通常の「NFC対応USIM」を装着して専用アプリを導入すれば、NFCによるモバイル決済サービスを利用できるようになる。
すでに海外ではNFCによるモバイル決済が開始されている
NFCによるモバイル決済サービスは、すでに開始されている。ジェムアルト社のソリューションを用いたモバイルNFC決済のサービスは、タイでは2010年7月より商用サービスに投入済みという(ジェムアルト社の発表資料)。発表資料には、「銀行で携帯電話を受け取り、すぐ携帯NFCサービスを利用できる」とある。タイのサービスでは、セキュア決済のためのサーバ(TSM)は台湾のセンターに置かれている。
ジェムアルト社によれば、今回のソフトバンクモバイルとオリコの実証実験は「複数のクレジットカード口座(オリコとクレディセゾン)から選択してモバイルNFCで決済するサービスとしてはアジアで初めて」としている。
日本国内でのモバイルNFCの事例として、KDDIが2010年5月から12月にかけてNFC搭載携帯電話の実証実験を実施している(KDDIの発表資料、ジェムアルトの発表資料)。今回のソフトバンクモバイルの実証実験と同じく、オリコやクレディセゾンが参加し、さらにアイワイ・カード・サービス、じぶん銀行、JAL、ANA、トヨタ自動車、TOHOシネマズなど幅広い事業者が参加している。ただし、KDDIが行った実証実験の対象はスマートフォンではなく、KDDIが従来から採用しているBREWプラットフォームに基づく端末である。端末は東芝が開発し、ソフトバンクと同じジェムアルト社のソリューションを適用している。
このKDDIと、今回実証実験行うソフトバンクは、韓国SK Telecomと、NFCサービスに関して協力していくとの発表を行っている(発表資料)。つまり今回の実証実験は、韓国の事業者との提携を視野に入れたものと考えられる。NFCによるモバイル決済サービスは今後世界中で広まりそうだ。
おサイフケータイとNFCの勢力争いになるか
NTTドコモのNFCへの取り組みを見ると、FeliCa搭載のフィーチャーフォンで動く「iアプリ」を使いNFCのタグを読み取る「iCタグリーダー」を提供中である(発表資料)。ただし、KDDIやソフトバンクのような決済サービスも含む大がかりな実証実験の発表はまだない。
日本国内では、FeliCa搭載の携帯電話向けサービス「おサイフケータイ」が普及している。ただ、NFCのサービスは世界中で広がり、日本の事業者も無視できなくなるだろう。日本でも、NFCによる決済サービスと、従来からのおサイフケータイが勢力争いをするようになるかもしれない。
あわせて読みたい
客が本気にならないといいシステムができない。東証arrowhead成功の鍵とは ~ Innovation Sprint 2011
≪前の記事
「10分でスクラム」、アジャイル開発の「スクラム」に興味がわいた方へ